「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度 早稲田大学法学部 現代文解説

2024年 早稲田大学法学部 国語(現代文パート) 解答解説
第三問(三)16点
                             
◎本文展開(マッピング
第一意味段落(①~③) 
①    ブルーノ(ルネサンスの哲学者)・・・コペルニクスの地動説を敷衍
  宇宙の( A )性と世界の( B )性を提唱

② ブルーノがコペルニクスから読み取ったもの
   ↓
 ・知の新たな基礎づけ=彼自身の野心的な哲学プログラムに呼応する宇宙論の素材
    ・不和と虚栄にまみれた人間社会の中で真理を語るという道徳の判例
    ↓
 (1)コスモ土ジーとモラルの二つに関して、ブルーノは自身と共鳴するものをコペ 

    ルニクスのなかに読み取った

③ ブルーノ・・・同時代の天文学の研究成果を吸収/自身の自然哲学に統合
      ↓
    ルネサンス天文学者たちが放棄しえなかった実在的な( C )の概念
      ↑
  まったくの錯覚だとして否定/宇宙が無限に広がっていることを主張(=A)

第二意味段落(④~⑨)
④ ブルーノの宇宙論
    中心も周縁斉一的な無限空間という近代的概念を明確に提起(=A)
  ・宇宙は無限に広がり
  ・どこにも中心はなく
  ・周縁もなく、
     ・そのなかに無限数の諸世界があって
  ・そのそれぞれで無限数の個物が絶え間なく生成消滅を繰り返している
      ↓
  (2)宇宙全体は存在としては一つであるため生成も消滅もしない
   ↓
  生成と消滅は、個物の観点から見られた相対的な区別にすぎない
        ↓
    宇宙の万物は存在としては一つ
    全体として果てしない連続体をなして( D )しつづけている
 ↓(この)
⑤ ブルーノの描き出した( D )の無限宇宙の姿(=A)
    =地球から恒星までを分け隔てなく含み込む均質で斉一的な無限空間(=A)
      天球概念(B)を完全に放棄して宇宙の無限性を提起(=A)
   宇宙の階層秩序(=B)を完全に否定して空間の斉一性を主張(=A)
  
 ルネサンス天文学者たち・・・拒絶反応
    ↑ 
  ( E )(=B)でなく規則もすべて相対的にすぎない宇宙(=A)・・・考えがたい 
 ルネサンス天文学者たちの考える無限宇宙

  ・・・有限(=B)の人間世界を取り巻く神的領域/天球概念(=B)
 ↓(そのような)               
⑥ ブルーノの宇宙論・・・斉一的な無限空間の概念
                            コペルニクスの地動説に負うものがある/両者の隔たりは大き

           い
↓(とはいえ)
⑦ ブルーノの宇宙論・・・コペルニクスから重要な示唆/運動と静止の相対性を示唆
            万物が果てしない連続体をなして( D )する

            ・・・相対性を極限にまで推し進めたもの
                            宇宙は閉じておらず、無限に広がっている(=A)
  ↓
⑧ ブルーノの宇宙論・・・コペルニクスの地動説をきわめて大胆に発展させた
   ↓
     ブルーノの存在論・・・一なる無限の存在が無限に多くの様態に変容し続ける
⑨ ブルーノの宇宙・・・そのなかに無限の数の諸世界が充ち満ちている(=A)
                          無限宇宙にして複数世界=神の全能の完全なる実現
                                       可能なものは存在し、存在していないものは不可能

    神の想像できる世界(=B)・・・すべて複数世界として実現/自然を超越する領域

第三意味段落(⑩~⑬)
 ↓(こうした)
⑩ ブルーノの宇宙論存在論(=A)
  地の新たな基礎づけ
  存在は一/宇宙は無限/世界は複数/可能なものは存在し、存在していないものは

  不可能
     ↓(これを認めるなら)
    人間による自然の認識には確固とした根拠があることになる
    自然にもとづく学問/神にもとづく学問・・・確たる根拠をもって人間社会の形成に寄

