「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度京都大学語 文系第2問 

2024年 京都大学 第二問(文系)(文50点)
                             

第一意味段落(①~③)
②永遠という観念・・・其の根本の観念として時間性を持たぬものはない

③永遠・・・絶対に属する性質/無始無終/無限の時間的表現
   ↓
 本来神とか物質自体とかいう観念以外には用いられない言葉
  
 人間の創作に成る芸術圏内に使うのは言葉の転用 
     ↓
    芸術作品が永遠性を持つ・・・個人的観念を離れ、無始の太元から存在し、今後無限に存在する特質を持つ →芸術の究極の境は此処に存在
    ↓(此の永遠性)
    日月のように尊敬/今日あって明日は無いような芸術的生命から脱却したいと思う
     ・・・(1)至極当然なこと

第二意味段落(④~⑤)
④(2)其処へニヒルが顔を出す
      ↓
    永遠などという事があてになるだろうか
     ↓
  不朽、不滅などというのはあわれな形容詞に過ぎない
    法隆寺金堂の壁画/エジプトの古彫刻

   ・・・永遠と称するのは大いに甘い気休め   ⇔    天地の悠久
    自己が死んで此世に消滅した後の作品の不朽と否とを心に懸ける・・・卑しい考え
     ↓
 そういう関心事一切が一種の虚栄/空の空成るものを欲する弱さ
    芸術に関して永遠性というようなことを口にする・・・迂愚/荒唐の言を弄する
    芸術は制作時に於ける作者内面の要求を措いて他に考える余地を持たない
  ↓
⑤ 芸術の求める永遠性が単に時間の問題(=B)にとどまる
  時間を凌ごうという欲望に駆られることが芸術家の関心事  =卑俗の心
  永遠性とは時間の問題(B)ではない

第三意味段落(⑥~⑦)                  
⑥ (3)芸術に於ける永遠性とは感覚(A)であって、時間(B)ではない

  ↓
⑦ 一つの芸術作品の持つ永遠性
   ・・・その作品の力が内具する永遠的なるものの即刻即時に於ける被感受性(A)        永遠時への予約や予期(B)
         不滅を感じさせる力(A)⇔   不滅という事実の予定認識(B)
   無の時間に於ける無限持続の感覚(A) 
    ↓(それ故)
  芸術が永遠を欲する・・・性格を欲する(A)⇔   長命を欲する                    

    芸術は美を求めて進むもの

 その美の奥にはおのづから永遠を思わせるものが存在する
   ↑
 美は常に或る原型へと人を人を誘導する性質を持っている                             

第四意味段落(⑧~⑨)
⑧ 永遠の時間性・・・空間性に変貌して高度な普遍性につながる
     ↓(此の普遍性)⇔   通俗性

    人間精神の地下水的意味に於ける遍漫疏通の強力な照応・・・芸術の人類性/芸術の大きさ
     ↓
    (4)真に独自の大きさを持つ芸術作品は直ちに人に受け入れられない

     ←執拗な抵抗
     ↓
     不可解のため/解り過ぎるため・・・いつの間にか人心の内部にしみ渡る
   ↓
  真に大なるもの(A)は一個人的の領域から脱出して殆ど無所属的公共物となる

  万人のものとなる
     ↓
  芸術上の大を持たない作品=特殊の美(B2)・・・悠久にして普遍の感を持たない       
  偏倚の美乃至パテチツクの美(B2)・・・形而上的の永遠の感を持たない
       ↑
    世界に真砂の如く、恒河沙数の如くきらめく
       ↓         

 (5)さういふ明滅の美(B2)こそ真に大なるもの(A)を生ましめる豊饒の場と 

    なる

   ↓
⑨ 芸術上のこの永遠・・・人間精神と技術芸能との超人的な境に於ける結合から来る


◎設問解説
*芸術における「永遠」について述べた随想。やや古めの文章を出題する京大の傾向を

 踏襲している。
*設問は、何を書いたらいいかと途方に暮れる難問はないが、第一問と同様、解答範囲

 が狭く、解答欄を満たすのに苦労する。特に問四、問五は難しい。

 

問一 傍線部(1)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。傍線部の主語を確認した後に、傍線部を言い換える。
〈思考のプロセス〉
◆傍線部の主語
③「われわれ芸術にたづさはるものが此の永遠性を日月のように尊敬し、今日あつて明

