「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

大学受験塾「天晴」 ~国語の入試問題解説~

 こんにちわ。大学受験「天晴」塾にお越しいただきありがとうございます。

 本サイトは国語の大学入試問題(現代文、古文、漢文)の解答と解説を行います。

講師プロフィール

 長年、公立高校で教鞭を執り、現在は予備校の講師をしています。偏差値40から東大の推薦入試指導まで、柔軟に対応します。

既存の受験サイトとの相違点

 大手の予備校発表の解答解説は、オフィシャルな立場としての発表なので、どうしても解答が難解なものになってしまいがちです。

 そこで「天晴」塾では、受験生が入試本番において緊張状態の中であることを想定し、「この程度の答案が書ければ十分だ」というレベルの解答解説を掲載します。

 手始めに今週の東大入試国語の第1問の解答解説を掲載しました。御覧下さい。

backbeat.hatenablog.com

大学受験の向き合い方~「引き算」の学習計画

 こんにちは。大学受験「天晴」塾のbackbeat-akaです。

 今日は新学期がスタートしたので、学習計画の立て方についてお話しします。

 このお話は、高校3年生、浪人生などの「大学受験生」を想定しています。

 

 来年、大学受験受験を控えている人にとって、受験勉強は「引き算」です。

 共通テストや国公立大学の二次試験の実施日、私立大学の入試日程は既に決定してます。準備が間に合わないからといって入試日を先延ばしにはできません。

 したがって、これからやれることは限られています。だから「引き算」なのです。「あれもやろう、これもやろう」と思っても、時間が足りません。

 期限の決まっている試験日までに、やれることを精選して無駄なく計画・実行しなくてはいけません。

 合格するかどうかは能力の問題ではありません。準備にどれだけの時間を確保できるかという、時間の問題なのです。タイムマネジメントの力、と言ってもいい。

 

 2025年度の共通テストは1月18日、19日です。今日(2024年4月23日)の時点で、残り270日、6480時間です。

 食事や睡眠など生命維持に必要な時間を1日ざっと10時間と見積もれば、それ以外の時間をすべて勉強に充てたとしても、1科目あたり2日間ほどしか勉強する時間は残されていますん。

 合格するためには長期(7月まで)、中期(1ヶ月)、短期(1週間)それぞれの計画が必要です。紙に書いて視覚化し、終わった箇所は線で消していきましょう。

 

 大学入試の9割以上は知識(とその組み合わせ)を問うています。基礎的な事項(丸覚えするもの)は遅くとも8月中には1周、仕上げておいてください。

 古文なら助動詞を中心とした文法事項、形容詞を中心とした単語の知識です。9月以降の暗記は2周目と考えてください。

 

 合格する人というのは、試験場で問題を見たときに、覚えた知識を記憶のアーカイブから瞬時に取り出し、他の知識と組み合わせてアウトプットできる人です。

 いつでも取り出せる状態にしておくためには、知識の出し入れを頻繁に行うことです。

 自分の持ち物でも、家のどこかの引き出しにしまい込んだまま、長い間取り出さなかったものは、どこにしまったかすぐには思い出せないことがあります。知識もそれと同様です。

 ですから、基礎的事項は試験までに3周は繰り返す必要があるでしょう。「何度も繰り返す」 これが知識定着の王道です。もちろん、意味をしっかり理解してから、であることは言うまでもありません。

 

 このように聞いてくると、本番までに時間のないことが分かると思います。もはや、のんびりスマホで動画を眺めている時間はありません。無駄は省きましょう。

 もちろん、ONとOFFの時間はきっちり分けてください。リラックスする時間も必要ですから。

 

 丸暗記に最適な時間帯は、夜の21時以降がいいでしょう。

 単語帳片手に、部屋の中を歩き回りながら覚えていく。

 または、寝る前にベッドの中で単語帳を見る。(「読む」のではなく、「見る」だけで結構。)

 そのまま寝落ちてもいいですが(お部屋の電気は消してね)、朝目覚めたら、ベッドの中で再び、昨夜寝る前に見た単語をもう一度眺める。

 この方法が意外と定着します。寝る前に眺めるのをスマホから単語帳に切り替えてください。

 

 以上、おおまかな勉強の仕方についてお話ししました。

 今後の入試問題解説は、早稲田・文/教育などを予定しています。いつになるか未定ですが。

 その前に、国語の勉強のやり方を掲載するかもしれません。

 気長にお待ち下さい。不定期ですみません。なにとぞご寛容賜りたく存じます。

 

 

 

 

2024年度 早稲田大学商学部 国語解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」塾 代表のbackbeat-akaです。

 今回は2024年度早稲田大学商学部の問題を一括掲載します。

 商学部の問題は年度によって難易度の差が激しいのが特徴です。

 現代文にその傾向が顕著で、今年度の問題は、正解を選びがたい設問が随所にみられ、その意味で「難問」といえるでしょう。

 大学発表の正解に「???」と首をひねる問題が多々ありました。

 この問題を完答(正解)するのはかなり大変です。

 まあ、受験生にとってはそんなことも言っていられないのですが。

 一般的に言って、社会科学、経済系の先生が作成する(と思われる)現代文の問題は、作成者の専門へのこだわりが強すぎて、受験生がついて行けない傾向があるように思います。

 古典は昨年から古文と漢文がそれぞれ独立した形で出題されています。

 難易度は現代文ほど高くはないと思います。

 従って商学部の対策としては、試験時間が60分なので、まず古典を30分以内で解いて、そのあと現代文を30分で解く、というのが得策でしょう。

 いかに古典を早く仕上げるか、がポイントです。

本文マーキング①

本文マーキング②

本文マーキング③

 

2024年 早稲田大学商学部 国語解答解説
第一問(現代文) 予想30点  (問七は各4点 その他は各2点と予想)
                             
◎本文展開(マッピング
第一意味段落(①~④) 
①    1〈進歩としての歴史〉・・・ローカルな社会の地形
   ↓
  欧米列強の非西欧世界への進出=植民地支配/それに対抗する近代化/地球規模で

  の政治、経済、文化的交流
   ↓
    2文字通りグローバルに共有される世=界の体制と社会の地形となった
    ↓(だがしかし)
    〈進歩としての歴史〉は・・・
   理念=グローバルに共有される
        現実=近代におけるユートピア的な集合表象(マンフォード)
                  =国民国家=ローカルな表象を媒介として追求されていった

② 3国民や国家がユートピアである(=A)とは、奇妙なこと
      ↓(なぜならそれは)
    (十九世紀から二十世紀の社会における確固たる現実として)
  国民や国家がユートピアであるとは、〈あること〉だったもの(=B)と思われる

  から
   ↓
③ マンフォードの主張
  国民国家=国民的ユートピア(=A)   
     =ブルジョア階級の消費生活の理想の追求/労働者たちが生産に従事・・・矛盾対立
   ↓ 
    巨大都市を媒介項として結びつけ、編成
    国民的、国土規模の新たな社会の実現を目指すもの
      ↓(それは)
  〝くに〟や地域を超えて人為的に設定された境界内の国土/人工の社会
      ↓
  国民国家ユートピア(=A)・・・
  〈あること〉の問題を解決するための〈あるべきこと〉(=A)として人工的に作

  り出そうとしたもの

④ (事実・・・例)
  二十世紀初めの人類社会
  国民や国民国家であること
       いくつかの国々・・・すでに〈あること〉だった(=B)
       多くの諸民族・・・目指されるべき〈あるべきこと〉(=A)
         すでに国民国家化した諸国・・・未来にむけて目指すべき〈あるべきこと〉(=A)

第二意味段落(⑤~⑧)                                                             
⑤ 近代政治史におけるユートピア                               あるべきこと
   ・・・国民国家を社会の地形における空間的な枠組みとして〈 A 〉  の実現を目

      指していった
↓(さらに)
⑥ 二十世紀半ば
  国民国家というユートピアの変奏が存在
  (帝国主義植民地主義全体主義ファシズム大日本帝国/八紘一宇/第三帝 

   国)                                  ↓                                               
⑦ 事実上はディストピア=誇大妄想的なユートピア・・・潰えた
  ↓
  自律した国民、国民国家となることが目指されるべき〈ユートピア的なもの〉
↓(このように)
⑧ 近代的世界において
  ネーション/国民国家・・・〈あること〉(=B)ではなく〈あるべきこと〉だった
     ↓(そしてまた)
    いったん国民国家が成立した市域や集団においてもそれは
 〈あるべきこと〉(=A)として追求される=遂行的な社会的事実
    ナショナリズム・・・〈あるべきこと〉(=A)として国民や国民国家を目指し続ける

                    こと
   ⇔  すでにある(B)国民や国民国家に排他的な価値を見出す

第三意味段落(⑨)
⑨ 第一次世界大戦第二次世界大戦・・・民族・国民・国民国家たろうとする集団の対  

                   立や生存権の拡張をめぐるもの
  =十九世紀後半~二十世紀・・・
    4古典的な意味での地上のユートピアの存在=〈他の空間〉が存在する余地は失われ

                        ていた
       ⇔二十世紀半ばまで・・・
  植民地支配や帝国主義的侵略=大国や先進国による国民国家の空間的拡張が行われ

                ていた
      ↓
    有限な地球に併存する国民国家
   ・・・未来における〈あるべきこと〉(=A)の実現を目指す/資源と領土の争い

     /戦争や紛争

第四意味段落(⑩~⑪)
⑩ 5ヨーロッパにおいてナショナリズム ・・・世界に意味とリアリティを与えるもの=

                     文化的な重要性
      ↓(それは)
  6西欧においてユートピア文学が成立し、流行し、そこで語られるユートピアのあ

   りかが、〈他の空間〉(=土地)から〈他の時間〉(=未来)へと転移していっ

   た時代の中におさまっている                              

      国民国家・・・社会神話としてのユートピア(マンフォードの指摘)
      ↓(さらに重要なこと)
    ナショナリズムの誕生と流行
    スイス人に特有の病として発見されたノスタルジア(=過去)が他の諸国民にも流行
      ↓(その対象が)
  故郷という〈他の空間〉(-)から過去という〈他の時間〉(+)へと移行してい

  った時代と重なる
⑪ 7十八世紀にノスタルジアがスイス人以外の多くの民族・国民に見出されるように

   なると、それは祖国を離れた兵士たちの士気を阻喪させるという意味で、愛国心

   ナショナリズムにとって公共的な脅威であると見なされることがある一方で、

   他方では強い愛国心ナショナリズムの表れとしても理解されるようになってい

   った
      ↓
    それぞれの民族や文化の固有性と強く結びついたものとしても主張されていった

第五意味段落(⑫~⑬)
⑫ ベネディクト・アンダーソンの引用
    ↓
⑬ 国民国家が「歴史的」である
  ↓(それが)
  人類史において(G普遍的)なものではなく、
    ↓
    近代における発明であり、流行である
    ↓(だがその一方で)
    国民国家・・・過去から無限の未来に向けて連続して存在するものとして想像される=

