「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度 早稲田大学法学部 国語(古典)解説

2024年度 早稲田大学法学部 国語(古典) 解答解説  
第一問 古文「小さかづき」(14点)
★江戸時代の仮名草子からの出題。法学部の問題は文章中に和歌が含まれることが多

 い。早稲田の古典は、法学部が一番難しい。文法や語句と文脈を結びつけて答えさせ

 る問題が多い。
★問題文は前半で、「足ることを知る」ことの重要性と、「世の常の人」にとっては

 「足らざるを足れり」とすることは不可能だ、ということを述べている。
★後半は「太秦の池の蛙」が「二足歩行をしたい」という願いが叶う代わりに、目が後

 ろ向きになってしまったので、結局昔の通りの四足歩行に戻してもらったという逸話

 を引き合いに、身の丈に合わない願望を持つことを戒める内容となっている。
★本文を読む前に、注と設問に目を通して、選択肢を頼りにできるだけ情報を仕入れて

 おくことが大切である。設問(傍線部)は相互に関連しているので、最初にできるだ

 け全体を俯瞰したい。このことはトレーニングを積み重ねれば身についてくる。

問一(マーク・選択) 
*空欄補充問題。
第一段落冒頭
「たる事をしるといへる事、人の一生のたから。」・・・作者の主張
 ↓(老子の引用)
「たらざるをたれりとする時は~たんぬとする事也」(=身の丈に合った充足感を持つべきだ)
  ↓
第二段落
「されどもよのつねの人は、たらざるをたれりとする事は」(=世の常の人は、足りていないことに満足することは)
 ↓
( A ) なければ、(=「Aなし」なので)
 ↓
「たれる事をしれりとや申すべからん」(=満足することを知っていると言うことはできない)
  ↓
第三段落
「おほくの人、其のたる事をしらで、十をえては百をねがひ、百をえては千万無量をのぞみて」(=一般の人はどこまでも満足するということを知らない)
「かへつてむかしこひしくなれる事、いとはかなし」

 (=逆に充足していなかった昔が恋しくなるのはむなしいことだ)
  ↓
*従って空欄の前後は、「世の常の人」にとっては、「Aなし」なので、「足らざるを

 足れり」とすることは不可能だ、ということになる。
 イ「および」・・・「及びなし」=無理だ/力が及ばない/分が過ぎる  ←正解
 ロ「あたひ」・・・「あたひなし」=価値がない
 ハ「ゆゑ」・・・「ゆゑなし」=理由がない/風情がない
 ニ「あひ」・・・「あひなし」=「あいなし」=気にくわない/つまらない
 ホ「うら」・・・「うらなし」=考えが浅い/虚心だ/無心だ

問二(マーク・選択)
*和歌の空欄補充問題。和歌の前後の文脈を検討する。
第三段落
「おほくの人、其のたる事をしらで、十をえては百をねがひ、百をえては千万無量をのぞみて」(=一般の人はどこまでも満足するということを知らない)
「かへつてむかしこひしくなれる事、いとはかなし」

 (=逆に充足していなかった昔が恋しくなるのはむなしいことだ)
 ↓
逢坂の あらしの風は さむけれど ゆくへしらねば( B )」

  ←「逢坂」と「逢ふ」は掛詞
  (歌意)=逢坂に吹く嵐の風は寒いけれど(=逢いたい人に会えず悲しいけれど)

       その寒い風の行方は分からないので(=逢いたい人の行方は分からないの  

      で)( B )。 
   ↓
「およばざる事をねがひ、かなふまじきみちなど~おもふまじきわざなるべし」
  (=及ばないことを願い、叶えられないことなどを思ってはならない)
  ↓
*ということは、空欄Bには、「分不相応なことを考えてはならない」=「寒い風に耐

 えてただ寝るだけだ」という内容が入ることになる。
 イ「せきこゆるかも」=逢坂の関所を越えることだ
    ロ「やすくもあらむ」=簡単なことだ
 ハ「わびつつぞぬる」=嘆きながら寝ることだ ←正解
 ニ「ゆかしかりけり」=逢いたいなあ  ←ひっかけ
 ホ「なはぞちりける」=桜の花が散ったことだ ←文脈と合わない