  日は無いやうな芸術的生命から脱却したいと思ふのは・・・解答要素(X)                   (=刹那的な・その場限りの・一時的な
◆「此の永遠性」について、文脈を確認する
②「時間性を持たぬものはない」
③「永遠・・・絶対に属する性質/無始無終/無限の時間的表現」
   ↓
 「芸術作品が永遠性を持つ
   ・・・「個人的観念を離れ」
     「無始の太元から存在し」(=時間)
     「今後無限に存在する特質を持つ」(=時間)
         ↑                                        
    「芸術の究極の境はここに存する」
     ↓                                                 
   「此の永遠性」     (B)
 =「無限の時間的表現」(←この部分での解釈)=「芸術の究極の境」(=目的)

   ・・・解答要素(Y)
  ↓
*(Y)を前提として(X)を主語とし、傍線部で着地する、という形で解答を作成す

 る。
*ただし筆者は、芸術の永遠性は第④⑤段落で「時間の問題」(B)ではないと述べて

 いるので、ここでの解答は「(Y)であるとすれば」と仮定の形で解答するのが望ま 

 しい。
*傍線部の「当然だ」のぶぶんは敢えて言い換えなかったが、不安なら「理にかなって

 いる」「道理である」等、言い換えても良い。
*解答欄は3行なので、一行25字程度として75字程度で解答を作成する。

〈解答例〉
  芸術の目的が無限の時間的表現としての永遠性であるとすれば、芸術家ががこの永遠性を尊敬し、その場限りの芸術的生命から脱却したいと志向するのは当然だということ。(77字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 芸術の究極的境地が無限の時間的表現としての永遠性である以上、芸術家が、この永遠性を崇拝し、一時的な芸術的生命からの脱却を願うことは極めて理にかなっているということ。(81字)
〈K校〉
 芸術の究極目的が、個人による創作という観念から切り離された永遠に自立する作品の創造である以上、芸術家が作品の有限性を超えようとするのは自明の理だということ。(77字)
〈T校〉
 制作者が意識されることもなく、これまでもこれからもあり続ける天地のような作品が芸術の究極の境地だとすれば、芸術家が有限の時間を超越した永遠的作品を志向するのも当然だということ。(87字)


問二 傍線部(2)について、ここでの「ニヒル」とはどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。第④段落の傍線部の後~第⑤段落までを踏まえて、芸術に永遠性を求める

  ことに対するネガティブな見方を説明する。着地は「ニヒル」の意味=「虚無的」で

 結ぶ。
〈思考のプロセス〉
◆傍線部以降の文脈をたどる
④「永遠などという事があてになるだろうか」
  「不朽、不滅などというのはあわれな形容詞に過ぎない」
 「永遠~甘い気休め」 
  「卑しい考え」
     ↓(さういふ関心事一切が)
 「一種の虚栄」「空の空成るものを欲する弱さ」「迂愚」「荒唐」
  「制作時に於ける作者内面の要求を措いて他に考える余地を持たない」
 ↓
⑤「芸術の求める永遠性が単に時間の問題(=B)にとどまるならば」
  ・・・「卑属の心」
 「永遠性とは時間の問題(B)ではない」
  ↓
★つまり、芸術の求める永遠性を単に時間の問題としてとらえることは「甘い気休め」

 「卑しい考え」「一種の虚栄」「迂愚」「荒唐」「卑俗の心」であると述べてる

  ・・・解答要素(X)
  ↑(その理由)
芸術作品とは、「制作時に於ける作者内面の要求を措いて他に考える余地を持たない

 (=それ以外にはない)」から ・・・解答要素(Y)
 ↓
芸術作品とは(Y)なので、(X)であるという虚無的な見方をすること、という形

 で解答を作成すれば良い。「ニヒル」の意味は「冷めた見方」「批判的な見方」でも

 許容されるだろう。        
*解答欄は3行なので、一行25字程度として75字程度で解答を作成する。
*解答例はまだ練れていない感があるが、受験生にとっては本文の言葉を利用してこの

 程度に書ければ十分であるとして、あえてこれ以上の推敲はしなかった。

〈解答例〉
  芸術とは、制作時の作者の内面の要求意外にはないので、芸術の永遠性を単に時間の問題としてとらえることは虚しく卑しい考えであるという虚無的な見方をすること。(75字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 制作時における作者内面の要求を考えるしかない芸術に、無限の時間的表現としての永遠性を求めることは、空虚なものを欲する芸術家の卑俗さであると冷めた見方をするということ。(82字)
〈K校〉
 自らも含め全てが消滅を運命づけられており、自らの死後にも永遠に存在し続ける作品の創造を目指す芸術家の願望は、根拠のない愚かな虚栄だと批判すること。(72字)
〈T校〉
 万物は流転し、天地でさえ壊滅を免れない以上、有言の生命たる人間の創作する芸術作品に永遠性を望むこと自体が、卑俗な心に発する非現実的な妄言に過ぎないという虚無的な考えのこと。(85字)