       歴史的な存在
    歴史的・・・近代という特定の歴史的時代に成立した
       その時代に成立した特定の体制と不可分のもの

第六意味段落(⑭)
⑭ 近代化以前
  諸文化・諸文明・・・それぞれに異なる世=界の体制の下にある、異なる社会の地形

            の中にそれぞれを定位させていた
   ↓(だが)
  過去~現在~未来へと進歩していく/衰退していく
     =社会の時間的地形・・・あらゆる人間に妥当する普遍的な〈人類史としての世界

              史〉
     ↓(その一方で)
    8そうした過程は現実には、地球上の特定の土地や文化(=西欧)と結びついた人間

   の集団によって生まれるものとして了解され、また現象してきた
      ↓
    ネーションや国民国家・・・
    人類の進歩という普遍的な過程・・・
     =地球上の特定の領域(=西欧)に対する帰属性と主権をもった排他的かつ特殊な

   主体によるもの
      地理的世界の中に位置づける
      ↓(その時)
    〈進歩としての歴史〉・・・それぞれの国民と国民国家の進歩の歴史
              人びとが自らの国民性を生き、発現させ、国民としての国

              家を建設する歴史となる 
第七意味段落(⑮)
⑮ 〈進歩としての歴史〉における〈未来〉というユートピア
    =人間と社会を帰属していた場所から社会的、物理的に切り離していく近代化の過程
    =〈あるべきこと〉へと向かう過程
   ↓(だが)
    〈いま・ここ〉に〈あること〉を支えてきた伝統が進歩によって解体されることへの

   不安
        ↓
  進歩への対抗ユートピアとしての保守主義の理念を生み出す
  進歩主義としてのナショナリズム・・・
      未来のユートピアと共に進む共同体としてネーションと国民国家を想像することを

   可能にする
    保守主義としてのナショナリズム・・・
   神話的な過去から続く歴史と伝統の連続性の中で〈いま・ここ〉を了解すること

   も可能にした 
   ↓
  9かくしてネーションと国民国家は、進歩主義的なユートピアと、進歩主義への反

   動としてのノスタルジアを結びつける


◎設問解説
*例年、短めの記述問題が出題されていたが、昨年度以降、出題されなくなった。
*問題文は、近代において国民国家が、進歩主義ユートピアとなる一方で、保守主義

 のノスタルジアの対象ともなることを論じている。文章中に登場する語句の定義が不

 十分なまま設問の対象となっていたり、解答を特定しにくい設問も多くあり、大学発

 表の解答に疑問を呈さざるを得ない設問も見られた。そういう意味では難問と言える

 だろう。

問一(記述・漢字)
 a 率  b 希(稀)少  c  定位

問二(マーク・選択)
*第①段落の内容把握問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
②    〈進歩としての歴史〉
   欧米列強の非西欧世界への進出=植民地支配
    ↓
   それに対抗する近代化
    ↓
   地球規模での政治、経済、文化的交流
  =歴史をより進んだ状態へ変化する過程ととらえる近代の理念・・・解答要素(X)
    ↓
   文字通りグローバルに共有される世=界の体制と社会の地形となった
    〈進歩としての歴史〉=近代におけるユートピア的な集合表象
     国民国家=ローカルな表象を媒介として追求されていった
   =国民国家という空間的、時間的な世界認識が世界的に広まった・・・解答要素(Y)
*この程度しか本文からは拾えない。
 イ・・・「世界をグローバルな体制として認識するローカルな思想」が意味不明。

     「ロ ーカルからグローバルへ」が正しい。
 ロ・・「人間がグローバル化される」という記述は本文にはない。
 ハ・・・大学発表の正解。

    前近代的な地域に対して西欧こそが進歩した地域として世界に認識されるに至  

   った」という部分について、知識としてはその通りなのだが、果たして本文から

   読み取れるのか疑問。一行目の「欧米列強の植民 地支配」という記述のみを根拠

   とするのは苦しい。
 ニ・・・「すでに現実にあった国民国家」が誤り。
 ホ・・・「非西欧世界も次々と国民国家を実現することによって」が誤り。

問三(マーク・選択)
*傍線部理由説明。第②段落~第④段落の展開を追いかける。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
② 国民や国家がユートピアであるとは、奇妙なこと
      ↓(なぜならそれは)
  国民や国家がユートピアであるとは、〈あること〉だったものと思われるから
③ 国民国家=国民的ユートピア(=A)
 =
     ・国民的、国土規模の新たな社会の実現を目指すもの
  ・人為的に設定された境界内の国土/人工の社会
  ・〈あるべきこと〉(=A)として人工的に作り出そうとしたもの
④ 国民や国民国家であること
       いくつかの国々・・・すでに〈あること〉だった(=B)
        すでに国民国家化した諸国・・・未来にむけて目指すべき〈あるべきこと〉(=A)
  ↓
*つまり、国民や国民国家ユートピアであるとは、すでに〈あること〉(=B)と認

 識されており、それが進歩主義ユートピア(=A)と矛盾するから「奇妙」なので

 ある。
 イ・・・内容は本文と相違ないが、傍線部の答えになっていないので誤り。
 ロ・・「イ」と同様。
 ハ・・・「ありもしない理想的な国家であるかのように作り上げようとした」が本文に

     内容がなく、話題として誤り。
 ニ・・・消去法でこれが正解。

             ただし、第③段落冒頭部分を「分断された社会や多くの問題を抱えた国」と言

    っていいのか疑問。傍線部の「奇妙」の説明として(A)との対比説明が不十

            分。これが記述答案だったら正解にはならないだろう。

問四(マーク・選択)
*大学から、「試験前に解答用紙に不備があることが判明したため、解答対象から外し

 ました」との発表あり。設問は空欄AからFの中で、「あること」が入る空欄一カ所

 を問うもの。正解は「B」と思われる。

問五(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第⑨段落の内容を押さえる。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
⑨ 古典的な意味での地上のユートピアの存在=〈他の空間〉が存在する余地は失われ

                       ていた
 「他の空間」=大国や先進国による国民国家の空間的拡張
                〈あるべきこと〉の実現を目指す/資源と領土の争い/戦争や紛争
  ↓
*ということは、「古典的な意味での地上のユートピア」は「他の空間」であり、それ

 は他国の領土を侵略することであることが分かる。「古典的」というのは十九世紀後

 半から二十世紀にかけての帝国主義による領土拡大のことを言っている。
 イ・・・「想像の」が誤り。現実に起こったことである。
 ロ・・・「誇大妄想」が誤り。「イ」と同じ理由。
 ハ・・・「未来を先取り」の方向が誤り。
 ニ・・・正解。「ユートピア」の説明として「理想郷」も問題ない。

問六(マーク・選択)
*傍線部理由説明問題。第⑨段落後半と第⑩段落の内容を押さえる。「ナショナリズ

 ム」「ユートピア」「ユートピア文学」の共通点を考える。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
⑨ 二十世紀半ばまで・・・
  植民地支配や帝国主義的侵略=大国や先進国による国民国家の空間的拡張が行われ

  ていた
⑩ ヨーロッパにおいてナショナリズム
      ↓(それは)
  西欧においてユートピア文学が成立し、流行し、そこで語られるユートピアのあり

  かが、〈他の空間〉から〈他の時間〉へと転移していった時代の中におさまってい

                                     
    スイス人に特有の病として発見されたノスタルジア(=過去)が他の諸国民にも流行
      ↓(その対象が)
  故郷という〈他の空間〉から過去という〈他の時間〉へと移行していった時代と重

  なる
 ↓
*論点を整理すると
1 ヨーロッパが帝国主義ナショナリズム)によって空間的拡張を行い、それによっ

  て「他の空間」(=故郷)を失った
2 ユートピア文学で語られるユートピアのありかを「他の時間」(未来や過去)に求

  めるようになった
3 特に文学を通じてノスタルジアという過去の時間に目が向けられるようになった
*以上が解答の要素となる。
 イ・・・大学発表の正解。

   ユートピアをもはや自国の未来に求めるしかなくなっていた」という記述は、

   「ユートピア」「他の時間」を「未来」のみに限定し、「過去」(ノスタルジ

   ア)に言及してない。記述問題だとしたら非常に不十分な解答と言える。
 ロ・・・「イ」と同様の理由で「他の時間」を「過去」にのみ限定している点が誤り。

     「未来」「過去」両方の要素が必要。
    ハ・・・「キチの再発見がヨーロッパ人に特有の病」が方向誤り。
 ニ・・・「現実には手に入らなくなったユートピア」が方向誤り。

問七(記述・抜き出し)
*抜き出し問題。第⑩段落後半と第⑪段落が解答の根拠となる。「それぞれ兵士たちが

 何を求めたからか」が問われているが、本文からは「スイス人に特有の病であるノス

 タルジア」に関する十分な説明が読み取れないので、傍線部の意味が分かりにくく

 なっている。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
⑩ ナショナリズムの誕生と流行
    スイス人に特有の病として発見されたノスタルジア(=過去)が他の諸国民にも流行
 故郷という〈他の空間〉(-)から過去という〈他の時間〉(+)へと移行していっ

 た
⑪ 十八世紀にノスタルジアがスイス人以外の多くの民族・国民に見出されるようにな

  ると、それは祖国を離れた兵士たちの士気を阻喪させるという意味で、愛国心やナ

  ショナリズムにとって公共的な脅威であると見なされることがある一方で、他方で

  は強い愛国心ナショナリズムの表れとしても理解されるようになっていった     
ノスタルジアが・・・
  X「祖国を離れた兵士たちの士気を阻喪させる」(-)
   ↑
 兵士たちが求めていたものは「祖国」であることが分かるので、
 ⑩「故郷という〈他の空間〉」・・・正解
  Y「強い愛国心ナショナリズムの表れとしても理解される」(+)
    ↑
  兵士たちが求めていたものはノスタルジア=「過去という時間」であることがわかる

  ので、
  ⑩「過去という〈他の時間〉」・・・正解
*Yについては、第⑮段落「過去から続く歴史と伝統の連続性」も解答候補になる。

問八(マーク・選択)
*空欄補充問題。空欄前後の文脈を捉えれば簡単。選択肢をヒントにして、「近代にお

 ける発明であり、流行である」との対比を考える。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
⑬ 国民国家が「歴史的」である
  ↓(それが)
  人類史において(G)なものではなく、
             ⇔
     近代における発明であり、流行である
*「近代における」と時間を限定しているので、空欄には反対の意味の「ロ 普遍的」が 