問三(マーク・選択)
*語句の意味問題。a・b・c・eの「かなふ」は四段活用で「願いが叶う/思い通り

 になる」という意味。dは「用事をかなへ、」と連用中止法になっており、下二段活

 用で「思い通りに実現させる/願いを叶える」の意である。dが正解

問四(マーク・選択)
*傍線部の解釈の問題。
◆傍線部直前の部分
「なほもしくはかなひ、もしくはおよぶとも」(=もし願いが叶ったとしても)
「大かたはとどまる事をしらば」(=そもそもそこで満足することを知っていれば)
  ↓
「あやふかるまじきみち也」(=危険でないに違いない方法である)
*「あやふかる」=「あやふし」(危険だ)/「まじき」=「まじ」(=打消当然~な

 いに違いない)/「みち」(=方法/やり方)
 イ「危ないので通るべききではない道」・・・「危ないので」の解釈が誤り。
 ロ「実現が不可能であろうと思われる手段」

   ・・・「実現が不可能であろう」の解釈が誤り。
 ハ「危機を冒してはならない重要な側面」・・・「危機を冒す」の解釈が誤り。
 ニ「命を落としかねない不安な方法」・・・「命を落とす」「不安な」の解釈が誤り。
 ホ「困難に陥ることを避けられる生き方」←正解。

問五(マーク・選択)
*空欄補充問題。
「泥亀/づれ/と/同じ/やう/に/四足/を/もつ/て/はひまはれ/る/事/こそ/やすから/( C )」
  ↑
*「こそ」があるので空欄Cには已然形が入る。

 そうすると候補はロ「め」(む)・ニ「ね」(ず)・ホ「じ」(じ)となる。
*文脈は、「泥亀のやつらと同じように四つ足で這い回っているのは嫌だ」と推察でき

 るので、意味的にCには打消が入りそうだが、「じ」が係り結びの已然形として用い

 られた用例は少なく、また「打消推量」(=心穏やかではないだろう)ではなく、言

 い切っていると考えればニ「ね」が正解と考えるのが良い。

問六(マーク・選択)
*語句の意味と内容説明問題。「作善」(さぜん)とは、「仏縁を結ぶような、さまざ

 まな善行を行うこと」の意。単語の意味を知っている受験生はすくないだろうが、設

 問に「作善」として「提案されていたもの」とあるので、文脈から「作善」の内容を

 読み取ることが可能である。
◆傍線部の前の行(「一つの蛙」の発言)
「若し其の願かなひ侍らば、なにをか、ふせにいたすべき」
 (=もし二足歩行の願いが叶うなら、仏にお礼の財物として何をお供えすれば良い

 か)
  ↓
「作善なくては、いかが、とあれば、是こそまことにいはれたりとて」
 (=仏様がお礼の財物がほしいというのなら,仰るとおりなので)
 ↓
「あるいは水草のはなを奉らん」

 (=薬師寺の池にある水草の花をお供えしようとしたり)・・・(X)
「あるいはいさごを塔とくみて仏を供養せん」

 (=砂を塔のように積み上げて仏様に供えよう)・・・(Y)
  ↓
*という流れなので、「作善」とは(X)(Y)のことであることがわかる。
 (「いさご」=「砂」であることは、選択肢から分かる)
 イ・・・二足歩行ができたならば、蛇(=くちなは)にも対抗できるという、傍線部よ

    り前の部分の内容。
 ロ・・・正解。
 ハ・・・次の段落で「いさごを塔とくみて」という提案に対して別の蛙が、完成しなか

    った伝説上の橋を引き合いに出して、砂を塔のように積み上げることは困難だ、

    と発言した内容。
    因みにこの蛙は「水草のはなを奉らん」ことにも反対し、願いが叶ったら、今ま

    で我々蛙は鳴き声がやかましく、僧たちの読経や瞑想の邪魔をしてきたので、今

            後はそれを控えようという提案をして、賛同を得ている。
 ニ・・・「水草の花を手で触れると汚れる」といっているのは、ハの蛙の発言である。
    ホ・・・「共に合唱して読経の修行」という部分が誤り。

問七(マーク・選択)
*傍線部の解釈問題。傍線部に至る前の部分 
「一新称名の大願をおこし、一七日参籠しければ」

 (=蛙たちがひたすらお祈りをした)
 ↓
「おほくの蛙二足をもつてたちにける」(=蛙の二足歩行が可能になった)
 ↓
「おもひのほかに引かへて」(=意外なことにその代わりに)
 ↓
「両眼うしろのかたへなりしかば」(=両眼が後ろ向きになってしまった)
 ↓
「ゆくもかへるの進退ここにきはまりければ、またいろいろ祈願しなほし、からがらむかしの身になりけるとかや」
 (=どうしようもなくなったので、蛙たちは祈願し直して、どうにかもとの四足歩行