問三 傍線部(3)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。傍線部の「感覚」(A)と「時間」(B)について、第⑦段落の要素を拾

 ってまとめる。「永遠性」とは不滅を感じさせる感覚のことであって、実際の時間的

 な不滅のことではないということをわかりやすく説明する。
〈思考のプロセス〉
⑦「芸術作品の持つ永遠性」
◆「感覚」(A)の要素
 「その作品の力が内具する永遠的なるものの即刻即時に於ける被感受性」
  「不滅を感じさせる力」
  「無の時間に於ける無限持続の感覚」
  「その美の奥にはおのづから永遠を思わせるものが存在する」
   ↓
作品が無限の時間感覚や永遠を感じさせる力を持っている ・・・解答要素(X)
◆「時間」(B)の要素  
  「永遠時への予約や予期」
  「不滅という事実の予定認識」
   ↓
作品が時間的に不滅であるという事実を予定している ・・・解答要素(Y)
*解答は、傍線部に書かれた順序に従えば、「芸術作品の永遠性とは(X)であって(Y)ではないということ」となるだろうが、「(Y)ではなく(X)である」と解答しても問題ないと思われる。
*解答欄は3行なので、一行25字程度として75字程度で解答を作成する。

 解答例は(Y)の表現がややこなれていないが、時間に追われる受験生にとってはこ

 の程度が限度だろう。この設問が一番平易に解答できる。

〈解答例〉
  芸術作品の持つ永遠性とは、作品が無限の時間や永遠を感じさせる力を持っていることであり、作品自体が時間的に不滅であるという事実の予定認識ではないということ。(76字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 芸術作品における永遠性とは、作品が人々に無限の時間制を感じさせる性質を持つということであり、作品自体が時間を超えて不滅であるという事実の予定認識ではないということ。(81字)
〈K校〉
 芸術作品の永遠性とは、時間における事実としての不滅を言うのではなく、その作品の内的価値が未来永劫に渡って享受されるだろうという予感を指しているということ。(76字)
〈T校〉
 一つの芸術作品の持つ永遠性とは、ある原型へと人を誘導する性質を持つ美によって享受者に永遠を感じさせる力に他ならず、作品それ自体がいつまでも永遠に存在し続けることではないということ。(89字)


問四 傍線部(4)はどういうことか、説明せよ。(4行 10点)
*内容説明。芸術の持つ普遍性について説明する問題。
*傍線部の「真に独自の大きさを持つ芸術作品」について、第⑧段落前半の文脈を丁寧

  にたどり、本文の順番を入れ替えて解答するという思考のプロセスが問われ、難問だ

 が受験生の腕の見せ所である。
〈思考のプロセス〉
◆第⑦段落前半の展開を整理する
⑧「永遠の時間性は~高度な普遍性につながる」

  ←ここが解答の着地点であることをおさえる。

 「真に独自の大きさを持つ芸術作品」・・・主語
     ↓
  「直ちに人に受け入れられない」
   ↓(その理由)
  「不可解のため」「解り過ぎるため」→「執拗な抵抗」を受ける  ・・・解答要素(1)
     ↓(しかも)=だが
  「いつの間にか人心の内部にしみ渡る」 ・・・解答要素(2)
     ↓
  「人間精神の地下水的意味に於ける遍漫疏通の強力な照応」
    =人間の精神と内的に照応する  ・・・解答要素(3)
     ↓
 「高度な普遍性につながる」「万人のものとなる」・・・解答要素(4)=着地点
  ↓
*(1)~(4)をまとめる。解答欄は4行なので、一行25字程度として表現を整えて

  100字程度で解答を作成する。

〈解答例〉
  真に独自の大きさを持つ芸術作品は、不可解でありまた解り過ぎるために執拗な抵抗を受けるが、いつの間にか人の心にしみ渡り、人間の精神と内的に照応することで高度な普遍性につながり、万人のものとなるということ。(100字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 真に固有の偉大さを持つ芸術作品は、不可解さや解りすぎるために必ず執拗な抵抗を受けるが、いつの間にか、人の心の内部に浸透し、やがて、人間精神に通底する照応により時空を超えて普遍の感を持つ作品として万人に享受されるということ。(110字)
〈K校〉
 その固有の価値が永遠に享受されるという予感を抱かせる芸術作品は、人類全体に感動を与える可能性を潜在させているが、多様な享受の仕方に基づく執拗な抵抗を経た後に、ようやく万人に受け入れられるようになるということ。(103字)
〈T校〉
 人間精神の普遍性と響き合って、いつの時代でもあらゆる人に不滅の価値を感じさせるような真に普遍的な芸術作品は、その不可解さのために、あるいはあまりに自明なものであるために、はじめは人に受け入れられないということ。(104字)