 与できる
    (逆に)
    宇宙が無限でない/世界が複数でないのなら
     ↓
    (3)なぜあれではなくこれが存在しているのかという中世以来の問題(=B)に悩

    まされる
    神は恣意的なものに、世界は偶然的なものになってしまう(=B)
       ↓
  善行を薦める宗教はその根拠を失う/知識を蓄える学問はその根拠を失う

⑪ 真理を語ることの範例を、ブルーノはコペルニクスのうちに読み取った
 ↓
⑫ コペルニクスへの称賛/地動説を理解しない学者たちに対しての怒りと憤り
    ↓
  「衒学者ども」
   ・・・自分の発言に責任を取らない/プトレマイオスアリストテレスの文言を理

     解せずに並べる/周囲に人にいい顔を見せようとするばかり
   ↓  
  学問的争点の議論が成立しない/虚栄しかない
 ↓
⑬ ブルーノによるコペルニクスへの称賛
      ↓
  衒学者への非難
     真理を認めることのできない虚栄に満ちた人間とその社会への診断と一続き


◎設問解説
コペルニクスの地動説に影響を受けたジョルダーノ・ブルーノのコスモロジーとモラ

 ルの革新性について論じた文章。
*設問は空欄補充、傍線部説明、欠落文補充、内容合致問題と多岐にわたる。必ず本

 文を最後まで通読してから設問に臨みたい。あらかじめ、設問や選択肢に目を通し

 ておくことは言うまでもない。

問十三(記述・漢字)
 a 頑迷(頑冥) b 翻

問十四(マーク・選択)
*空欄補充問題。冒頭に空欄が設定されているので、本文のテーマ(主張)に関係した

 語句が入る。したがって本文全体から検討する必要がある。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
*空欄A・Bの検討・・・(A)の要素
②    ブルーノがコペルニクスの地動説を敷衍して
 「宇宙の( A )性と世界の( B )性を提唱」した
  ↑
 空欄Aと空欄Bには、同種の語句が入ることがわかる。両者はセット。

 ↓
◆「宇宙と世界」について書かれた部分を拾う。
④「宇宙は無限に広がり、どこにも中心はなく、また周縁もなく、そのなかに無限数の

 諸世界があって、そのそれぞれで無限数の個物が絶え間なく生成消滅を繰り返してい

 る」
⑨「ブルーノの宇宙は、無限にして果てしなく広がっているのみならず、そのなかに無

 限の数の諸世界が充ち満ちている」
 「無限宇宙にして複数世界」
  ↓
*「宇宙」=無限、「世界」=無限数、複数 ということが見えてくる。
 したがって、A=「無限」、B=「複数」が入る。
*空欄Eの検討・・・(B)の要素
⑤「ルネサンス天文学者たちにとって、( E )でなく規則もすべて相対的にすぎ

 ない宇宙(=A)は考えがたい」
  「ルネサンスの哲学者たちのなかには宇宙の無限性を考えた者もいたが・・・」
    ↑
 空欄(E)にはBの要素が入るのだから、「無限性」とは反対の語句が入る。そうす

  ると、「有限」しかない。
正解:「ニ」

問十五(マーク・選択)
*傍線部の説明問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
*ブルーノが自身の「コスモロジー」(宇宙論)と「モラル」(真理)に関して、コペ

 ルニクスの影響を受けている、と述べている部分を拾い、まとめる。

◆「コスモロジー」の説明部分・・・ブルーノの宇宙論
⑦「コペルニクスの議論は~運動と静止の相対性を示唆するもの~すべて相対性なもの

 とみなしうるという着想を与えるもの」
⑧「コペルニクスの地動説をきわめて大胆に発展させた」
  ↓
コペルニクスの議論・・・ブルーノに運動と静止の相対性を示唆するもの(X)
ブルーノの宇宙論・・・コペルニクスの地動説をきわめて大胆に発展させた(Y)

