「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度京都大学国語 第3問文系古文

2024年度 京都大学国語 
第三問 古文(文系) 「とはずがたり」(50点)

★京大の古典で要求されていると考えられる力
①現代語訳の力
→直訳・逐語訳が基本だが、適宜言葉を補ったり意訳したりして整える必要もあると考

 えられる(最終的に、内容が読み取れていることが示せなければ評価されない)。現 

 代語訳の問題を含めて全ての設問の根底にこの現代語訳がある。
②基本的な読解力
→主語判定の技術(敬語や接続助詞に適宜着目する)や和歌の読解の技術などがしばし

 ば要求される。
③背景知識(文学史や古典常識)や文章構造(対比・対応など)から細部を推理する力
④設問への対応力
→設問の要求にきちんと答えて答案を作る力(→対話能力)と、設問のタイプに応じて

 合理的に解答を導いていく力とに分けられる。
⑤総合的な言語運用能力
→自分が使う言葉を客観視できるかどうか(きちんと相手に伝わる表現になっているか

 どうか)、「言葉の位相」を的確につかんだ上で語句の意味、内容を読み取ったり、

 答案をまとめたりできるかどうかなど。

【出典】「とはずがたり
*著名な作品からの出題は、京大文系古文の一つの流れなので、出題歴のある「源氏物

 語」を代表とする平安時代の典型的な文章にも馴れておく必要がある。
*一方で近世の随筆、歌論からの出題も京大文系古文の一つの流れなので、論理的な文

 章にも馴れておく必要がある。
*和歌についての修辞、現代語訳、内容説明などの対策は必ずしておきたい。
*今回は漢文、漢詩の問題は出題されなかったが、前年度やそれ以前には出題されてい

 るので、漢文や漢詩を読む練習はしておきたい。
*現代語訳は、人物の補い、指示内容の具体化など解りやすい丁寧な現代語訳が要求さ

 れている。文脈を踏まえた現代語訳の練習が必要である。
*今回の「とはずがたり」についての文学史的な知識、概要については是非あらかじめ

 知っておきたい。
京都大学の文系に対する要求水準は、例年どおり高い。

 

問一 傍線部(1)はどういうことか、説明せよ。(2行 10点)
*「つれなく」(=なんでもない/平気だ/つれない/無情だ)の内容判定が難しい。

 「めぐりあひ」は具体的に誰と巡り会ったのかを明らかにする。本文1行目「形のご

 とく仏事など営みて」から、父の33回忌の法要を行うことが読み取れる。
*説明問題なので、客観的に解答する。
*解答欄は2行なので、1行25文字として、50字前後で解答を作成する。

〈解答例〉(52字)
 作者は父が亡くなった後も、淡々と生きてきたが、いつの間にか、父の三十三回忌を迎える時期になったということ。 。
→10点=主語の提示・・・2点、「つれなく」の訳・・・4点、「めぐりあふ」の訳・・・4

 点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 作者は、父久我雅忠が亡くなって三十三年の年を心ならずも迎えることになってしまったということ。(45字)
〈K予備校〉
 父が亡くなった後も、作者自身は思うにまかせぬ命をながらえてしまって、父の三十三回忌を迎えたということ。(50字)
〈T予備校〉
 何ごとかを成すというわけでもないままむなしく生きながらえて、死別した父の三十三回忌を迎えてしまった、ということ。 (87字)


問二 傍線部(2)を、適宜ことばを補いつつ現代語訳せよ。(3行 10点)
*条件付き現代語訳問題。考慮するポイントは以下の7点。
①「漏れ」の主体の補充 →父の歌が勅撰和歌集に採用されなかったということ。
②「給ひ」の尊敬語の訳出 →「~なさる」
③「世にあら(る)」の具体化 →リード文から作者は既に出家しているので、「俗世

  にいて宮仕えをしている」こと。
④「ましかば~む」の反実仮想の訳出  →「もし~だったら、~だろうに」(「に」は

 入れた方が良い。)
⑤「などか」の反語の訳出  →「どうして~であろうか、いや、~ないだろう」
⑥「申し入れざら」の謙譲語と打消助動詞の訳出  →「申し入れない」
⑦「申し入れ」の内容  →父の歌を勅撰集に入集させてもらうこと。
 ↓
*①~⑦をまとめる。解答欄は3行なので、1行25文字として、75字前後で解答を作成

 する。
〈解答例〉
  今回の勅撰和歌集に父の和歌が採用されなさらなかったことは悲しい。私が俗世で宮仕えをしていたら、どうして入集をお願い申し上げないだろうか、いやお願いしたであろうに。(80字)
→10点=①示・・・1点、②・・・1点、③・・・2点、④・・・2点、⑤・・・1点。⑥・・・1点、