 入る。「ニ」だと表現が矛盾する。 
問九(マーク・選択)
*傍線部説明問題。第⑬段落~第⑭段落の内容を押さえる。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
⑬ 国民国家・・・過去から未来に向けて連続して存在するもの=歴史的な存在
     歴史的・・・近代という特定の時代に成立した/特定の体制と不可分のもの
 ↓
⑭ 社会の時間的地形・・・過去~現在~未来へと進歩/衰退
  あらゆる人間に妥当する普遍的な〈人類史としての世界史〉
     ↓(その一方で)
    そうした過程は現実には、地球上の特定の土地や文化(=西欧)と結びついた人間の

 集団によって生まれるものとして了解され、また現象してきた
    人類の進歩という普遍的な過程・・・
     =地球上の特定の領域(=西欧)に対する帰属性と主権をもった排他的かつ特殊な

   主体によるもの
      ↓(その時)
    〈進歩としての歴史〉・・・それぞれの国民と国民国家の進歩の歴史
              人びとが自らの国民性を生き、発現させ、国民としての国

              家を建設する歴史となる 
  ↓
*つまり傍線部は、「人類の進歩」「進歩としての歴史」という理念が普遍化される過 

 程が、現実には特定の土地や文化(=西欧の国民国家)と結びついた集団によって国

 民国家を建設する歴史となるよう発現させてきた、という意味である。このことを述

 べている選択肢を検討するのだが、またもや怪しい選択肢ばかりである。
 イ・・・内容はそのとおりかも知れないが、本文では述べられていない。
 ロ・・・大学発表の正解。
    ただ、西欧が理想の世界という「共通認識ができた」という内容を本文から読み

   取るのは困難である。「共通認識ができた」だけでは、「現実に」ある「現象」

   の説明とはならない。
    ハ・・・「西欧の~衰退が」が誤り。 
 ニ・・・第①段落末の「理念としては~〈進歩としての歴史〉は~国民国家というロー

     カルな表象を媒介として現実には追求されていった」という一文を踏まえ

     ば、これが正解でもいいのではないか。
 *問二の正解が大学発表のように「ハ」であるなら、「ニ」が正解となるはずである。
       
問十(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第⑮段落の内容を押さえる。「ユートピア」と「ノスタルジ

 ア」との結びつきをとらえる。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
⑮ 〈未来〉というユートピア
    =人間と社会を帰属していた場所から社会的、物理的に切り離していく近代化の

     過程
     ↓(だが)
    伝統が進歩によって解体されることへの不安は、進歩への対抗ユートピアとしての保

 守主義の理念を生み出す
      ↓
  未来のユートピアと共に進む共同体としてネーションと国民国家を想像=進歩主義
  神話的な過去から続く歴史と伝統の連続性の中で〈いま・ここ〉を了解する=保守

  主義
    ↓
  かくしてネーションと国民国家は、進歩主義的なユートピアと、進歩主義への反動

  としてのノスタルジアを結びつける
  ↓
*「ユートピア」=進歩主義/理想/未来/近代化の過程/〈あるべきこと〉
   「ノスタルジア」=保守主義/過去から続く歴史と伝統の連続性/〈あること〉/        〈いま・ここ〉
国民国家は、この両面を持っている、という主張である。
 イ・・・「それを幻想と呼ぶ力学を必然的に引き起こす矛盾したシステム」の部分の方 

     向が誤り。
 ロ・・・「地球環境を変えていく」と限定されてはいない。「過去の神話を重視」も方

             向が誤り。
 ハ・・・「特定の国が主導することへの反発」「神話こそが歴史」の話題が誤り。
 ニ・・・正解。


第二問(古文) 予想22点 (問十三のみ4点 その他は各2点と予想)
*「発心集」は鴨長明による鎌倉時代の仏教説話集。競い合う二人の僧侶のエピソード

 と、中国の帝と盗賊の話。

問十一(マーク・選択) 
*空欄補充問題。空欄Aの直前の「このこと」とは前行の「」と西尾の聖が言ったこと

 を指す。身体に火を付けてでも東尾の聖に勝ちたいという西尾の聖の言葉を
(A)人・・・「尊し」として涙を流す
(B)者・・・「こは何事ぞ。いと本意ならず。妄念なりや。定めて天狗などにこそなる

       べかり(C)」と思う。
*「(A)人は~」「おのづからもれ(B)者は~」という形になっているので、AB 

 は対比的な語が入る。
正解:A=「ホ」、B=「ハ」
*「ロ」「ニ」の組み合わせについて。A=「ロ」は悪くないが、B=「ニ」だとする

 と、後に続く「思はずに」「こ(=「今ぞ東尾の聖に勝ちはてぬる」)は何ごとぞ」 

 とのつながりがおかしくなる。             

問十二(マーク・選択)
*指示語の問題。問十一と連動している。西尾の聖の「東尾の聖に勝った」という発言

 に対して「何事ぞ」「いと本意ならず。妄念なりや」と否定的に述べていることから

 わかる。
正解:「ニ」

問十三(記述・文法)
*係り結びの問題。空欄の上に係助詞「こそ」があるので、文末は已然形になる。落と

 してはいけない問題。
正解:「ぬれ」

問十四(マーク・選択)
*理由説明問題。傍線部の口語訳は次の通り。
  「(この袋の中にある物などを全部取り出して)、すべてもとどおりに置いて、そっ

 と(皇帝の寝室を)出で行こうとする」・・・この理由を、盗人の言葉から探してい

 く。
 ↓
*傍線部の後、皇帝が盗人に問いかける。
  「『お前は何者だ。どうして他人の物を奪い、また、どういう気持ちで盗ったものを

  わざわざ返すのだ』とおっしゃる」 ↓
*その後、盗人の言葉があり、この内容を追いかけていくと、言葉の最後に
 「『せめては、かやうの物をも食し侍りぬべかりけり。由なき心を発し侍りけるもの

 かなとくやしく思ひて』」
 (せめて、このような灰でもなんでも食べましたら良かったのだなあと気づきまし

   た。盗みなどつまらない心を起こしてしまいましたなあと後悔しております。) 
*と述べているので、ここが解答の根拠となる。
正解:「ニ」 他の選択肢はすべて口語訳が誤り。

問十五(マーク・選択)
*理由説明問題。設問文の「帝の寝所に」の部分が太字で強調されている。これは本文

    解釈のヒントになっている。
*盗人の言葉から、理由となる部分を探していくと
 「なみなみの人のものは、主の嘆き深く、取り得て侍るにつけて、ものぎよくも覚え

 侍らねば」
  (一般の人の物は、私が盗むと持ち主はは暮らしに困り嘆きが深く、盗むことができ

 たにしましても、潔癖だとも思いませんので) 
  ↓
*つまり庶民の物を盗むのは忍びないと言っている。さらに、この後
 「かたじけなくもかく参りて」
   (畏れ多くもこのように(皇帝陛下のもとへ)参上して)
  ↓
*盗人は、大きな財産をもっている皇帝から盗むほうが、貧しい一般庶民から盗むより

 道理にかなっている、と考えたことが分かる。
正解:「ロ」 「イ」は盗人の言葉と合致するが、設問の答えになっていない。

問十六(マーク・選択)
*空欄補充問題。皇帝が盗人の言葉を聞いて感動している場面である。
 「汝は盗人なれども(D)」「我、王位にあれども(E)」
   ↑
*両方とも逆接「ども」があることをヒントにして、対比表現の語を選択する。
正解:D=「イ」 E=「ロ」

問十七(マーク・選択)
*人物判定問題。まず、傍線部を含む文の口語訳を検討すると
  「しかれば、上人の身命を捨てしも、他に勝れ、名聞を先とす。貧者が財宝を盗める

  も、清くうるはしき心あり」
 (このようであるので、上人が命を捨てたことは、他の者より勝とうとし対面を優先

     している。貧しい者が財宝を盗んだのも、汚れのない誠実な心がある。)
  ↓
*以上から、「上人」=西尾の聖、「貧者」=盗人であると判断できる。これも落とし

 たくない問題。
正解:3「イ」 4「ホ」


第三問(漢文) 予想8点 (各2点と予想)
*問題文は清代の随筆。かつて商学部は、漢詩と漢文が交互に出題され、古文との融合

 問題が主流であったが、近年は漢文の単独問題が出題されている。漢文読解の基本で

 ある「解答は傍線部の外にある」「対句(対比)構造に留意して読む」ということを

 心がけたい。
★古文と同様に、最初にリード文、注、設問に目を通して情報を手に入れる。
★問題文には注番号が附されていないので、最初にチェックして語を囲むなどマークを

 しておくと良い。

 問十八(マーク・選択)
*空欄補充問題。                       1
  (A) 無 銭 財 自 贖、又 無 一 芸 可 供 爾 用
  ↑
*「(A)無銭財自贖」と「又無一芸可供爾用」が対句になっているので、空欄(A)

 と「又」も対句表現である。
*ここの部分の意味は、「私は(A)金銭を自分で手に入れることができず、またあな

 たに提供することができる一芸もない」となるだろう。本文一行目で「赤貧」「日行

 乞於市」と書かれていることから朱了頭は乱徒に誘われた時点で一文無しであること

 が分かる。
*そこで(A)に「既」を入れてみると、「既~、又~」という累加の並列表現(既に

 ~だけでなく、さらに~だ)が成立する。内容的にも問題ない。
正解:「ハ」
 イ「況」・・・抑揚(まして~) 

 ロ「雖」・・・逆接仮定条件(~としても) 

 ニ「仮」・・・仮定(もし~) 
 ホ「猶」・・・(やはり)

問十九(マーク・選択)
*読み方の問題。思考のプロセスは次の通り。
①問十八からわかるように傍線部は累加の並列表現に続く部分である。従って「ニ」 

 「ホ」のような禁止表現とはならない。
②累加の並列表現は「既~X~、又~Y~」のXとYが並列、類似的な構造になってい

 ることが原則なので、傍線部は「無銭財自贖」と同じ構造になっていると考える。
「可」は可能の助動詞で、直下の動詞から返って読む。従って「供すべし」と読む

 ずである。
④「供」は「爾用」から返って読む。「爾」=「あなた」なので、「爾の用に」と読む

 ことから、「ハ」が除外される。
⑤「銭財」と対応する名詞は「一芸」と推測されるので、「イ」のように「いちげいも

 なく」とは読まない。
正解:「ロ」

問二十(マーク・選択)
*返り点の問題。単純に二重否定「不~不~」の形から解答はできない。思考のプロセ

 スは次の通り。
①傍線部の前後を検討すると、
 汝 既 丐 也。饑 寒 之 困 甚 矣。従 我 去
     (あなたは既に乞食だ。飢寒の苦しみは甚大だ。私に従って行くのなら)
  不 憂 不 富 貴
  ↓
 朱 怒 曰、「我 惟 甘 饑 寒、故 丐 耳。否 則 為 竊 為 盗     胡 不 可。」
  (朱は怒って言った。「私はただ飢寒に甘んじて乞食をしているにすぎない。乞食を 