◆「モラル」(←筆者は「真理」とも述べている)・・・コペルニクスとの関わりを述べて

 いる部分
⑪「真理を語ることの範例を、ブルーノはコペルニクスのうちに読み取った」
⑫「コペルニクスへの称賛」
⑬「ブルーノによるコペルニクスへの称賛は~衒学者への非難」
   ↓
ブルーノはコペルニクスの議論から、真理を語ることの範例を読み取った(Z)
 ↓
*選択肢を検討する
 イ・・・正解
 ロ・・・「プトレマイオスの天動説~議論するために」の部分が誤り。方向が違う。
 ハ・・・「コペルニクスの生き方を自身の人生のモデルとして」が言い過ぎ。
 ニ・・・「宇宙が有限であることを再確認」が誤り。方向が違う。
 ホ・・・「自然を超越した神の意志を証明」が誤り。話題が違う。

*因みに「衒学者」とは、学識をひけらかし傲慢な態度を見せるような人物のこと。

問十六(マーク・選択)
*空欄補充問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
ルネサンス天文学者たちが放棄できなかった実在的な( C )なので、空欄には

 ブルーノが否定した「天文学者」の従来の考え方を表した語句(=Bの要素)が入

 る。これを第④段落以降、探していく。
⑤「有限の人間世界を取り巻く神的領域」(B)
 「天球概念」(B)
  ↓
*選択肢を検討して、ホ「天球」しかないことが分かる。

問十七(マーク・選択)
*欠落文補充問題。最初に欠落文の表現上の特徴をつかみ、対応する部分を探してい

 く。
欠落文が(B)の要素であることが分かれば挿入するのはたやすい。
◆欠落文の表現上の特徴
1.「人間社会」が主語なので、直前は人間社会についての記述がある。(宇宙の話題

  ではない。)
  →「イ」「ロ」の直前は宇宙についての話題なので除外される。
2.「信においても知においても」と述べているので、「信」「知」に関する話題が直

  前に書かれている。
  →「イ」「ロ」「ハ」の直前に「信」「知」に関する話題はないので除外される。
3,欠落文はBの要素であり、「基盤を欠」くことと、「不和のなかに埋もれ」るBの

  記述が直前にある。
  →「イ」「ロ」「ハ」の直前はAの要素の内容なので除外される。

  「ホ」の直前は「衒学者」に対する批判を述べた部分なので除外される。
  ↓
正解は「ニ」しかない。第⑩段落末尾は「知」の「基盤を欠」くことと、「信」にも

 「知」にも「不和」が生じる内容(Bの要素)が述べられている。

問十八(マーク・選択)
*空欄補充問題。空欄Dは傍線部2に対応するというヒントがある。従ってまず傍線部

 2を検討したのちに、空欄の前後を検討する 
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
◆傍線部2と空欄Dの前後の文脈の確認
④「宇宙は無限に広がり」「どこにも中心はなく」「周縁もなく」「そのなかに無限数

 の諸世界があって」 
  ↓
 「そのそれぞれで無限数の個物が絶え間なく生成消滅を繰り返している
  ↓(それでも)                              

 「宇宙全体は存在としては一つであるため生成も消滅もしない
 「生成と消滅は、個物の観点から見られた相対的な区別にすぎない」
  ↓
 「宇宙の万物は存在としては一つ」
   「全体として果てしない連続体をなして」
   「( D )しつづけている」
   ↓
⑤「( D )の無限宇宙の姿」
 ↓
*つまり、「宇宙は生成消滅を繰り返し、果てしない連続体として無限に( D )し

 つづけている」という内容。
 イ「寂滅為楽」・・・迷いの世界から離れた心安らかな悟りの境地が、楽しいものであ

         るということ。
  ロ「生々流転」・・・すべての物は絶えず生まれては変化し、移り変わっていくこと。

         ←これが正解
  ハ「有為転変」・・・世の中のすべての現象や存在は常に移り変わるものであって、決し

         て一定しているものではないということ。 

         ←紛らわしい選択肢だったが、文脈の趣旨からすると、「ロ」の方

          が良い。
  ニ「輪廻転生」・・・人が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わること。
  ホ「永劫回帰」・・・世の中は同じ事象が永遠に繰り返してくるということ。 

