「天晴」塾~大学受験国語~

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「天晴」塾 2023年度東大国語第4問(文科専用問題)

2023年度東大国語第4問(文系専用問題 20点)解答解説
◆本文展
★Aグループ(+)・・・筆者の主張内容
①段落「特殊な、具体的な経験の言葉」

   「それぞれのもつとりかえしのきかない経験を、それぞれに固有なしかたで言葉 

   化してゆく」
②段落「「平和通り」「文化通り」という二つの街路の名」

   「日々の光景のなかに開かれた街路の具体的な名」
④段落「その言葉の一人のわたしにとっての関係の根をさだめてゆく」

   「言葉に対する一人のわたしの自律」(傍線部イ)
   「言葉を一人のわたしの経験を入れる容器」
⑥段落「言葉というものを・・・それによってみずから疑うことを可能にするもの」

   「わたしたちの言葉がみずから「差異の言葉」である」
⑦段落「たがいのあいだにある差異をじゅうぶん活かしてゆけるような「差異の言  

   葉」

   「言葉とはつまるところ、一人のわたしにとってひつような他者を発見する 

   こと」

   「避けがたくじぶんの限界をみいだす」

   「一つの言葉は、そこで一人のわたしが他者と出会う場所ある」(傍線部エ) 

   「何がちがうかを、まっすぐに語りうる言葉」
★Bグループ(-)・・・筆者が否定する内容
①段落「「公共」の言葉や「全体」の意見というレベルに抽象」

   「ただ「そうとおもいたい」言葉」
②段落「「平和」も「文化」も・・・抽象的なしかたで」

   「観念の錠剤のように定義されやすい」(傍線部ア)
④段落「「そうとおもいたい」言葉にじぶんを預けてみずからあやしむ」

   「「そうとおもいたい」言葉にくみする」

   「言葉を社会の合言葉のようにかんがえる」
⑤段落「たがいにもちあえる「共通の言葉」」

   「「公共」の言葉、「全体」の意見というような口吻をかりて合言葉によって

   かんがえる」(傍線部ウ)

   「合言葉としての言葉は、その言葉によってたがいのあいだに、まずもって敵か    

   味方かという一線をどうしようなく引いてしまうような言葉」

   「言葉を合言葉としてつかって・・・姿勢が社会的につくられてゆく」

   「言葉というものを先験的に、不用意に信じきる」
⑥段落「それを信じるもの」

   「わたしたちの今日の言葉の大勢」

   「他者について非常にまずく、すくなくしか語ることのできない言葉」

*以上のような対立軸を鮮明にさせて、設問に取りかかる。
A=自分に固有の、具体的な、自他の差異を自覚しつつ他者と関係を築いていく言葉
B=既存の、共通な、抽象的な、仲間内の合言葉によって他者を排斥するような言葉)
  
◆設問解説
(一)5点
 第1意味段落(1~4段落)。傍線部はBグループの内容なので、「観念の錠剤」を「全体的で抽象的」と置き換え、「定義されやすい」を「社会で通用しやすい」と説明し、さらにAグループ「個々の特殊な具体的な経験の言葉」と対比させて解答する。

 解答の大枠は、「言葉がAから切り離され、Bのようになりがちである」となる。
 1行30字程度であることを勘案し、60字程度で解答を作成する。

解答例
 言葉が個々の具体的な経験から切り離され、深く理解されないままに社会で通用しやすい抽象的で単純な意味に固定されがちだということ。(62字) 

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 言葉が固有の具体的経験と切り離され、内実の不明瞭なまま社会で通用しやすい抽象的で単純な意味に固定されがちだということ。(59字) 

〈K予備校〉
 個々の具体的な経験と切り離され、全体的で抽象的な理念・枠組みとなった言葉は、深く理解されないまま自明なものとして受容されやすいということ。(69 字) 

〈Y予備校〉
 抽象性や一般生の高い言葉は、個人的で固有な経験から切り離されて、具体性を伴わない観念的で空疎な語としてとらえられやすいということ。(65字) 

〈T予備校〉
 人の具体的な経験の裏付けを欠いたまま、人々が何となく納得する、きれいにまとめられた流通しやすい抽象的な内容を、語義として認められがちだということ。(73字)

 