 しないのなら盗みを働くことができないことがあろうか、いや、できる。)
  ↓
*つまり、「あなたについて行き盗賊になれば、富貴になれる」という解釈が成り立

 つ。
②次に傍線部の語句を検討すると、「富貴」(=富も地位もあること)は一つの単語な

 ので、これを分けて読んでいる「イ」「ホ」は誤り。
③「ロ」は「憂へずんば富貴とならず」(心配しないのなら富貴にはなれない)と読

 め、前後の文意に合わない。
④「ハ」は「憂へ富貴とならずんばあらず」(心配ごとは富貴となれないことではな

 い)と読め、前後の文意に合わないし、意味不明。
⑤「ニ」は「富貴とならざるを憂へず」(富貴にならないことを心配する必要はない)

 と読め、前後の文脈と合致する。傍線部が盗賊の言葉であることもヒントになる。
正解:「ニ」

問二十一(マーク・選択)
*内容合致の問題。朱了頭の発言の続きを確認すると、末尾の言葉が反語になっている

 ことに注意する。
  乃 従 爾 等 作 賊 乎。
  (それならどうしてあなたたちに従って盗賊となることがあろうか、いやない。)
  ↓
*ここから、朱了頭は「盗賊になるくらいなら飢寒に身をさらしてでも乞食のままでい

 たい」と考えていることが分かる。
*この後、朱了頭は
  遂 見 害。
*つまり盗賊に殺されてしまう。そして筆者は彼について
  有 古 烈 士 風 矣。
   (古の烈士のごとき人物である。)
*「烈士」とは強い信念を持って、勇ましく活動する者のこと。
正解:「イ」
 「ハ」・・・後半の「烈士の如く飢寒を凌ぐだけで充分」が誤り。
 「ニ」・・・「窃盗行為を指弾」「自らの尊い命を絶って」「後世に名を残す」が誤

       り。

 

 

 

 

 

2024年度 早稲田大学法学部 現代文(三)(四)解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」塾 代表のbackbeat-akaです。

 前回に引き続き、2024早稲田・法の現代文を掲載します。

 法学部の現代文は大問が2題出題されるのですが、一つが非常に抽象的な文章で難しく、しかも120字~180字の記述問題を含んでいるので、90分の制限時間内に古典も含めて敢闘するのが困難です。

 いかに古典(一)(二)を早めに切り上げて、現代文に時間を費やすかが鍵となります。

 ただ、(四)の選択肢には特徴があるので、その法則に気づけば簡単に解くことができます。(詳細は問題解説を参照してください。)

 また、(四)の最後の記述問題は、それまでの設問で自分が選んだ選択肢(自分の選んだ選択肢が正しいと仮定して)の文言を利用して解答すればいいと思います。

 出題者もそれを意図しているのではないかと想像します。

(三)本文マーキング①

(三)本文マーキング②

(四)本文マーキング①

(四)本文マーキング②

backbeat.hatenablog.com

 

 

2024年度 早稲田大学法学部 現代文解説

2024年 早稲田大学法学部 国語(現代文パート) 解答解説
第三問(三)16点
                             
◎本文展開(マッピング
第一意味段落(①~③) 
①    ブルーノ(ルネサンスの哲学者)・・・コペルニクスの地動説を敷衍
  宇宙の( A )性と世界の( B )性を提唱

② ブルーノがコペルニクスから読み取ったもの
   ↓
 ・知の新たな基礎づけ=彼自身の野心的な哲学プログラムに呼応する宇宙論の素材
    ・不和と虚栄にまみれた人間社会の中で真理を語るという道徳の判例
    ↓
 (1)コスモ土ジーとモラルの二つに関して、ブルーノは自身と共鳴するものをコペ 

    ルニクスのなかに読み取った

③ ブルーノ・・・同時代の天文学の研究成果を吸収/自身の自然哲学に統合
      ↓
    ルネサンス天文学者たちが放棄しえなかった実在的な( C )の概念
      ↑
  まったくの錯覚だとして否定/宇宙が無限に広がっていることを主張(=A)

第二意味段落(④~⑨)
④ ブルーノの宇宙論
    中心も周縁斉一的な無限空間という近代的概念を明確に提起(=A)
  ・宇宙は無限に広がり
  ・どこにも中心はなく
  ・周縁もなく、
     ・そのなかに無限数の諸世界があって
  ・そのそれぞれで無限数の個物が絶え間なく生成消滅を繰り返している
      ↓
  (2)宇宙全体は存在としては一つであるため生成も消滅もしない
   ↓
  生成と消滅は、個物の観点から見られた相対的な区別にすぎない
        ↓
    宇宙の万物は存在としては一つ
    全体として果てしない連続体をなして( D )しつづけている
 ↓(この)
⑤ ブルーノの描き出した( D )の無限宇宙の姿(=A)
    =地球から恒星までを分け隔てなく含み込む均質で斉一的な無限空間(=A)
      天球概念(B)を完全に放棄して宇宙の無限性を提起(=A)
   宇宙の階層秩序(=B)を完全に否定して空間の斉一性を主張(=A)
  
 ルネサンス天文学者たち・・・拒絶反応
    ↑ 
  ( E )(=B)でなく規則もすべて相対的にすぎない宇宙(=A)・・・考えがたい 
 ルネサンス天文学者たちの考える無限宇宙

  ・・・有限(=B)の人間世界を取り巻く神的領域/天球概念(=B)
 ↓(そのような)               
⑥ ブルーノの宇宙論・・・斉一的な無限空間の概念
                            コペルニクスの地動説に負うものがある/両者の隔たりは大き

           い
↓(とはいえ)
⑦ ブルーノの宇宙論・・・コペルニクスから重要な示唆/運動と静止の相対性を示唆
            万物が果てしない連続体をなして( D )する

            ・・・相対性を極限にまで推し進めたもの
                            宇宙は閉じておらず、無限に広がっている(=A)
  ↓
⑧ ブルーノの宇宙論・・・コペルニクスの地動説をきわめて大胆に発展させた
   ↓
     ブルーノの存在論・・・一なる無限の存在が無限に多くの様態に変容し続ける
⑨ ブルーノの宇宙・・・そのなかに無限の数の諸世界が充ち満ちている(=A)
                          無限宇宙にして複数世界=神の全能の完全なる実現
                                       可能なものは存在し、存在していないものは不可能

    神の想像できる世界(=B)・・・すべて複数世界として実現/自然を超越する領域

第三意味段落(⑩~⑬)
 ↓(こうした)
⑩ ブルーノの宇宙論存在論(=A)
  地の新たな基礎づけ
  存在は一/宇宙は無限/世界は複数/可能なものは存在し、存在していないものは

  不可能
     ↓(これを認めるなら)
    人間による自然の認識には確固とした根拠があることになる
    自然にもとづく学問/神にもとづく学問・・・確たる根拠をもって人間社会の形成に寄

 与できる
    (逆に)
    宇宙が無限でない/世界が複数でないのなら
     ↓
    (3)なぜあれではなくこれが存在しているのかという中世以来の問題(=B)に悩

    まされる
    神は恣意的なものに、世界は偶然的なものになってしまう(=B)
       ↓
  善行を薦める宗教はその根拠を失う/知識を蓄える学問はその根拠を失う

⑪ 真理を語ることの範例を、ブルーノはコペルニクスのうちに読み取った
 ↓
⑫ コペルニクスへの称賛/地動説を理解しない学者たちに対しての怒りと憤り
    ↓
  「衒学者ども」
   ・・・自分の発言に責任を取らない/プトレマイオスアリストテレスの文言を理

     解せずに並べる/周囲に人にいい顔を見せようとするばかり
   ↓  
  学問的争点の議論が成立しない/虚栄しかない
 ↓
⑬ ブルーノによるコペルニクスへの称賛
      ↓
  衒学者への非難
     真理を認めることのできない虚栄に満ちた人間とその社会への診断と一続き


◎設問解説
コペルニクスの地動説に影響を受けたジョルダーノ・ブルーノのコスモロジーとモラ

 ルの革新性について論じた文章。
*設問は空欄補充、傍線部説明、欠落文補充、内容合致問題と多岐にわたる。必ず本

 文を最後まで通読してから設問に臨みたい。あらかじめ、設問や選択肢に目を通し

 ておくことは言うまでもない。

問十三(記述・漢字)
 a 頑迷(頑冥) b 翻

問十四(マーク・選択)
*空欄補充問題。冒頭に空欄が設定されているので、本文のテーマ(主張)に関係した

 語句が入る。したがって本文全体から検討する必要がある。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
*空欄A・Bの検討・・・(A)の要素
②    ブルーノがコペルニクスの地動説を敷衍して
 「宇宙の( A )性と世界の( B )性を提唱」した
  ↑
 空欄Aと空欄Bには、同種の語句が入ることがわかる。両者はセット。

 ↓
◆「宇宙と世界」について書かれた部分を拾う。
④「宇宙は無限に広がり、どこにも中心はなく、また周縁もなく、そのなかに無限数の

 諸世界があって、そのそれぞれで無限数の個物が絶え間なく生成消滅を繰り返してい

 る」
⑨「ブルーノの宇宙は、無限にして果てしなく広がっているのみならず、そのなかに無

 限の数の諸世界が充ち満ちている」
 「無限宇宙にして複数世界」
  ↓
*「宇宙」=無限、「世界」=無限数、複数 ということが見えてくる。
 したがって、A=「無限」、B=「複数」が入る。
*空欄Eの検討・・・(B)の要素
⑤「ルネサンス天文学者たちにとって、( E )でなく規則もすべて相対的にすぎ

 ない宇宙(=A)は考えがたい」
  「ルネサンスの哲学者たちのなかには宇宙の無限性を考えた者もいたが・・・」
    ↑
 空欄(E)にはBの要素が入るのだから、「無限性」とは反対の語句が入る。そうす

  ると、「有限」しかない。
正解:「ニ」

問十五(マーク・選択)
*傍線部の説明問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
*ブルーノが自身の「コスモロジー」(宇宙論)と「モラル」(真理)に関して、コペ

 ルニクスの影響を受けている、と述べている部分を拾い、まとめる。

◆「コスモロジー」の説明部分・・・ブルーノの宇宙論
⑦「コペルニクスの議論は~運動と静止の相対性を示唆するもの~すべて相対性なもの

 とみなしうるという着想を与えるもの」
⑧「コペルニクスの地動説をきわめて大胆に発展させた」
  ↓
コペルニクスの議論・・・ブルーノに運動と静止の相対性を示唆するもの(X)
ブルーノの宇宙論・・・コペルニクスの地動説をきわめて大胆に発展させた(Y)