問十九(マーク・選択)
*傍線部の内容説明問題。
〈解答への道筋・思考のプロセス〉
*傍線部は「なぜ~存在しているのかという中世以来の問題」という「存在に関する疑

 問」(=Bの要素)の内容を聞いているので、Aとの対比において存在に関する疑問

 (B)に該当する部分を拾っていく
⑨「ブルーノの宇宙」
 「神の想像できる世界は複数世界として実現」「世界は実際に無限の数」(A)から

 すると
  ↓
 「神は世界を別様にも創造しえたのか」(B)
 「この世界だけでなく他にいくつもの世界を創造しえたのか」(B)
  ↑
 「成立しえない問題」
   「自然を超越する領域はない」
   「可能なものは存在」「存在していないものは不可能」
  ↓
⑩「宇宙が無限でなく、世界が複数でないのなら」(B)
  ↓
 「なぜあれではなくこれが存在しているのかという中世以来の問題」(B)に悩まさ

 れる
    ↓
 「神は恣意的なものに、世界は偶然的なものになってしまう」(B)
 「善行を薦める宗教はその根拠を失う」「知識を蓄える学問はその根拠を失う」(B)
  ↓
*つまり傍線部は、「なぜ神が世界を他にいくつも創造しなかったのか、という問題

 ということができる。
 中世の神学者たちは世界が実際には複数で、無限に存在していることを知らなかった

 からである。
 イ・・・正解。
 ロ・・・「宇宙を一なる無限の存在として創造」が矛盾した表現。引っかけの問題。
 ハ・・・「恣意性を排して」が方向が違うので誤り。

    「宇宙が有限であることを偶然の現象として位置づけた」も話題が違う。
  ニ・・・「可能世界が複数世界によって汲み尽くされてしまうことを許容」の方向が誤

   り。
 ホ・・・「可能なものは存在し、存在していないものは不可能」を覆すことができなか

   った、というのが話題、方向ともに誤り。

問二十(マーク・選択)
*内容一致問題。ブルーノがコペルニクスの考えをどのように読み取ったのかを正しく

 捉えること。
 イ・・・「地動説を嘲笑した衒学者」「怒りを隠さなかったコペルニクス」は、話題に

     ないので誤り。
 ロ・・・正解。第②段落、第⑬段落の内容と合致する。
 ハ・・・「人間社会が相対的なものである」が方向が違うので誤り。
 ニ・・・「衒学者立ちとの議論を強いられる」「敵対者から攻撃を受けたコペルニクス

     の運命」が話題にないので誤り。
 ホ・・・「宇宙が神的領域であると捉えたコペルニクス」は話題にないし、「自らの説

     との差異を認めながらも」は方向が違うので誤り。
 ヘ・・・「宇宙が無限であることにすでに気づいていたコペルニクス宇宙論」は話題

    が違うので誤り。 
 ト・・・正解。第④段落、第⑤段落の内容と合致する。
  

 

第四問(四)10点(予想)
◎本文展開(マッピング
第一意味段落(①~③) 
ノマド(=A)とテリトリー(=B)の結びつき・・・緊密なもの
    テリトリー・・・一人の人間や人間集団が、自分の場を切り開いて居座り、テントを張

        るような場所(B)
  ノマド・・・テントのなかで、ある決まった期間のあいだ生きる
    ↓
  対立するものではないテクスト状で遙かに繊細な関係を紡ぐもの
  テリトリー論(B)とノマド論(A)・・・占拠し、保有し、享楽することが問題
    ↓
    同一化することなく双方が所有でも無所有でもない、中間領域において相互に漸近し

 ていくかのような事態 

② テリトリー論(B)・・・自分が一定の場を占める領域をどのように切り出し、把握

            し活用するか、そこでどのように存在するか、いかにその領       

            域とかかわるか
                →生態学的な問題
    ↓(それが)
   自己所有の土地を句切り固有のものとして排他的に所有する

   =限定された狭い意味で理解
    ↓(それはまさに)
   土地や時空間の組織化のあり方/個体自体の存在のあり方/個体と土地の関係のあ

  り方  →集団的な生存様式

    ↓(その一方で)                                                            
   ノマド論(A)・・・閉鎖した固有領域を切り分け、それを所有する(B)のとは異なる