 に戻った)
 ↓
「われ人、こ/の/蛙/の/願だて/なき/に/し/も/あら/ず」
    =われわれ人間も、この蛙の願掛けと同様のことがないわけでもない。
 =分不相応な願いをしてとどまるところを知らない
 ↓
*という展開から、選択肢を検討する。現代文と同様に、末尾と冒頭は連動している。
 イ・・・「薬師如来に誓った約束~改変してしまった」「われわれも易きに流れる傾向

     がある」の部分が誤り。
 ロ・・・正解。
 ハ・・・「自分たちの力で成し遂げるのが難しいことを避け現実的な手段を選んだ」の

       部分が誤り。
 ニ・・・「願い事があるときだけそれを控えて都合良く振る舞う」「奔放に振る舞って

    後悔することがある」の部分が誤り。 

 ホ・・・「自分たちの方が優れているとうねぼれている」「自らの能力を正当に見極め

    られず」の部分が誤り。 
                                                                                  

 

第二問 漢文「聴訟彙案」(10点)
★(A)は中国明代の冤罪事件について述べた文章、(B)は江戸時代の儒学者津坂東

 陽が自分の意見をつけ加えた文章。それぞれ冤罪を防ぐためにどのようにすれば良い

 か述べている。
★古文と同様に、最初にリード文、注、設問に目を通す。注の説明と設問の選択肢か

 ら、本文が裁判に関係する話だということが推察される。
★問題文には注番号が附されていないので、最初にチェックして語を囲むなどマークを

 しておくと良い。

問八(マーク・選択)
*書き下し問題。選択肢がヒントになる。
1 不 勝 痛 楚 輒 誣 服 。(痛楚に勝へずして、輒ち誣服す。)
*「不勝~」=「~にたへず」(~に耐えることができない)、「輒」=「すなはち」

 (すぐに)。←基本的な読み方。これで決めてかかれば、選択肢は「ロ」か「ニ」に

 絞れる。
*次に文脈を検討する。傍線部までの内容は、儀式の後、「金瓶」(金製のかめ)が紛

 失し、側にいた「庖人」(料理人)が捉えられ、拷問にかけられた、という内容。そ

 れを受けて傍線部なので、「痛楚」=「苦痛」、「誣服」=「服従」と推測できる。
*(因みに「誣服」の実際の意味は、「無罪であるのにやむを得ず刑に服する、という

 意味。この意味を知っていれば、料理人にかけられた嫌疑は冤罪だと分かるが、これ

 は受験生には無理だろう。)
*以上から、正解は「ニ」と判定できる。傍線部の主語は「庖人」なので、「ロ」はお

 かしい。
現代語訳:料理人は、拷問の苦痛に耐えられなくて、すぐに罪を認めた。

問九(マーク・選択)
*傍線部の解釈、内容説明問題。
2 無 何、( 何と(も)無く(して))
*結論から言えば、ここでの「何」は「幾」(いくばく)の意味なのだが、「何」の語

 義から導くことはできない。
*「無何」の語義から検討するのではなく、傍線部前後の文脈から推察し、解答を導き

 出す。漢文という教科が「中国語」ではなく、「国語」であるということを示す問題

 であるといえる。
◆傍線部1から傍線部2までの内容
 「庖人」が自白したので、「瓶」を「(探)索」したが見つからなかった。
  ↓
 そこでさらに「庖人」を問い詰めたところ、「壇前某地」(祭壇の側)に埋めてあると言うので掘ってみたが見つからなかった。(「庖人」はもともと盗んでいないのだから、でまかせを言ったのであろう。)
  ↓
 そこでさらに収監されることになった。
◆傍線部2の後の内容
 「竊(窃)瓶者」=「実際に瓶を盗んだ者」が、「瓶」にかけられていた「金縄」を「市(場)」に「鬻」=売った。
    ↓
 これを怪しいと思った人が「官」=役人に「質」(ただす)=問いただした。
    ↓
 「竟」(つひに)=とうとう、「得其竊瓶状」=瓶を盗んだ張本人を捕まえた。
*そこで選択肢を検討すると、
 イ・・・傍線部より以前の出来事なので、「無何」の内容としてはおかしい。
 ロ・・・「何も白状しなかった」の部分が誤り。
 ハ・・・内容は正しいが、「無何」の説明になっていない。
 ニ・・・イと同じ。
 ホ・・・正解。消去法でこれしかない。