◆「モラル」(←筆者は「真理」とも述べている)・・・コペルニクスとの関わりを述べて

 いる部分
⑪「真理を語ることの範例を、ブルーノはコペルニクスのうちに読み取った」
⑫「コペルニクスへの称賛」
⑬「ブルーノによるコペルニクスへの称賛は~衒学者への非難」
   ↓
ブルーノはコペルニクスの議論から、真理を語ることの範例を読み取った(Z)
 ↓
*選択肢を検討する
 イ・・・正解
 ロ・・・「プトレマイオスの天動説~議論するために」の部分が誤り。方向が違う。
 ハ・・・「コペルニクスの生き方を自身の人生のモデルとして」が言い過ぎ。
 ニ・・・「宇宙が有限であることを再確認」が誤り。方向が違う。
 ホ・・・「自然を超越した神の意志を証明」が誤り。話題が違う。

*因みに「衒学者」とは、学識をひけらかし傲慢な態度を見せるような人物のこと。

問十六(マーク・選択)
*空欄補充問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
ルネサンス天文学者たちが放棄できなかった実在的な( C )なので、空欄には

 ブルーノが否定した「天文学者」の従来の考え方を表した語句(=Bの要素)が入

 る。これを第④段落以降、探していく。
⑤「有限の人間世界を取り巻く神的領域」(B)
 「天球概念」(B)
  ↓
*選択肢を検討して、ホ「天球」しかないことが分かる。

問十七(マーク・選択)
*欠落文補充問題。最初に欠落文の表現上の特徴をつかみ、対応する部分を探してい

 く。
欠落文が(B)の要素であることが分かれば挿入するのはたやすい。
◆欠落文の表現上の特徴
1.「人間社会」が主語なので、直前は人間社会についての記述がある。(宇宙の話題

  ではない。)
  →「イ」「ロ」の直前は宇宙についての話題なので除外される。
2.「信においても知においても」と述べているので、「信」「知」に関する話題が直

  前に書かれている。
  →「イ」「ロ」「ハ」の直前に「信」「知」に関する話題はないので除外される。
3,欠落文はBの要素であり、「基盤を欠」くことと、「不和のなかに埋もれ」るBの

  記述が直前にある。
  →「イ」「ロ」「ハ」の直前はAの要素の内容なので除外される。

  「ホ」の直前は「衒学者」に対する批判を述べた部分なので除外される。
  ↓
正解は「ニ」しかない。第⑩段落末尾は「知」の「基盤を欠」くことと、「信」にも

 「知」にも「不和」が生じる内容(Bの要素)が述べられている。

問十八(マーク・選択)
*空欄補充問題。空欄Dは傍線部2に対応するというヒントがある。従ってまず傍線部

 2を検討したのちに、空欄の前後を検討する 
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
◆傍線部2と空欄Dの前後の文脈の確認
④「宇宙は無限に広がり」「どこにも中心はなく」「周縁もなく」「そのなかに無限数

 の諸世界があって」 
  ↓
 「そのそれぞれで無限数の個物が絶え間なく生成消滅を繰り返している
  ↓(それでも)                              

 「宇宙全体は存在としては一つであるため生成も消滅もしない
 「生成と消滅は、個物の観点から見られた相対的な区別にすぎない」
  ↓
 「宇宙の万物は存在としては一つ」
   「全体として果てしない連続体をなして」
   「( D )しつづけている」
   ↓
⑤「( D )の無限宇宙の姿」
 ↓
*つまり、「宇宙は生成消滅を繰り返し、果てしない連続体として無限に( D )し

 つづけている」という内容。
 イ「寂滅為楽」・・・迷いの世界から離れた心安らかな悟りの境地が、楽しいものであ

         るということ。
  ロ「生々流転」・・・すべての物は絶えず生まれては変化し、移り変わっていくこと。

         ←これが正解
  ハ「有為転変」・・・世の中のすべての現象や存在は常に移り変わるものであって、決し

         て一定しているものではないということ。 

         ←紛らわしい選択肢だったが、文脈の趣旨からすると、「ロ」の方

          が良い。
  ニ「輪廻転生」・・・人が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わること。
  ホ「永劫回帰」・・・世の中は同じ事象が永遠に繰り返してくるということ。 

問十九(マーク・選択)
*傍線部の内容説明問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
*傍線部は「なぜ~存在しているのかという中世以来の問題」という「存在に関する疑

 問」(=Bの要素)の内容を聞いているので、Aとの対比において存在に関する疑問

 (B)に該当する部分を拾っていく
⑨「ブルーノの宇宙」
 「神の想像できる世界は複数世界として実現」「世界は実際に無限の数」(A)から

 すると
  ↓
 「神は世界を別様にも創造しえたのか」(B)
 「この世界だけでなく他にいくつもの世界を創造しえたのか」(B)
  ↑
 「成立しえない問題」
   「自然を超越する領域はない」
   「可能なものは存在」「存在していないものは不可能」
  ↓
⑩「宇宙が無限でなく、世界が複数でないのなら」(B)
  ↓
 「なぜあれではなくこれが存在しているのかという中世以来の問題」(B)に悩まさ

 れる
    ↓
 「神は恣意的なものに、世界は偶然的なものになってしまう」(B)
 「善行を薦める宗教はその根拠を失う」「知識を蓄える学問はその根拠を失う」(B)
  ↓
*つまり傍線部は、「なぜ神が世界を他にいくつも創造しなかったのか、という問題

 ということができる。
 中世の神学者たちは世界が実際には複数で、無限に存在していることを知らなかった

 からである。
 イ・・・正解。
 ロ・・・「宇宙を一なる無限の存在として創造」が矛盾した表現。引っかけの問題。
 ハ・・・「恣意性を排して」が方向が違うので誤り。

    「宇宙が有限であることを偶然の現象として位置づけた」も話題が違う。
  ニ・・・「可能世界が複数世界によって汲み尽くされてしまうことを許容」の方向が誤

   り。
 ホ・・・「可能なものは存在し、存在していないものは不可能」を覆すことができなか

   った、というのが話題、方向ともに誤り。

問二十(マーク・選択)
*内容一致問題。ブルーノがコペルニクスの考えをどのように読み取ったのかを正しく

 捉えること。
 イ・・・「地動説を嘲笑した衒学者」「怒りを隠さなかったコペルニクス」は、話題に

     ないので誤り。
 ロ・・・正解。第②段落、第⑬段落の内容と合致する。
 ハ・・・「人間社会が相対的なものである」が方向が違うので誤り。
 ニ・・・「衒学者立ちとの議論を強いられる」「敵対者から攻撃を受けたコペルニクス

     の運命」が話題にないので誤り。
 ホ・・・「宇宙が神的領域であると捉えたコペルニクス」は話題にないし、「自らの説

     との差異を認めながらも」は方向が違うので誤り。
 ヘ・・・「宇宙が無限であることにすでに気づいていたコペルニクス宇宙論」は話題

    が違うので誤り。 
 ト・・・正解。第④段落、第⑤段落の内容と合致する。
  

 

第四問(四)10点(予想)
◎本文展開(マッピング
第一意味段落(①~③) 
ノマド(=A)とテリトリー(=B)の結びつき・・・緊密なもの
    テリトリー・・・一人の人間や人間集団が、自分の場を切り開いて居座り、テントを張

        るような場所(B)
  ノマド・・・テントのなかで、ある決まった期間のあいだ生きる
    ↓
  対立するものではないテクスト状で遙かに繊細な関係を紡ぐもの
  テリトリー論(B)とノマド論(A)・・・占拠し、保有し、享楽することが問題
    ↓
    同一化することなく双方が所有でも無所有でもない、中間領域において相互に漸近し

 ていくかのような事態 

② テリトリー論(B)・・・自分が一定の場を占める領域をどのように切り出し、把握

            し活用するか、そこでどのように存在するか、いかにその領       

            域とかかわるか
                →生態学的な問題
    ↓(それが)
   自己所有の土地を句切り固有のものとして排他的に所有する

   =限定された狭い意味で理解
    ↓(それはまさに)
   土地や時空間の組織化のあり方/個体自体の存在のあり方/個体と土地の関係のあ

  り方  →集団的な生存様式

    ↓(その一方で)                                                            
   ノマド論(A)・・・閉鎖した固有領域を切り分け、それを所有する(B)のとは異なる

          1別の生存様式
      ↓(それは)
  個体がおのれに固有の領域をつくることなしに土地や時空間とかかわるしかた
     所有という外観を根底から批判的に検討する
  排他的な領土所有とは別のしかたで大地にしがみつくことを思考
  独占的所有の条件を批判的に照らし出し、所有とは異なるあり方を積極的に呈示
↓(それゆえ)
③ ドゥルーズにおけるノマディズム・・・
    (ある領土から別の領土への遍歴)(ある私有地=固有性から別の私有地=固有性へ

  と移動する)(B)→ではない
     ↓
 (A)一切の領域の私有=固有性の廃棄

     所有の対象となるとされる領域の同一性の停止
    領域に生息する生態自身の同一性の宙吊り
      ↓
  排他的で自己同一的な固有性という「佳士家」全般(B)を一撃で括弧に入れてし

  まう
   ↓
   ある領土から別の領土へ移るだけ/領土の固有性が温存されたまま 

  →理論的な地盤は揺るがぬまま、放置(B)
    ↓(したがって)
  2ある領域から別の領域へと「渡り歩くこと」は、じつのところ、ノマドとはほと

   んど関係がない
      ↓(こうした渡り歩き)
    点=アイデンティティに従属した行路/様々な土地へと重たい自我と同一性形式が移

   動してゆくだけ(B)
      (問題は/すなわち)
    固有性という形式そのものを揺さぶり、宙吊りにすること(A)
      ↓
    対象の中身は問題ではない/テリトリー=領土論の射程はきわめて広大(A)

第二意味段落(④~⑤) 
④ ドゥルーズ思想・・・
  「領土」と「ノマド」・・・「鋭利」に対立する語彙

⑤ ドゥルーズの「土地の問い」・・・土地、領域、場の分割をめぐる思考(B)
    ↓(それは)
    他者との共有なき排他的な独占領域の裁断、囲いで覆われた私有地を定めるべく境界

 画定をすること(B)
  =社会的な属性/述語/活動領域/能力/種としての性質 

   →いずれ滅ぶ植物、動物、鉱物の運命
    ↓(それは)
    自己に対して本来的に付与された固有性をまっとうしながら、その外に出ることなく

 死ぬ存在者
  ↓                  
    固有性の思考(B)・・・3ある個体の命運を決する「裁き」のシステム

          ある個体に生ずる一切が、私有地の限界のうちに含まれている
    ↓(ライブニッツ「主語への述語の内属)
    主体の持ち分=運命を、その「内的な固有性=所有物」をして決すること