          1別の生存様式
      ↓(それは)
  個体がおのれに固有の領域をつくることなしに土地や時空間とかかわるしかた
     所有という外観を根底から批判的に検討する
  排他的な領土所有とは別のしかたで大地にしがみつくことを思考
  独占的所有の条件を批判的に照らし出し、所有とは異なるあり方を積極的に呈示
↓(それゆえ)
③ ドゥルーズにおけるノマディズム・・・
    (ある領土から別の領土への遍歴)(ある私有地=固有性から別の私有地=固有性へ

  と移動する)(B)→ではない
     ↓
 (A)一切の領域の私有=固有性の廃棄

     所有の対象となるとされる領域の同一性の停止
    領域に生息する生態自身の同一性の宙吊り
      ↓
  排他的で自己同一的な固有性という「佳士家」全般(B)を一撃で括弧に入れてし

  まう
   ↓
   ある領土から別の領土へ移るだけ/領土の固有性が温存されたまま 

  →理論的な地盤は揺るがぬまま、放置(B)
    ↓(したがって)
  2ある領域から別の領域へと「渡り歩くこと」は、じつのところ、ノマドとはほと

   んど関係がない
      ↓(こうした渡り歩き)
    点=アイデンティティに従属した行路/様々な土地へと重たい自我と同一性形式が移

   動してゆくだけ(B)
      (問題は/すなわち)
    固有性という形式そのものを揺さぶり、宙吊りにすること(A)
      ↓
    対象の中身は問題ではない/テリトリー=領土論の射程はきわめて広大(A)

第二意味段落(④~⑤) 
④ ドゥルーズ思想・・・
  「領土」と「ノマド」・・・「鋭利」に対立する語彙

⑤ ドゥルーズの「土地の問い」・・・土地、領域、場の分割をめぐる思考(B)
    ↓(それは)
    他者との共有なき排他的な独占領域の裁断、囲いで覆われた私有地を定めるべく境界

 画定をすること(B)
  =社会的な属性/述語/活動領域/能力/種としての性質 

   →いずれ滅ぶ植物、動物、鉱物の運命
    ↓(それは)
    自己に対して本来的に付与された固有性をまっとうしながら、その外に出ることなく

 死ぬ存在者
  ↓                  
    固有性の思考(B)・・・3ある個体の命運を決する「裁き」のシステム

          ある個体に生ずる一切が、私有地の限界のうちに含まれている
    ↓(ライブニッツ「主語への述語の内属)
    主体の持ち分=運命を、その「内的な固有性=所有物」をして決すること

第三意味段落(⑥)
⑥ ドゥルーズノマド論・・・
    領域画定的な思考法(B)を存在論的に解体する作業/決して還元されることのない

 存在論の様式の開拓
      ↓(それは)
  生に対して、超越的なしかたで外側から限界を課すことのない生存様式の創出
   ↓(なぜなら)
    生こそが、特性や形質をある時間だけ持続する「固有性」=「多様体」として、無目

 的に発生させつくりだす(A)
   ↓
    生きることよりも上位に立ついかなる超越的な基準を認めない/そうした基準を測る

 のは生(A)
      ↓
  先行する原理や上位の原理を一切持たない無原理的な生こそが価値評価を行う(A)
      ↓
  産出されたものである価値や、裁きの基準となる法や規則

  ・・・産出する力能である生
   4 ⇔(に対して)                            
  論点先取的なしかたで覆いかぶさってくるという転倒を退ける
      ⇔
    定住的な思考法(B)

 ・・・各個体に割り振られる分け前が、当の個体から独立に外から決せられる

    ⇔(そうした様式とはちがって)
    ノマド的思考(A)