    ⑦・・・2点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 今回の勅撰和歌集に父の和歌が採用されなさらなかったのは残念だ。もし私が、在俗の身ならば、どうして採用をお願いしないだろうか、いや、お願い申し上げるだろうに。(77字)
〈K予備校〉
 今回の勅撰和歌集には父の和歌が撰ばれなさらなかったことが悲しい。私が、まだ宮仕えをしていたなら、どうして入集をお願いしないだろうか、いや、しただろうに。(75字)
〈T予備校〉
 この度の「新後撰和歌集」には、父上の歌が入集なさらなかったことが悲しい。私が、俗世にいて宮仕えを続けていたら、そうして御歌の入集を申し入れないことがあろうか、必ず申し入れたでしょう。(90字)


問三 傍線部(3)を、適宜ことばを補いつつ現代語訳せよ。(2行 10点)
 *和歌の三、四、五句の条件付き現代語訳問題。比喩の部分と表の意味の部分を区別す

 るところがポイント。
①「いたづらに」の訳出 →「むなしく/役に立たないで/無益に」
②「海人」の掛詞の訳出 →「漁師」と「尼」(=作者自身のこと)との掛詞。
③さらに、傍線部(2)から(3)までの記述から、作者は代々勅撰集の作者であった

 家系が途絶えてしまうことを悲しく思っていることも勘案する。
④主語は「私」であること。
 ↓
*①~④をまとめる。解答欄は2行なので、1行25文字として、50字前後で解答を作成

 する。

〈解答例〉(51字)
  和歌の浦にむなしく打ち捨てられた漁師の舟のように、我が身は和歌の世界で無益に見捨てられる尼であることよ。
→10点=主語の提示・・・1点、「いたづらに」の訳・・・3点、「海人」の掛詞の訳出・・・

    4点。自分が和歌の世界で見捨てられるという内容・・・2点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 和歌浦に海人が捨てた舟のように、出家した私は今回の勅撰和歌集の撰進について何もできなかったことだ。(48字)
〈K予備校〉
 和歌浦にむなしく捨てられている漁師の舟のように、私は和歌の世界で無益に見捨てられている尼に過ぎない。(49字)
〈T予備校〉
 和歌浦に乗り捨てられた漁師の舟のように、尼となり俗世を離れた私は、和歌の世界では役にも立たないうち捨てられた身の上ですよ。 (60字)


問四 傍線部(4)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*説明問題。傍線部は作者の夢の中での父の言葉である。
*傍線部の直訳は「どちらにつけても、無視されてよい身(見捨てられるはずの身)で

 はない」となる。ここから、次の点を具体化する。
①「いづ方」→父、父方の祖父、母方の祖父、どちらにつけても代々の勅撰集の作者で

 あったということ。
②「捨てらるべき身」→和歌の世界で無視されてよいはずの身、ということ。
 ↓
*現代語訳をベースに、①②をまとめる。説明問題なので、客観的に解答する。
*解答欄は3行なので、1行25文字として、75字前後で解答を作成する。

〈解答例〉
  作者の父や父方の祖父、また母方の祖父は代々の勅撰集入集の歌人であったので、父方母方どちらの家系につけても、和歌の世界で無視されてよいはずの身ではないということ。(79字)
→10点=「いづ方」の具体化・・・5点、「捨てらるべき身」の具体化・・・5点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 作者は、父や父方の祖父にも母方の祖父にも優れた歌人を持つのだから、父方母方のどちらの家系から見ても和歌の世界で顧みられないはずの身の上ではないということ。(76字)
〈K予備校〉
 作者は、父も祖父も母方の祖父も、それぞれ勅撰集に入集した歌人であり、双方の家系から言っても和歌の世界で無視されてよい存在ではないということ。(69字)
〈T予備校〉
 祖父も父も外祖父も勅撰和歌集に歌が入集する優れた歌人であったから、父方の血統から見ても母方の血統から見ても、作者は歌人としてうち捨てられてよいはずの身の上ではない、ということ。 (87字)


問五 傍線部(5)のようになったのはなぜか、直前の和歌の内容に基づいて説明せ

   よ。(4行 10点)
*条件付きの理由説明問題。
①「なほもただかきとめてみよ藻塩草人をもわかず情けある世に」の解釈
  ↓
 二句切れ、三区切れの歌。「藻塩草」=和歌。
 現代語訳:あきらめずに引き続き書き留めてみよ。和歌を。人を分け隔てせず、情け