(二)5点
 第1意味段落(1~4段落)。傍線部はAグループの内容なので、(一)とセットで考える。従って解答の大枠は、「BでなくてAであるということ」となる。

 「自律」の説明は、Bを鏡として考えると、「公共の、共通の、抽象的で単純な言葉」の反対ということになる。言葉の辞書的な意味にこだわりすぎる必要はない(と、思われる)。

 さらに④段落の「わたしにとっての関係の根をさだめてゆく」「一人のわたしの経験を入れる容器」の要素を反映させる。
解答例
 社会で流通する言葉を安易に用いずに、個々の具体的な経験に基づき固有の関係を築きながら、その経験を自ら言語化していくということ。(62字) 

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 既存の言葉を安易に用いるのではなく、個々人の経験に基づき固有の関係性を築きながら一つ一つの言葉を獲得していくということ。( 60字)

〈K予備校〉
 社会で流通する言葉をうのみにせずに、自己の具体的な経験のなかで出会い、その経験を各自固有の方法で言語化していく主体的な姿勢。( 62字)

〈Y予備校〉
 ある言葉を具体的な状況でどのように獲得したかという固有の経験を重んじ、独立した一人の人間として自らの言葉との関係に責任をもつこと。(65字) 

〈T予備校〉
 他者とは交換不可能な具体的経験を持つ人間の、固有の方法による努力を通じて、自身の経験と言葉が確かな結びつきを持つに至った、その人独自の言葉との関係。( 74字) 

 

(三)5点
 第2意味段落(5~6段落)。傍線部はBグループの内容。

 「口吻をかりて」とは「一見、社会全体で共有される言葉のように装いながら」ということ。「口吻」は「口ぶり、言い方」の意味。

 「合言葉」は⑤段落から要素を拾うと、「敵か味方かという一線を引いてしまう言葉」となる。

 さらに「合言葉」を使うことによって、「簡単に独善の言葉に走る」「敵か味方とい
うしかたでしか差異を見ない」とあるので、字数を考慮しつつ、できるだけこれらの要素を盛り込む。
解答例
 社会全体で共通する言葉のように装いながら、仲間内でのみ通用する言葉を用いて他者を排斥し、差異を認めない独善的な考え方に陥ること。(63字) 

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 社会全体で共有される言葉のように装いながら、じつは他者を排斥し仲間内のみで通じ合う独善的な言葉で考えているということ。(59字) 

〈K予備校〉
 敵か味方かという区別をもとに、味方にのみ通用する抽象的な言葉を社会に公認されたものとして正当化し、差異を認めない偏狭な考えに陥ってしまうこと。(71字) 

〈Y予備校〉
 社会全体で共有される言葉のように装いながら、ある言葉を認めるか否かで敵、味方を分かち、仲間内の符牒のような言葉で物事を考えること。(65字) 

〈T予備校〉
 相互理解をもたらす共通の言葉のようで実は社会を敵と味方に分断する、空疎な抽象語を安易に信じて使う者同士が結託し、独善的な思考を進めているということ。(74字) 

 

(四)5点

 第3意味段落(7段落)と本文全体から、「言葉は個々の具体的な経験から獲得されるものであり、言葉を通じて自他の差異を自覚し、他者との関係性を築きながら、自己の限界も見出す」という内容を解答する。

 60字程度に圧縮し、最後に傍線部に対応した解答表現になっているか確認する。
解答例
 言葉は個々の具体的な経験から獲得され、言葉を通じて自他の差異を自覚し、自己の限界を見出しながら他者との関係を構築するということ。(63字) 

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 人は本来、言葉を通し自他の間にある様々な差異を直視することで、自己の限界を見いだし他者と向き合い生きるものだということ。(60字) 

〈K予備校〉
 言葉は個々の具体的な経験にもとづくものであり、一つひとつの言葉を介して自他の差異を自覚することは、他者との関係性の構築につながるということ。(70字) 

〈Y予備校〉
 言葉はそれを通して他者との同一性を探る場ではなく、自己との差異をみいだすことによって、自己の限界や本質を知るための場だということ。(65字) 

〈T予備校〉
 経験と固有の結びつきを持つ言葉を通して、自分に必要な、共有し得ないものを持つ他者を、さらには自分の限界を見出し、相互の差異の尊重に至るということ。(73字)