 ・・・カテゴリーの升目に分かたれることのない、グラデーション状の〈存在〉の領野

    のうえに、運命を固定されない特異性や強度が分布
      どのような存在者であれ、〈存在する〉ということの意味にはちがいなどない 
      ⇔
   存在の類比(B)・・・存在者のあいだに、垂直状に位階序列化されたカテゴリーをつく

          り
          階層の異なるカテゴリーのそれぞれに、異なる意味の〈存在=本

          質〉を割り振る
      ⇔(のに対し)
   一義的な〈存在〉(A)

  ・・・平面上に散らばった様々な存在者に対して等しく同じ意味で「存在する」とい

    うことが言われる
   ↓
    5ノマディズムとは、存在の類比のヒエラルキーに抗する、存在の一義性のアナーキ 

  ーである

 

◎設問解説
ドゥルーズの説を紹介しながら哲学思想について述べた文章。非常に抽象度が高く、

 受験生にとっては、時間愛にしっかり理解して回答するというすることは困難であろ

 う。
 文章を自身の経験に基づいて具体化、一般化するような知識がある程度前提となるか

 もしれない。
*ただし、問二十一~二十四の選択問題は、各選択肢の前半部分はすべて正しいので、

 ここに気づけば割り切って選択肢を 検討できるので、問二十五の記述問題に時間を

 割くことができる。受験生にとっては賭けとなるけれど。

問二十一(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第①段落、第②段落の論旨を捉える。
*傍線部の直前がテリトリー論(B)の内容なので、傍線部はノマド論(A)の内容で

 あることが分かる。
ノマド論(A)の要素を拾う。
①「テントのなかで、ある決まった期間のあいだ生きる」
 「対立するものではないテクスト状で遙かに繊細な関係を紡ぐもの」
 「同一化することなく双方が所有でも無所有でもない、中間領域において相互に漸近

 していくかのような事態」 
②「閉鎖した固有領域を切り分け、それを所有するのとは異なる」
 「個体がおのれに固有の領域をつくることなしに土地や時空間とかかわるしかた」
    「所有という外観を根底から批判的に検討する」
 「排他的な領土所有とは別のしかたで大地にしがみつくことを思考」
 「独占的所有の条件を批判的に照らし出し、所有とは異なるあり方を積極的に呈示」
  ↓
*「別の生存様式」とは
  1 テントのなかで、自分の場を切り開いて居座るのではなく、ある決まった期間の

    あいだ生きる
  2 お互いが所有でも無所有でもない、中間領域において相互に漸近していく
  3 固有の領域をつくることなしに土地や時空間とかかわる
  4  排他的な領土所有とは別のしかたで大地にしがみつく
  5 所有とは異なるあり方
 ということになる。選択肢を検討する。全選択氏の前半部分は正しいので、後半を比

 較する。
 イ・・・「閉鎖した固有領域を切り分ける」の部分の方向が誤り。
    ロ・・・「境界画定を模索する」はBの要素なので誤り。
 ハ・・・「逆向きの光によって疑問符を突きつけながら」は話題が違う。「土地への定

             住を享楽」はBの要素。
 ニ・・・「集団的な生存様式」の方向が誤り。
   ホ・・・正解。第①段落、第②段落の内容と一致している。

問二十二(マーク・選択)
*傍線部理由説明問題。第③段落の論旨を捉える。
*「ノマド」(A)と「ある領域から別の領域へと「渡り歩くこと」=遍歴」(B)と

 の違いを読み取る。
◆「ノマディズム」(A)・・・
③「一切の領域の私有=固有性の廃棄」
 「所有の対象となるとされる領域の同一性の停止」
 「領域に生息する生態自身の同一性の宙吊り」
    「固有性という形式そのものを揺さぶり、宙吊りにすること」
◆「ある領域から別の領域への遍歴(B)・・・
③「ある私有地=固有性から別の私有地=固有性へと移動する」
 「領土の固有性が温存されたまま」
 「理論的な地盤は揺るがぬまま、放置」
   「様々な土地へと重たい自我と同一性形式が移動してゆく」
  ↓
*選択肢を検討すると、前半の(B)の要素については共通内容なので、後半のノマデ

