2022年度 東大国語第1問 解答解説
鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」(40点)
(一)6点
*第1意味段落(1~4段落)から、筆者の体験を踏まえて「日本人らしさ」の内容を
説明する。
*「日本人としての仲間意識があった」が解答の中心になる。
★必須要素(2~4点)
◆「国外(外国・海外)では、同じ日本人・日本人同士に壁はない」と「期待した(考え
た・思った・認識した・判断した・油 断した)」ことに適切に触れていること。
○加点要素(4~6点)
1 傍線部の前の行の
「日本のなかでは日本人同士種々の集団に分かれてたがいに壁を築く」
「しかし、ひとたび国外に出れば・・・」
↑
この部分を解答に反映させる。
「国内では集団ごとに排他的でも」「国内では分断があっても」・・・(1点)
2 さらに、「その「甘さ」において」(=限定的)を反映させ、以下の要素を追加でき
るとさらに加点できる。
「仲間(身内)意識があるとする日本人的な心性が自分にあった」
「日本語を通した身内(仲間)意識に依存していた」 ・・・ (1点)
「許されるだろうという筆者の甘い想定があった」
〈解答例〉
国内では集団ごとに排他的でも、国外では同じ日本人という仲間意識を無意識に期
待する、日本人的な心性が筆者にあったということ。(60字)
※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉(73字)
自身の排除を招いた、国外ならばじ日本人として許されるだろうと思い込んだ心性 に、自身がそうした心的特徴を持つ日本人であることを再認識したということ。
〈K校〉(64字)
国内では緊張関係にあっても、国外では日本人同士なら許容されると思った点に、日本語を通じた身内意識に依存する感覚が働いていたこと。
〈Y校〉(64字)
国内では小集団に分断されていても、国外ではその分断は解消されるだろうという認識の甘さがまさに日本人の特質を表していたということ。
(二)6点
*第2意味段落(5段落)から、「日本のナショナリズム」(←これが主語)の内容を
説明する。
*「〈外〉とは外国、〈内〉とは日本国内のことであるかあら、
「外国人を排斥し非国民を摘出する」というのが解答の中心になる。
★必須要素(2~4点) 「その残忍な顔」=ナショナリズムによる排斥が、「外国人」と「日本人の一部」の両方に及んでいることに適切にふれていること。
○加点要素(4~6点)
1 「日本では階級の分断が進んでいる」に適切に触れていること。(1点)
2 「日本人の一部を非国民とする」ことが記述されていること。(1点)
〈解答例〉
階級の分断が進む日本のナショナリズムは、外国人の排斥と日本人の一部をも非国
民として摘出する動きを強めているということ。(59字)
※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉(74字)
日本社会の急速な階層分断に伴い、外国人を排除し、国内でも異質性を認定された国民の排除が進み、排他的なナショナリズムの本質が露呈しつつあるということ。
〈K校〉(69字)
日本国籍を持たない者を排除するとともに、国民内部に異質な存在を見出し、容赦なく切り捨てることで、国民の統合を目指す動きが強まっていること。
〈Y校〉(66字)
異質な人間をめざとく見つけ徹底的に排除しようとするナショナリズムの特質を、国内に向けても国外に向けても露わにしつつあるということ。
(三)6点
*第3意味段落(6~12段落)から、「名という制度」の内容を説明する。
第⑦段落「生地、血統も~「自然」も、自然にその人を日本人にはしてくれない」
第⑪段落の「名とは自然的性格のように仮構された制度だ」
↓
という内容が解答の核になる。
*この「強力に自然化された制度」というのが着地点になり、問四とも関係している。
「自然化された制度」ということは言い換えれば「人為的」ということだ。
★必須要素(2~4点)
「名や生地、血統」は人為的・人間によるもの、人間が与えるものであることを述べていること。
○加点要素(4~6点)
1 「~ではなく」の要素・・・(1点)
第⑪段落「名や生地、血統は、世界のありのままの姿の反映ではない」という内容
第⑦段落「自然には領域や帰属を規定する名はない」
2「自然のもののように見せかける」ことに触れていること・・・(1点)
〈解答例〉
国籍を示す名とは、世界のありのままの姿の反映ではなく、それを人為的に意味づ
け制度化し、自然に見せかける制度だということ。(60字)
※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉(74字)
元来自然は生じてただ存在するだけで一切未分であり、国籍付与の基準の一つである生地を指示する固有な名辞は、人の都合による創作に過ぎないということ。
〈K校〉(64字)
名は人間が付与するものであって、自然そのものには一定の領域を指し、個人の帰属先を規定する名が備わっているわけではないということ。
〈Y校〉(64字)
語の本来の意味における「自然」には、人間が確定した国境やその区画内に与えられた国名などの人為的な要素は一切存在しないということ。
(四)16点
*全体の趣旨を踏まえて、本文末尾に至る展開を説明する。
★必須要素(2~4点)
*「生まれの同一性は自然でないものを自然なものとする操作=仮構に過ぎない」
↓(したがって)
「日本人の排他性が日本人全てに向けられる可能性がある」=「安心はできない」
というのが解答の核となる。
〇得点の4要素(各要素は4点満点)
A 「ナショナリズムが依拠する生まれ(生地や血統)の同一性」といった内容が書けて
いること
※「生まれの同一性」が「生地」か「血統」の一方のみは減点
※「ナショナリズム」を欠くものは減点
B 「自然であるように見せかけた仮構(制度)」
「制度を自然だと仮構した」
「人為的に作られた制度(仮構)」
「自然でないものを自然とする操作」 といった内容
C 「制度・境界は容易に(恣意的に)変更しうる」
「国民統合のために絶えず非国民を生む」
「筆者が外国(国外・海外)で日本人から排除されたように」 といった内容
D 「日本人の排他性が日本人とされてきた誰に対しても向けられる可能性がある」
「日本人の誰もが日本人から排除(排斥)される危険性」
「いま日本人であっても日本人であることを否定される可能性がある」
といった内容
〈解答例〉
ナショナリズムが依拠する生まれの同一性は、制度的な生地や血統を自然であるよ
うに見せかけた仮構にすぎず、制度は人為的で簡単に変更可能なため、日本人の排他
性が日本人だとされていたはずの誰に対しても突如として向けられる可能性が常にあ
るということ。(120 字)
※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉
独立した存在たる人が、自然にはなれない日本人になるのはナショナリズムが主張する「生まれ」の「同一性」という仮構された制度を自然なものとするという操作によるもので、その逆の操作が起き得る以上、常に日本人から排除される危うさを秘めるということ。
〈K校〉
日本人とは、個として誕生する日本人に対し、血統に基づいて同一の国民であると思わせるべく仮構された制度であり、国民統合を維持すべく国内に絶えず非国民として排除する対象を生む制度であるため、日本人であれば誰もが排除される危険を免れ得ないということ。
〈Y校〉
同質性を核とし異質な者の徹底的な排除によって成り立つナショナリズムは、同じ生まれの者が自然に身につけた当然の価値観を共有していると思わせる制度的な「自然化」によって可能になるため、その自然さが失われる恐れを消し去ることはできないということ。
(五)6点
a 緩 b 滑稽 c 深長
*東大の第1問は60分で解答するのが目安です。
*本文を読む時間が5分、問四に費やす時間が30分として、問一から問三までは、7分~
8分で解答する目標を立ててください。