第三意味段落(⑥)
⑥ ドゥルーズノマド論・・・
    領域画定的な思考法(B)を存在論的に解体する作業/決して還元されることのない

 存在論の様式の開拓
      ↓(それは)
  生に対して、超越的なしかたで外側から限界を課すことのない生存様式の創出
   ↓(なぜなら)
    生こそが、特性や形質をある時間だけ持続する「固有性」=「多様体」として、無目

 的に発生させつくりだす(A)
   ↓
    生きることよりも上位に立ついかなる超越的な基準を認めない/そうした基準を測る

 のは生(A)
      ↓
  先行する原理や上位の原理を一切持たない無原理的な生こそが価値評価を行う(A)
      ↓
  産出されたものである価値や、裁きの基準となる法や規則

  ・・・産出する力能である生
   4 ⇔(に対して)                            
  論点先取的なしかたで覆いかぶさってくるという転倒を退ける
      ⇔
    定住的な思考法(B)

 ・・・各個体に割り振られる分け前が、当の個体から独立に外から決せられる

    ⇔(そうした様式とはちがって)
    ノマド的思考(A)

 ・・・カテゴリーの升目に分かたれることのない、グラデーション状の〈存在〉の領野

    のうえに、運命を固定されない特異性や強度が分布
      どのような存在者であれ、〈存在する〉ということの意味にはちがいなどない 
      ⇔
   存在の類比(B)・・・存在者のあいだに、垂直状に位階序列化されたカテゴリーをつく

          り
          階層の異なるカテゴリーのそれぞれに、異なる意味の〈存在=本

          質〉を割り振る
      ⇔(のに対し)
   一義的な〈存在〉(A)

  ・・・平面上に散らばった様々な存在者に対して等しく同じ意味で「存在する」とい

    うことが言われる
   ↓
    5ノマディズムとは、存在の類比のヒエラルキーに抗する、存在の一義性のアナーキ 

  ーである

 

◎設問解説
ドゥルーズの説を紹介しながら哲学思想について述べた文章。非常に抽象度が高く、

 受験生にとっては、時間愛にしっかり理解して回答するというすることは困難であろ

 う。
 文章を自身の経験に基づいて具体化、一般化するような知識がある程度前提となるか

 もしれない。
*ただし、問二十一~二十四の選択問題は、各選択肢の前半部分はすべて正しいので、

 ここに気づけば割り切って選択肢を 検討できるので、問二十五の記述問題に時間を

 割くことができる。受験生にとっては賭けとなるけれど。

問二十一(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第①段落、第②段落の論旨を捉える。
*傍線部の直前がテリトリー論(B)の内容なので、傍線部はノマド論(A)の内容で

 あることが分かる。
ノマド論(A)の要素を拾う。
①「テントのなかで、ある決まった期間のあいだ生きる」
 「対立するものではないテクスト状で遙かに繊細な関係を紡ぐもの」
 「同一化することなく双方が所有でも無所有でもない、中間領域において相互に漸近

 していくかのような事態」 
②「閉鎖した固有領域を切り分け、それを所有するのとは異なる」
 「個体がおのれに固有の領域をつくることなしに土地や時空間とかかわるしかた」
    「所有という外観を根底から批判的に検討する」
 「排他的な領土所有とは別のしかたで大地にしがみつくことを思考」
 「独占的所有の条件を批判的に照らし出し、所有とは異なるあり方を積極的に呈示」
  ↓
*「別の生存様式」とは
  1 テントのなかで、自分の場を切り開いて居座るのではなく、ある決まった期間の

    あいだ生きる
  2 お互いが所有でも無所有でもない、中間領域において相互に漸近していく
  3 固有の領域をつくることなしに土地や時空間とかかわる
  4  排他的な領土所有とは別のしかたで大地にしがみつく
  5 所有とは異なるあり方
 ということになる。選択肢を検討する。全選択氏の前半部分は正しいので、後半を比

 較する。
 イ・・・「閉鎖した固有領域を切り分ける」の部分の方向が誤り。
    ロ・・・「境界画定を模索する」はBの要素なので誤り。
 ハ・・・「逆向きの光によって疑問符を突きつけながら」は話題が違う。「土地への定

             住を享楽」はBの要素。
 ニ・・・「集団的な生存様式」の方向が誤り。
   ホ・・・正解。第①段落、第②段落の内容と一致している。

問二十二(マーク・選択)
*傍線部理由説明問題。第③段落の論旨を捉える。
*「ノマド」(A)と「ある領域から別の領域へと「渡り歩くこと」=遍歴」(B)と

 の違いを読み取る。
◆「ノマディズム」(A)・・・
③「一切の領域の私有=固有性の廃棄」
 「所有の対象となるとされる領域の同一性の停止」
 「領域に生息する生態自身の同一性の宙吊り」
    「固有性という形式そのものを揺さぶり、宙吊りにすること」
◆「ある領域から別の領域への遍歴(B)・・・
③「ある私有地=固有性から別の私有地=固有性へと移動する」
 「領土の固有性が温存されたまま」
 「理論的な地盤は揺るがぬまま、放置」
   「様々な土地へと重たい自我と同一性形式が移動してゆく」
  ↓
*選択肢を検討すると、前半の(B)の要素については共通内容なので、後半のノマデ

 ィズム(A)の要素を比較検討する。
 イ・・・「領土の固有性を確認」はBの要素なので誤り。
 ロ・・・「ある私有地=固有性から別の私有地=固有性へと移動させること」はBの要

     素なので誤り。
 ハ・・・正解。
 ニ・・・「同一性という形式を保ちつつテリトリー論の射程を広大にすること」はBの

     要素なので誤り。
 ホ・・・「さまざまな固有性を獲得しうるように」はBの要素であり、方向も違うので

             誤り。

問二十三(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第④段落、第⑤段落の論旨を捉える。
*「ある個体の命運」(=B)の要素を拾っていく。
⑤「土地、領域、場の分割をめぐる思考」
   「他者との共有なき排他的な独占領域の裁断」
  「囲いで覆われた私有地を定めるべく境界画定をすること」
  「いずれ滅ぶ植物、動物、鉱物の運命」
  「固有性をまっとうしながら、その外に出ることなく死ぬ存在者」
  「ある個体に生ずる一切が、私有地の限界のうちに含まれている」
  ↓
*これらをまとめると
1 他者との共有なき排他的な独占領域が
2 固有性をまっとうしながら、その外に出ることなく滅ぶ運命にあり
3 個体に生ずる一切が、私有地の限界内に含まれている存在
  ↓
 *これらが「裁断される=裁かれる/決定される/命じられる」ということ。そこで選

 択肢を検討する。このあたりで、各選択肢の前半は同内容で正しいと言うことに気づ

 きたい。法学部の問題の例年の特徴である。
 イ・・・正解。
 ロ・・・「自ら選び取った固有性」の方向が誤り。
 ハ・・・「自己の私有地~裁断」「割り振られる社会的属性に応じて生きる」が誤り。

     方向が違う。
 ニ・・・「閉鎖されたモナドに含まれる~生きるよう命ずる」の方向が誤り。
 ホ・・・「種の本能一般に従って生きるよう命ずる」の話題が誤り。

問二十四(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第⑥段落前半の論旨を捉える。
*「生(=A)と対比される「論点先取的なしかた」「転倒」(B)の言い換え部分を

 拾っていく。
◆傍線部直前「生」(A)の要素
⑥ 生=「超越的なしかたで外側から限界を課すことのない生存様式の創出」
    「産出されたものである価値や、裁きの基準となる法や規則」を「産出する力

               能」をもつ
        「特性や形質」を「無目的に発生させつくりだす
        「先行する原理や上位の原理を一切持たない無原理的」なもの
 ↓
生きることは、先行する原理や上位の原理を一切持たない無原理的なものであり、超

 越的なしかたで外側から限界を課すことのない価値や法や規則などの生存様式を産出

 する力能・・・解答要素(X)
◆「論点先取的なしかた」「転倒」(B→価値や順番が逆転しているということ)の要

 素 
「生より高次の価値から、生に対して評価や判断を下す行為」・・解答要素(Y)
  ↓
*(X)(Y)の観点から選択肢を検討する。本来は「生」が生み出したはずの価値や

 法や規則などが逆に「生」を評価する事態のことを述べている選択肢が正しい。各 

 選択肢の前半部分はみな正しいので、後半部分(Y)だけ検討する。
 イ・・・「その力能に対してすら」「一切を裁き評価」の方向が誤り。
 ロ・・・「社会の法や規則が越権的に生を裁き評価」の方向が誤り。
   ハ・・・「その力能に先立って存在する高次の価値や越権的基準」の方向が誤り。
 ニ・・・正解。
 ホ・・・「それらに先立つ超越的基準が不可避的に存在」の話題が違う。

問二十五(記述・120字~180字)
*傍線部内容説明問題。ドゥルーズの思考に基づいて、ノマド的思考(A)がもつ「存

 在の一犠牲」と「アナーキー」の特徴について説明する。
ノマド的思考(A)を「存在の類比のヒエラルキー」(B)と対比させながら論じ

 る。
 「存在とは(B)の思考では~であるのに対し、(A)の思考では~であるというこ

   と」という形が解答の大枠になる。制限字数の幅が広いが、できるだけ180字に近い

 形で解答するの良い。
*各要素を冒頭から拾い直していくと時間がかかるので、これまでの正解の選択肢の文

 言を利用すると良い。
◆Bの要素を拾っていく
問二十一「ホ」
「ある土地や領域を自己に固有のものとして排他的に所有し、協会を管理しながら棲みつく」
問二十二「ハ」
アイデンティティや固有性を温存」
問二十三「イ」
 「自己に対して本来的に付与された固有性に従い、本質主義的な仕方でその限界内でのみ生きるよう命ずる」
⑥「定住的な思考法」・・・「各個体に割り振られる分け前が、当の個体から独立に外か

              ら決せられる」
    ↓
 「 存在の類比」・・・「存在者のあいだに、位階序列化されたカテゴリー(=存在の類

           比のヒエラルキー)をつくり」
           「階層の異なるカテゴリーのそれぞれに、異なる意味の存在を割

                                  り振る」
  ↓
*整理すると
存在とは、定住的な思考法では各個体は外から位階序列化されたカテゴリーによって

 割り振られ、固有化した領域を排他 的に所有し、その限界内でのみ生きること

  ・・・解答要素(X)