 ィズム(A)の要素を比較検討する。
 イ・・・「領土の固有性を確認」はBの要素なので誤り。
 ロ・・・「ある私有地=固有性から別の私有地=固有性へと移動させること」はBの要

     素なので誤り。
 ハ・・・正解。
 ニ・・・「同一性という形式を保ちつつテリトリー論の射程を広大にすること」はBの

     要素なので誤り。
 ホ・・・「さまざまな固有性を獲得しうるように」はBの要素であり、方向も違うので

             誤り。

問二十三(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第④段落、第⑤段落の論旨を捉える。
*「ある個体の命運」(=B)の要素を拾っていく。
⑤「土地、領域、場の分割をめぐる思考」
   「他者との共有なき排他的な独占領域の裁断」
  「囲いで覆われた私有地を定めるべく境界画定をすること」
  「いずれ滅ぶ植物、動物、鉱物の運命」
  「固有性をまっとうしながら、その外に出ることなく死ぬ存在者」
  「ある個体に生ずる一切が、私有地の限界のうちに含まれている」
  ↓
*これらをまとめると
1 他者との共有なき排他的な独占領域が
2 固有性をまっとうしながら、その外に出ることなく滅ぶ運命にあり
3 個体に生ずる一切が、私有地の限界内に含まれている存在
  ↓
 *これらが「裁断される=裁かれる/決定される/命じられる」ということ。そこで選

 択肢を検討する。このあたりで、各選択肢の前半は同内容で正しいと言うことに気づ

 きたい。法学部の問題の例年の特徴である。
 イ・・・正解。
 ロ・・・「自ら選び取った固有性」の方向が誤り。
 ハ・・・「自己の私有地~裁断」「割り振られる社会的属性に応じて生きる」が誤り。

     方向が違う。
 ニ・・・「閉鎖されたモナドに含まれる~生きるよう命ずる」の方向が誤り。
 ホ・・・「種の本能一般に従って生きるよう命ずる」の話題が誤り。

問二十四(マーク・選択)
*傍線部内容説明問題。第⑥段落前半の論旨を捉える。
*「生(=A)と対比される「論点先取的なしかた」「転倒」(B)の言い換え部分を

 拾っていく。
◆傍線部直前「生」(A)の要素
⑥ 生=「超越的なしかたで外側から限界を課すことのない生存様式の創出」
    「産出されたものである価値や、裁きの基準となる法や規則」を「産出する力

               能」をもつ
        「特性や形質」を「無目的に発生させつくりだす
        「先行する原理や上位の原理を一切持たない無原理的」なもの
 ↓
生きることは、先行する原理や上位の原理を一切持たない無原理的なものであり、超

 越的なしかたで外側から限界を課すことのない価値や法や規則などの生存様式を産出

 する力能・・・解答要素(X)
◆「論点先取的なしかた」「転倒」(B→価値や順番が逆転しているということ)の要

 素 
「生より高次の価値から、生に対して評価や判断を下す行為」・・解答要素(Y)
  ↓
*(X)(Y)の観点から選択肢を検討する。本来は「生」が生み出したはずの価値や

 法や規則などが逆に「生」を評価する事態のことを述べている選択肢が正しい。各 

 選択肢の前半部分はみな正しいので、後半部分(Y)だけ検討する。
 イ・・・「その力能に対してすら」「一切を裁き評価」の方向が誤り。
 ロ・・・「社会の法や規則が越権的に生を裁き評価」の方向が誤り。
   ハ・・・「その力能に先立って存在する高次の価値や越権的基準」の方向が誤り。
 ニ・・・正解。
 ホ・・・「それらに先立つ超越的基準が不可避的に存在」の話題が違う。