      深いこの世に。
  ↓
 歌意:世の中は、和歌は身分を分け隔てることなく評価されるので、とにかく和歌を

    詠んで書き留め続けることを勧めている ・・・解答要素①
②この和歌が詠まれた状況の説明
    ↓
 父が作者の夢枕に現れて励まされたことで、作者自身も父や祖父の代から続く歌人としての家系を継承する自覚が生まれている ・・・解答要素②
 ↓
*解答要素①②を整理してまとめる。説明問題なので、客観的に解答する。
*解答欄は4行なので、1行25文字として、100字前後で解答を作成する。

〈解答例〉(106字)
  この世で和歌は身分を分け隔てることなく評価されるので、とにかく和歌を詠んで書き留め続けることを夢の中で父から和歌で勧められたことで、父や祖父の代から続く歌人としての家系を絶やさずに継承する自覚が生まれているから。
→10点=解答要素①・・・5点、解答要素②・・・5点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 夢枕に立った作者の父が、優れた歌を詠むと誰彼となく認めてもらえる世の中であるから、このまま続けてとにかく和歌を書き留めてみるようにという内容の歌を残していったから。(81字)
〈K予備校〉
 夢に現れた父に、身分にかかわらず秀歌は評価される世の中だから、和歌の詠作を続け、それを書き留めなさいという主旨の和歌を詠みかけられ、父祖が残した歌人としての名声を継承しなければならないと自覚したから。(99字)
〈T予備校〉
 亡き父が夢に現れて、血統から見て作者が優れた歌人に違いないことを伝え、「さらに和歌を詠んで書き残しておけ。よい歌を詠めば誰彼の区別なく歌人として認められるから」という和歌を詠んで、作者に和歌を詠み続け、和歌の道を継承することを進めたから。 (118字)

 

 

★現代語訳(参考)
 それにつけても、故大納言(作者の亡父、久我雅忠)が亡くなって今年は三十三年になりますので、形にのっとって仏事などを営んで、いつもの聖のところに遣わした諷誦文(故人の供養のため誦経を願う文)に、
  情けないことに(生きながらえて)めぐりあった。父と死に別れてから十年ずつを  

 三回と(繰り返して、)さらに三年に余るまで
 神楽岡という所で、(父が荼毘にふされて)煙となった跡を、尋ねて行ってみましたら、古い苔がじっとりと露を含んで、道を埋めた落葉の下を分けながら歩くと、石の卒塔婆が、形見だよと言いたげに残っているのも、たいそう悲しいのに、
それにしても、(父の歌が)この度の勅撰集(新後撰集)には、お入りにならなかったのが悲しい。私が俗世で宮中にいたのであれば、どうして(父の歌の入集を)お頼み申さないだろうか、いや申し入れただろう。(当家は)続古今集以来、代々の(勅撰集の)作者であった。また、私自身、(当家の)歴史を思うにつけても、竹園(親王家)の八代続いた和歌の家風が、むなしく絶えてしまうのかと、悲しく、(父の)最期、終焉の言葉など、かずかず思い出し続けて、
  古びてしまった(和歌の家としての)名声が残念だ。和歌の浦にむなしく打ち捨て 

 られた漁師の舟(のように、我が身は和歌の世界で無益に見捨てられる尼であること

 よ
 このようにくどくどと申し上げて帰った夜、(父が)生前そのままの姿で(夢にあらわれ)、私も昔そのままの気持ちで、差し向かいで、この悲しみを訴えたところ、(夢の中の父は)「祖父久我の太政大臣(通光)は(新古今集にある)『落葉がうへのつゆの色づく』という歌を詠み、私が、(続後撰集にある)『おのが越路も春のほかかは』と(いう歌を)詠んで以来、(当家は)り代々の(勅撰集の)作者である。外祖父兵部卿隆親(作者の母方の祖父)は、(後嵯峨院が)鷲の尾に臨幸されたときに、(続古今集にある)『けふこそ花の色はそへつれ』とお詠みになった。(父母の家系の)どちらにつけても、無視されてよい身ではない。具平親王以来、当家の歴史は長いが、和歌の浦の波(当家の和歌の伝統)が絶えることはない」などと言って、立ち去りながら、
  (あきらめずに)引き続き書き留めてみよ。和歌の草稿を。人を分け隔てせず、情

 け深いこの世に。
と詠んで、立ち去ったと思うとともに、目が覚めたので、(夢の父の)むなしい面影は、私の袖の涙となって残り、(父の)言葉は、まだ夢の枕にとどまっている。
 この夢以来、格別にこの(和歌の)道をたしなむ心も深くなっていき、この機会に、(和歌の神である)柿本人麻呂の墓に七日参って、七日目という夜、夜通し拝んでおりましたところ、
  前世からの約束で、竹の末葉(親王家の末裔)につらなる(私の歌人としての)名

 がむなしいものになってしまったとしても、やはり(歌の道に)踏みとどまれとおっ

 しゃるのですか。