◆Aの要素(ノマド的思考)
問二十一「ホ」
「所有でも無所有でもない」「独占的所有という観念とは異なるあり方」
問二十二「ハ」
「一切の領域における固有性を廃棄し、所有の対象となる領域の同一性を停止」
問二十四「ニ」
「生きることは~無原理的なもの」「生こそはどんな超越的基準によっても正当化される必要がない産出する力能」
⑥「領域画定的な思考法を存在論的に解体する作業」
 「カテゴリーの升目に分かたれることのない、グラデーション状の〈存在〉の領野の

 うえに、運命を固定されない特異性 や強度が分布」
  「どのような存在者であれ、〈存在する〉ということの意味にはちがいなどない」
  「存在する」とということが言われる」
  ↓
*整理すると
ノマド的思考では領域画定的な思考法を存在論的に解体し、一切の領域における固有

 性を廃棄し、カテゴリーの升目に分かたれることのない、グラデーション状の領野の

 うえに、運命を固定されない特異性や強度が分布するので、存在者は運命を固定され

 ず、等しく存在する意味オが与えられているということ。・・・解答要素(Y)
  ↓
*(X)(Y)を表現など整理して、180字以内に圧縮して統合する。この程度書ければ上出来。
解答例:
 存在とは、定住的な思考法では各個体は位階序列化されたカテゴリーによって割り振られ、固有化した領域を排他的に所有し、その限界内でのみ生きることであるが、ノマド的思考では領域画定的な思考法を解体し、一切の領域における固有性を廃棄し、グラデーション状の領野に運命を固定されない特異性や強度が分布するので、存在者は運命を固定されず、等しく生きる目的が持てるということ。(180字)

参考:大手予備校の解答例(HPに掲載されています)
〈S校〉
  存在者は位階序列的にカテゴリー化され、それぞれ異なる意味をなす本質を持ち、その排他的で自己同一的な固有性に制約されているという思考法を解体して、超越的基準のない無原理的な生こそが特性や形質を持つ個別の存在者を一時的活無目的に作り出すのであり、存在者はすべてそのあり方を画定されない様々な特異性や強度を持って平面上に等しく同じ意味で産卵してあると考えること。(179字)
〈k校〉
 定住的な思考では、各個体は先行的に存在する階層秩序のカテゴリーに割り振られ、排他的に自己の領域を占有し、そこで固有性を固守するしかないが、ノマド的思考はそうした考え方を解体し、特異性をもつ多様な存在者の散らばるグラデーション状の平面を想定するため、そこで存在者は平等なものとされ、いかなる外在的原理にも制約されず、自分の場を切り開き生を創出しうるということ。(179字)
 
 

2024年度 早稲田大学法学部 国語(一)(二)古典 解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」塾代表のbackbeat-akaです。

 今回は2024年度早稲田・法の古典部分(一)(二)の解説を掲載しました。

 現代文も掲載しようと思いましたが、分量が多いので別の機会に掲載します。

 早稲田の国語は、法学部が一番難しいと思います。(現代文は文学部も難しい。)

 ただ、古典の問題は全て選択問題なので、選択肢がヒントになります。

 設問の傍線部をつなげて読んでいくと、本文の主旨となるテーマが見えてきます。

 早稲田においても、共通テストや東大、京大と同様に、最初にリード文、注、設問に目を通して情報をつかんでから本文を読みましょう。

 早稲田法学部の古文で注意することは、

 ①単語や文法的意味と、文脈が連動した問題が多い。

 ②設問の選択肢に目を通しながら文意をざっと掴み、最後まで本文を読んでから解答

  した方がいい。

  (共通テストの選択肢は文が長いので、この方法はやらない方が良いです。)

 早稲田法学部の漢文で注意することは、①②の他に、

 ③漢文という教科は、中国語ではなく、「国語」としてとらえる。

 →これは全ての漢文入試に当てはまります。傍線部の単語の意味を「語彙」としてと

  らえるのではなく、文脈や換言(言い換え)の観点からとらえるのです。

  ここが、古文や英語の語句問題と異なるところです。

  傍線部だけで解決しようとしないことが大切です。

 

  それでは、どうぞ。2つとも面白い文章です。

backbeat.hatenablog.com

2024年度 早稲田大学法学部 国語(古典)解説

2024年度 早稲田大学法学部 国語(古典) 解答解説  
第一問 古文「小さかづき」(14点)
★江戸時代の仮名草子からの出題。法学部の問題は文章中に和歌が含まれることが多

 い。早稲田の古典は、法学部が一番難しい。文法や語句と文脈を結びつけて答えさせ

 る問題が多い。
★問題文は前半で、「足ることを知る」ことの重要性と、「世の常の人」にとっては

 「足らざるを足れり」とすることは不可能だ、ということを述べている。
★後半は「太秦の池の蛙」が「二足歩行をしたい」という願いが叶う代わりに、目が後

 ろ向きになってしまったので、結局昔の通りの四足歩行に戻してもらったという逸話

 を引き合いに、身の丈に合わない願望を持つことを戒める内容となっている。
★本文を読む前に、注と設問に目を通して、選択肢を頼りにできるだけ情報を仕入れて

 おくことが大切である。設問(傍線部)は相互に関連しているので、最初にできるだ

 け全体を俯瞰したい。このことはトレーニングを積み重ねれば身についてくる。

問一(マーク・選択) 
*空欄補充問題。
第一段落冒頭
「たる事をしるといへる事、人の一生のたから。」・・・作者の主張
 ↓(老子の引用)
「たらざるをたれりとする時は~たんぬとする事也」(=身の丈に合った充足感を持つべきだ)
  ↓
第二段落
「されどもよのつねの人は、たらざるをたれりとする事は」(=世の常の人は、足りていないことに満足することは)
 ↓
( A ) なければ、(=「Aなし」なので)
 ↓
「たれる事をしれりとや申すべからん」(=満足することを知っていると言うことはできない)
  ↓
第三段落
「おほくの人、其のたる事をしらで、十をえては百をねがひ、百をえては千万無量をのぞみて」(=一般の人はどこまでも満足するということを知らない)
「かへつてむかしこひしくなれる事、いとはかなし」

 (=逆に充足していなかった昔が恋しくなるのはむなしいことだ)
  ↓
*従って空欄の前後は、「世の常の人」にとっては、「Aなし」なので、「足らざるを

 足れり」とすることは不可能だ、ということになる。
 イ「および」・・・「及びなし」=無理だ/力が及ばない/分が過ぎる  ←正解
 ロ「あたひ」・・・「あたひなし」=価値がない
 ハ「ゆゑ」・・・「ゆゑなし」=理由がない/風情がない
 ニ「あひ」・・・「あひなし」=「あいなし」=気にくわない/つまらない
 ホ「うら」・・・「うらなし」=考えが浅い/虚心だ/無心だ

問二(マーク・選択)
*和歌の空欄補充問題。和歌の前後の文脈を検討する。
第三段落
「おほくの人、其のたる事をしらで、十をえては百をねがひ、百をえては千万無量をのぞみて」(=一般の人はどこまでも満足するということを知らない)
「かへつてむかしこひしくなれる事、いとはかなし」

 (=逆に充足していなかった昔が恋しくなるのはむなしいことだ)
 ↓
逢坂の あらしの風は さむけれど ゆくへしらねば( B )」

  ←「逢坂」と「逢ふ」は掛詞
  (歌意)=逢坂に吹く嵐の風は寒いけれど(=逢いたい人に会えず悲しいけれど)

       その寒い風の行方は分からないので(=逢いたい人の行方は分からないの  

      で)( B )。 
   ↓
「およばざる事をねがひ、かなふまじきみちなど~おもふまじきわざなるべし」
  (=及ばないことを願い、叶えられないことなどを思ってはならない)
  ↓
*ということは、空欄Bには、「分不相応なことを考えてはならない」=「寒い風に耐

 えてただ寝るだけだ」という内容が入ることになる。
 イ「せきこゆるかも」=逢坂の関所を越えることだ
    ロ「やすくもあらむ」=簡単なことだ
 ハ「わびつつぞぬる」=嘆きながら寝ることだ ←正解
 ニ「ゆかしかりけり」=逢いたいなあ  ←ひっかけ
 ホ「なはぞちりける」=桜の花が散ったことだ ←文脈と合わない

問三(マーク・選択)
*語句の意味問題。a・b・c・eの「かなふ」は四段活用で「願いが叶う/思い通り

 になる」という意味。dは「用事をかなへ、」と連用中止法になっており、下二段活

 用で「思い通りに実現させる/願いを叶える」の意である。dが正解

問四(マーク・選択)
*傍線部の解釈の問題。
◆傍線部直前の部分
「なほもしくはかなひ、もしくはおよぶとも」(=もし願いが叶ったとしても)
「大かたはとどまる事をしらば」(=そもそもそこで満足することを知っていれば)
  ↓
「あやふかるまじきみち也」(=危険でないに違いない方法である)
*「あやふかる」=「あやふし」(危険だ)/「まじき」=「まじ」(=打消当然~な

 いに違いない)/「みち」(=方法/やり方)
 イ「危ないので通るべききではない道」・・・「危ないので」の解釈が誤り。
 ロ「実現が不可能であろうと思われる手段」

   ・・・「実現が不可能であろう」の解釈が誤り。
 ハ「危機を冒してはならない重要な側面」・・・「危機を冒す」の解釈が誤り。
 ニ「命を落としかねない不安な方法」・・・「命を落とす」「不安な」の解釈が誤り。
 ホ「困難に陥ることを避けられる生き方」←正解。

問五(マーク・選択)
*空欄補充問題。
「泥亀/づれ/と/同じ/やう/に/四足/を/もつ/て/はひまはれ/る/事/こそ/やすから/( C )」
  ↑
*「こそ」があるので空欄Cには已然形が入る。

 そうすると候補はロ「め」(む)・ニ「ね」(ず)・ホ「じ」(じ)となる。
*文脈は、「泥亀のやつらと同じように四つ足で這い回っているのは嫌だ」と推察でき

 るので、意味的にCには打消が入りそうだが、「じ」が係り結びの已然形として用い

 られた用例は少なく、また「打消推量」(=心穏やかではないだろう)ではなく、言

 い切っていると考えればニ「ね」が正解と考えるのが良い。

問六(マーク・選択)
*語句の意味と内容説明問題。「作善」(さぜん)とは、「仏縁を結ぶような、さまざ

 まな善行を行うこと」の意。単語の意味を知っている受験生はすくないだろうが、設

 問に「作善」として「提案されていたもの」とあるので、文脈から「作善」の内容を

 読み取ることが可能である。
◆傍線部の前の行(「一つの蛙」の発言)
「若し其の願かなひ侍らば、なにをか、ふせにいたすべき」
 (=もし二足歩行の願いが叶うなら、仏にお礼の財物として何をお供えすれば良い

 か)
  ↓
「作善なくては、いかが、とあれば、是こそまことにいはれたりとて」
 (=仏様がお礼の財物がほしいというのなら,仰るとおりなので)
 ↓
「あるいは水草のはなを奉らん」