問二十五(記述・120字~180字)
*傍線部内容説明問題。ドゥルーズの思考に基づいて、ノマド的思考(A)がもつ「存

 在の一犠牲」と「アナーキー」の特徴について説明する。
ノマド的思考(A)を「存在の類比のヒエラルキー」(B)と対比させながら論じ

 る。
 「存在とは(B)の思考では~であるのに対し、(A)の思考では~であるというこ

   と」という形が解答の大枠になる。制限字数の幅が広いが、できるだけ180字に近い

 形で解答するの良い。
*各要素を冒頭から拾い直していくと時間がかかるので、これまでの正解の選択肢の文

 言を利用すると良い。
◆Bの要素を拾っていく
問二十一「ホ」
「ある土地や領域を自己に固有のものとして排他的に所有し、協会を管理しながら棲みつく」
問二十二「ハ」
アイデンティティや固有性を温存」
問二十三「イ」
 「自己に対して本来的に付与された固有性に従い、本質主義的な仕方でその限界内でのみ生きるよう命ずる」
⑥「定住的な思考法」・・・「各個体に割り振られる分け前が、当の個体から独立に外か

              ら決せられる」
    ↓
 「 存在の類比」・・・「存在者のあいだに、位階序列化されたカテゴリー(=存在の類

           比のヒエラルキー)をつくり」
           「階層の異なるカテゴリーのそれぞれに、異なる意味の存在を割

                                  り振る」
  ↓
*整理すると
存在とは、定住的な思考法では各個体は外から位階序列化されたカテゴリーによって

 割り振られ、固有化した領域を排他 的に所有し、その限界内でのみ生きること

  ・・・解答要素(X)

◆Aの要素(ノマド的思考)
問二十一「ホ」
「所有でも無所有でもない」「独占的所有という観念とは異なるあり方」
問二十二「ハ」
「一切の領域における固有性を廃棄し、所有の対象となる領域の同一性を停止」
問二十四「ニ」
「生きることは~無原理的なもの」「生こそはどんな超越的基準によっても正当化される必要がない産出する力能」
⑥「領域画定的な思考法を存在論的に解体する作業」
 「カテゴリーの升目に分かたれることのない、グラデーション状の〈存在〉の領野の

 うえに、運命を固定されない特異性 や強度が分布」
  「どのような存在者であれ、〈存在する〉ということの意味にはちがいなどない」
  「存在する」とということが言われる」
  ↓
*整理すると
ノマド的思考では領域画定的な思考法を存在論的に解体し、一切の領域における固有

 性を廃棄し、カテゴリーの升目に分かたれることのない、グラデーション状の領野の

 うえに、運命を固定されない特異性や強度が分布するので、存在者は運命を固定され

 ず、等しく存在する意味オが与えられているということ。・・・解答要素(Y)
  ↓
*(X)(Y)を表現など整理して、180字以内に圧縮して統合する。この程度書ければ上出来。
解答例:
 存在とは、定住的な思考法では各個体は位階序列化されたカテゴリーによって割り振られ、固有化した領域を排他的に所有し、その限界内でのみ生きることであるが、ノマド的思考では領域画定的な思考法を解体し、一切の領域における固有性を廃棄し、グラデーション状の領野に運命を固定されない特異性や強度が分布するので、存在者は運命を固定されず、等しく生きる目的が持てるということ。(180字)

参考:大手予備校の解答例(HPに掲載されています)
〈S校〉
  存在者は位階序列的にカテゴリー化され、それぞれ異なる意味をなす本質を持ち、その排他的で自己同一的な固有性に制約されているという思考法を解体して、超越的基準のない無原理的な生こそが特性や形質を持つ個別の存在者を一時的活無目的に作り出すのであり、存在者はすべてそのあり方を画定されない様々な特異性や強度を持って平面上に等しく同じ意味で産卵してあると考えること。(179字)
〈k校〉
 定住的な思考では、各個体は先行的に存在する階層秩序のカテゴリーに割り振られ、排他的に自己の領域を占有し、そこで固有性を固守するしかないが、ノマド的思考はそうした考え方を解体し、特異性をもつ多様な存在者の散らばるグラデーション状の平面を想定するため、そこで存在者は平等なものとされ、いかなる外在的原理にも制約されず、自分の場を切り開き生を創出しうるということ。(179字)