問十(マーク・選択)
*傍線部の解釈問題。傍線部前後の文章を検討する。
 「竊(窃)瓶者」=「実際に瓶を盗んだ者」が、「瓶」にかけられていた「金縄」を「市(場)」に「鬻」=売った。
    ↓
 これを怪しいと思った人が「官」=役人に「質」(ただす)=問いただした。
    ↓
 「竟」(つひに)=とうとう、「得其竊瓶状」=瓶を盗んだ張本人を捕まえた。
    ↓
 瓶を盗んだ張本人にありかを問いただしたところ、「壇前某地」に埋めてあると言うので、掘り返したら見つかった。
    ↓
 その場所は、「庖人」の指摘した場所と「不數寸耳」=ほんの僅かしか離れていなかった。(「耳」はここでは断定の意
  ↓
 もし「庖人」に瓶を掘らせてたまたま見つかり、または瓶を盗んだ張本人が「不鬻金縄于市」=「金縄」を市場に売らなかったとしたら、
  ↓
3 庖 人 之 死 百 口 不 能 解 。

  (庖人の死百口なりとも解(と/ほど)くこと能はず。)
    ↓
 「然則」=そういうことであるのでつまり
    ↓
 「嚴刑之下、何求不得」=厳罰を下しても、何も得るものはない。  
*「死」=「死罪」。「不能」=「~できない」。
*ここまでの文脈から、
 「もし庖人の掘ったところからたまたま瓶が見つかり、もしくは瓶を盗んだ張本人が金縄を市場に売ら なかったとしたら、庖人の死罪は免れない」という内容であることが推察できる。
 イ・・・正解。「解」は「とく」または「ほどく」と読み、「弁解」の意であろう。
    ロ・・・内容が全部誤り。そもそも「庖人」の解釈が違う。
 ハ・・・料理人は死亡していない。「假し~令むれば」の解釈が誤り。
 ニ・・・内容も全く違うが、「可能である」が「不能」と対応していない。
 ホ・・・内容が全部誤り。

問十一(マーク・選択)
*空欄補充問題。空欄X前後の内容を検討する。
 国家が「矜疑一路」=被告人に同情して刑事裁判に慎重を期するようになれば、
  ↓
 所 全-活 ( X ) 多 矣 。 (冤民を全活する所多からん。)
    ↓
 「斷獄」=罪を裁くことは、「豈必以速爲貴哉」=迅速であることを貴いとする必要はない。
  ↓
*つまり、筆者が「多」くなるだろうと予想しているのは、冤罪を免れる人民であるこ

 とが予想できる。「ハ」が正解。
*「活」には「活かす・命を助ける」という意味があり、「全活」は「全て救う」とい

 う意味になるだろうが、語句自体の意味が分からなくても解答できる。

 この問題も、漢文が「中国語」ではなく、「国語」であるということを示す問題。
 イ・・・「枉法」(おうほう)=法律を悪用すること。
    ロ・・・「贓證」(そうしょう)=盗品を隠したという証拠
 ニ・・・「斷獄」=罪を裁くこと
    ホ・・・「金瓶」=金製のかめ

問十二(マーク・選択)
*全体の要旨に関わる内容一致問題。(合致しないものを選ぶ。)
◆(B)の内容確認
 「凡治盗、贓證爲主。」

  =そもそも盗賊を退治するには、盗品を隠したという証拠を挙げることが主にな 

   る。
  ↓
 「如金瓶之獄、既誣服結案、殆將殺無辜」
  =料理人が金製の瓶を盗んだ罪で投獄されたのは、冤罪で刑に服し、もう少しで無

   実なのに殺されようとしたのだ。
    ↓
 「因別獲贓物、得冤枉矣。」

  =別の場所で隠した盗品を見つけたので、料理人は冤罪を免れることができた。
    ↓
 「贓物不獲者、未可遽決其獄。」

  =隠した盗品を見つけなかった者(=料理人)は、ただちに投獄を決定すべきでは

   ない。
    ↓
 「須矜疑緩死以俟平反也。」
  =なにごとも被告人に同情して刑事裁判には慎重を期し、むやみに死罪にすること

   なく、無実の罪をすすぐことを期待するべきだ。
「ニ」が本文と合致しない。(正解)

 最初の嫌疑者(「庖人」=料理人)と二人目の嫌疑者(=「竊瓶者」)との間に面識 

 はない。


*基礎的な句形のゆるぎない理解と、語彙力以上に文中の語意を正しく把握する力を駆使し、文章全体の中での傍線部として 矛盾のない解釈と説明が求められる。