 (=薬師寺の池にある水草の花をお供えしようとしたり)・・・(X)
「あるいはいさごを塔とくみて仏を供養せん」

 (=砂を塔のように積み上げて仏様に供えよう)・・・(Y)
  ↓
*という流れなので、「作善」とは(X)(Y)のことであることがわかる。
 (「いさご」=「砂」であることは、選択肢から分かる)
 イ・・・二足歩行ができたならば、蛇(=くちなは)にも対抗できるという、傍線部よ

    り前の部分の内容。
 ロ・・・正解。
 ハ・・・次の段落で「いさごを塔とくみて」という提案に対して別の蛙が、完成しなか

    った伝説上の橋を引き合いに出して、砂を塔のように積み上げることは困難だ、

    と発言した内容。
    因みにこの蛙は「水草のはなを奉らん」ことにも反対し、願いが叶ったら、今ま

    で我々蛙は鳴き声がやかましく、僧たちの読経や瞑想の邪魔をしてきたので、今

            後はそれを控えようという提案をして、賛同を得ている。
 ニ・・・「水草の花を手で触れると汚れる」といっているのは、ハの蛙の発言である。
    ホ・・・「共に合唱して読経の修行」という部分が誤り。

問七(マーク・選択)
*傍線部の解釈問題。傍線部に至る前の部分 
「一新称名の大願をおこし、一七日参籠しければ」

 (=蛙たちがひたすらお祈りをした)
 ↓
「おほくの蛙二足をもつてたちにける」(=蛙の二足歩行が可能になった)
 ↓
「おもひのほかに引かへて」(=意外なことにその代わりに)
 ↓
「両眼うしろのかたへなりしかば」(=両眼が後ろ向きになってしまった)
 ↓
「ゆくもかへるの進退ここにきはまりければ、またいろいろ祈願しなほし、からがらむかしの身になりけるとかや」
 (=どうしようもなくなったので、蛙たちは祈願し直して、どうにかもとの四足歩行

 に戻った)
 ↓
「われ人、こ/の/蛙/の/願だて/なき/に/し/も/あら/ず」
    =われわれ人間も、この蛙の願掛けと同様のことがないわけでもない。
 =分不相応な願いをしてとどまるところを知らない
 ↓
*という展開から、選択肢を検討する。現代文と同様に、末尾と冒頭は連動している。
 イ・・・「薬師如来に誓った約束~改変してしまった」「われわれも易きに流れる傾向

     がある」の部分が誤り。
 ロ・・・正解。
 ハ・・・「自分たちの力で成し遂げるのが難しいことを避け現実的な手段を選んだ」の

       部分が誤り。
 ニ・・・「願い事があるときだけそれを控えて都合良く振る舞う」「奔放に振る舞って

    後悔することがある」の部分が誤り。 

 ホ・・・「自分たちの方が優れているとうねぼれている」「自らの能力を正当に見極め

    られず」の部分が誤り。 
                                                                                  

 

第二問 漢文「聴訟彙案」(10点)
★(A)は中国明代の冤罪事件について述べた文章、(B)は江戸時代の儒学者津坂東

 陽が自分の意見をつけ加えた文章。それぞれ冤罪を防ぐためにどのようにすれば良い

 か述べている。
★古文と同様に、最初にリード文、注、設問に目を通す。注の説明と設問の選択肢か

 ら、本文が裁判に関係する話だということが推察される。
★問題文には注番号が附されていないので、最初にチェックして語を囲むなどマークを

 しておくと良い。

問八(マーク・選択)
*書き下し問題。選択肢がヒントになる。
1 不 勝 痛 楚 輒 誣 服 。(痛楚に勝へずして、輒ち誣服す。)
*「不勝~」=「~にたへず」(~に耐えることができない)、「輒」=「すなはち」

 (すぐに)。←基本的な読み方。これで決めてかかれば、選択肢は「ロ」か「ニ」に

 絞れる。
*次に文脈を検討する。傍線部までの内容は、儀式の後、「金瓶」(金製のかめ)が紛

 失し、側にいた「庖人」(料理人)が捉えられ、拷問にかけられた、という内容。そ

 れを受けて傍線部なので、「痛楚」=「苦痛」、「誣服」=「服従」と推測できる。
*(因みに「誣服」の実際の意味は、「無罪であるのにやむを得ず刑に服する、という

 意味。この意味を知っていれば、料理人にかけられた嫌疑は冤罪だと分かるが、これ

 は受験生には無理だろう。)
*以上から、正解は「ニ」と判定できる。傍線部の主語は「庖人」なので、「ロ」はお

 かしい。
現代語訳:料理人は、拷問の苦痛に耐えられなくて、すぐに罪を認めた。

問九(マーク・選択)
*傍線部の解釈、内容説明問題。
2 無 何、( 何と(も)無く(して))
*結論から言えば、ここでの「何」は「幾」(いくばく)の意味なのだが、「何」の語

 義から導くことはできない。
*「無何」の語義から検討するのではなく、傍線部前後の文脈から推察し、解答を導き

 出す。漢文という教科が「中国語」ではなく、「国語」であるということを示す問題

 であるといえる。
◆傍線部1から傍線部2までの内容
 「庖人」が自白したので、「瓶」を「(探)索」したが見つからなかった。
  ↓
 そこでさらに「庖人」を問い詰めたところ、「壇前某地」(祭壇の側)に埋めてあると言うので掘ってみたが見つからなかった。(「庖人」はもともと盗んでいないのだから、でまかせを言ったのであろう。)
  ↓
 そこでさらに収監されることになった。
◆傍線部2の後の内容
 「竊(窃)瓶者」=「実際に瓶を盗んだ者」が、「瓶」にかけられていた「金縄」を「市(場)」に「鬻」=売った。
    ↓
 これを怪しいと思った人が「官」=役人に「質」(ただす)=問いただした。
    ↓
 「竟」(つひに)=とうとう、「得其竊瓶状」=瓶を盗んだ張本人を捕まえた。
*そこで選択肢を検討すると、
 イ・・・傍線部より以前の出来事なので、「無何」の内容としてはおかしい。
 ロ・・・「何も白状しなかった」の部分が誤り。
 ハ・・・内容は正しいが、「無何」の説明になっていない。
 ニ・・・イと同じ。
 ホ・・・正解。消去法でこれしかない。

問十(マーク・選択)
*傍線部の解釈問題。傍線部前後の文章を検討する。
 「竊(窃)瓶者」=「実際に瓶を盗んだ者」が、「瓶」にかけられていた「金縄」を「市(場)」に「鬻」=売った。
    ↓
 これを怪しいと思った人が「官」=役人に「質」(ただす)=問いただした。
    ↓
 「竟」(つひに)=とうとう、「得其竊瓶状」=瓶を盗んだ張本人を捕まえた。
    ↓
 瓶を盗んだ張本人にありかを問いただしたところ、「壇前某地」に埋めてあると言うので、掘り返したら見つかった。
    ↓
 その場所は、「庖人」の指摘した場所と「不數寸耳」=ほんの僅かしか離れていなかった。(「耳」はここでは断定の意
  ↓
 もし「庖人」に瓶を掘らせてたまたま見つかり、または瓶を盗んだ張本人が「不鬻金縄于市」=「金縄」を市場に売らなかったとしたら、
  ↓
3 庖 人 之 死 百 口 不 能 解 。

  (庖人の死百口なりとも解(と/ほど)くこと能はず。)
    ↓
 「然則」=そういうことであるのでつまり
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 「嚴刑之下、何求不得」=厳罰を下しても、何も得るものはない。  
*「死」=「死罪」。「不能」=「~できない」。
*ここまでの文脈から、
 「もし庖人の掘ったところからたまたま瓶が見つかり、もしくは瓶を盗んだ張本人が金縄を市場に売ら なかったとしたら、庖人の死罪は免れない」という内容であることが推察できる。
 イ・・・正解。「解」は「とく」または「ほどく」と読み、「弁解」の意であろう。
    ロ・・・内容が全部誤り。そもそも「庖人」の解釈が違う。
 ハ・・・料理人は死亡していない。「假し~令むれば」の解釈が誤り。
 ニ・・・内容も全く違うが、「可能である」が「不能」と対応していない。
 ホ・・・内容が全部誤り。

問十一(マーク・選択)
*空欄補充問題。空欄X前後の内容を検討する。
 国家が「矜疑一路」=被告人に同情して刑事裁判に慎重を期するようになれば、
  ↓
 所 全-活 ( X ) 多 矣 。 (冤民を全活する所多からん。)
    ↓
 「斷獄」=罪を裁くことは、「豈必以速爲貴哉」=迅速であることを貴いとする必要はない。
  ↓
*つまり、筆者が「多」くなるだろうと予想しているのは、冤罪を免れる人民であるこ

 とが予想できる。「ハ」が正解。
*「活」には「活かす・命を助ける」という意味があり、「全活」は「全て救う」とい

 う意味になるだろうが、語句自体の意味が分からなくても解答できる。

 この問題も、漢文が「中国語」ではなく、「国語」であるということを示す問題。
 イ・・・「枉法」(おうほう)=法律を悪用すること。
    ロ・・・「贓證」(そうしょう)=盗品を隠したという証拠
 ニ・・・「斷獄」=罪を裁くこと
    ホ・・・「金瓶」=金製のかめ

問十二(マーク・選択)
*全体の要旨に関わる内容一致問題。(合致しないものを選ぶ。)
◆(B)の内容確認
 「凡治盗、贓證爲主。」

  =そもそも盗賊を退治するには、盗品を隠したという証拠を挙げることが主にな 

   る。
  ↓
 「如金瓶之獄、既誣服結案、殆將殺無辜」
  =料理人が金製の瓶を盗んだ罪で投獄されたのは、冤罪で刑に服し、もう少しで無

   実なのに殺されようとしたのだ。
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 「因別獲贓物、得冤枉矣。」

  =別の場所で隠した盗品を見つけたので、料理人は冤罪を免れることができた。
    ↓
 「贓物不獲者、未可遽決其獄。」

  =隠した盗品を見つけなかった者(=料理人)は、ただちに投獄を決定すべきでは

   ない。
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 「須矜疑緩死以俟平反也。」
  =なにごとも被告人に同情して刑事裁判には慎重を期し、むやみに死罪にすること

   なく、無実の罪をすすぐことを期待するべきだ。
「ニ」が本文と合致しない。(正解)

 最初の嫌疑者(「庖人」=料理人)と二人目の嫌疑者(=「竊瓶者」)との間に面識 

 はない。


*基礎的な句形のゆるぎない理解と、語彙力以上に文中の語意を正しく把握する力を駆使し、文章全体の中での傍線部として 矛盾のない解釈と説明が求められる。