問五 傍線部(5)はどういうことか、説明せよ。(4行 10点)
*内容説明。「明滅の美」(=B2)が「真に大なるもの」(=A)を生ましめる「豊

 饒の場」なのだ、ということを説明する。「明滅の美」の意味を理解するのが難し

 い。
*第⑧段落と第⑨段落を中心に要素を拾いながら本文全体も踏まえて説明する。

 「明滅の美」=(B2)であると理解できたかどうか。
〈思考のプロセス〉
◆「さういふ明滅の美」(=B2)の説明
  ↑
⑧「特殊の美」・・・悠久にして普遍の感を持たない
 「偏倚の美乃至パテチツクの美」・・・形而上的の永遠の感を持たない
    ↓
悠久で普遍性を持たない特殊な美

 永遠性を持たない偏った感傷的な美(=B2)  ・・・解答要素(1)
    ↑
「世界に真砂の如く、恒河沙数の如くきらめく」=世界に無数に存在する  

  ・・・解答要素(2)
    ↓
「明滅の美」=現れては消えていく美 ・・・解答要素(3)

◆「真に大なるもの(=A)を生ましめる豊饒の場」の説明
 ↓
*これまでの展開と問三、問四から、「真に」「大なる」「芸術作品」とは、永遠性と

 普遍性を兼ね備えた万人のものとなる ものであることがわかる。したがって、
永遠性と普遍性を兼ね備えた万人の心に浸透する、偉大な芸術作品を生む豊かな土壌

 となる  ・・・解答要素(4)
  ↓
*ここまでを整理すると
(1)悠久で普遍性を持たない特殊な美や永遠性を持たない偏った感傷的な美は
(2)世界に無数に存在するが、
(3)そのような現れては消えていく美こそが 
(4)永遠性と普遍性を兼ね備えた万人の心に浸透する、偉大な芸術作品を生む豊かな

   土壌となる 
  ↓
*あとは、第⑨段落をどのように反映させるか。解答に必要ないのならこの段落は本文

 からカットすれば良かったわけで、掲載されているからには何らかの形で答案に反映 

 させる必要があると考えた方が良い。ただし、試験会場で時間に追われている受験生

 にそこまで要求するのは酷であるが。
   ↓
⑨「芸術上のこの永遠性が何処から来るか」
  ↓
 「結局人間精神と技術芸能との超人的な境に於ける結合から来るのであらう」
    ↓
「人間の精神と技術との結合が芸術の永遠性を生み出す」

  ・・・解答要素(5)←これを入れる
  ↓
(1)~(5)をまとめる。
 悠久で普遍性を持たない特殊な美や永遠性を持たない偏った感傷的な美は世界に無数に存在するが、そのような現れては消えていく美こそが、人間の精神と技術との結合による永遠性と普遍性を兼ね備えた万人の心に浸透する、偉大な芸術作品を生む豊かな土壌となるということ。(125字)
 ↓
*解答欄は4行なので、一行25字程度として表現を整えて100字程度で解答を作成す

  る。

〈解答例〉
  悠久や普遍性のない特殊な美や、永遠性のない偏った感傷的な美は世界に無数に存在するが、そうした現れては消えていく美こそが、精神と技術が結合した、万人の心に浸透する永遠で普遍的な芸術作品を生む豊かな土壌となるということ。(107字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 悠久で普遍の感を持たない特殊な美や、永遠性を持たない偏った美や感傷的な美は、芸術上の偉大さをもたないが、世界に数多く存在し、そうしたつかのま現れては消えていく芸術の美が、真に偉大な芸術作品を生み出す豊かな環境となるということ。(112字)
〈K校〉
 この世に存在する無数の芸術作品のほとんどは、一時で消え去る特殊な価値しか持っていないが、現実の作品の儚い美の数々こそが、永遠性と普遍性をかねそなえた万人の心を動かす芸術を産出する肥沃な基礎となるということ。(102字)
〈T校〉
 この世界では、特殊な価値しか持たない芸術作品が数知れず生み出されては消えていくが、そのような創作の営みこそが、人に不滅の価値を感じさせる真に普遍的な芸術作品を生み出させる豊かな土壌となるということ。。(104字)