「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度京都大学国語第3問(文系)古文解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」塾 代表のbackbeat-akaです。

 今回は2024度京大 文系古文の解答解説を掲載します。

 近世(江戸)からの作品の出題が多い京大ですが、今回の出典は「とはずがたり」。有名な作品ですね。

 2013年度の東北大学や、2022年度の共通テストで出題歴があり、なんと京大でも2014年に文系で出題されています。

 「とはずがたり」といえば、何といっても後深草天皇と、女房として寵愛された作者である二条とのエピソードが有名です。

 二条は後に、正妻の嫉妬を恐れた後深草天皇から遠ざけられ、出家して旅に出るのですが、これまでの入試に出題される部分はほとんど、宮中での出来事でした。

 今回は作者の出家後(作者の歌人としての家系にまつわる事情)が出題されました。

 やはり、有名古典についてのリテラシー(常識)は把握しておいて下さい。これは東大古文の解説でも述べました。

 それにしても、京大文系の古文はいつもながら手強いです。理系の古文は比較的簡単なのですが。

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2024年度京都大学国語 第3問文系古文

2024年度 京都大学国語 
第三問 古文(文系) 「とはずがたり」(50点)

★京大の古典で要求されていると考えられる力
①現代語訳の力
→直訳・逐語訳が基本だが、適宜言葉を補ったり意訳したりして整える必要もあると考

 えられる(最終的に、内容が読み取れていることが示せなければ評価されない)。現 

 代語訳の問題を含めて全ての設問の根底にこの現代語訳がある。
②基本的な読解力
→主語判定の技術(敬語や接続助詞に適宜着目する)や和歌の読解の技術などがしばし

 ば要求される。
③背景知識(文学史や古典常識)や文章構造(対比・対応など)から細部を推理する力
④設問への対応力
→設問の要求にきちんと答えて答案を作る力(→対話能力)と、設問のタイプに応じて

 合理的に解答を導いていく力とに分けられる。
⑤総合的な言語運用能力
→自分が使う言葉を客観視できるかどうか(きちんと相手に伝わる表現になっているか

 どうか)、「言葉の位相」を的確につかんだ上で語句の意味、内容を読み取ったり、

 答案をまとめたりできるかどうかなど。

【出典】「とはずがたり
*著名な作品からの出題は、京大文系古文の一つの流れなので、出題歴のある「源氏物

 語」を代表とする平安時代の典型的な文章にも馴れておく必要がある。
*一方で近世の随筆、歌論からの出題も京大文系古文の一つの流れなので、論理的な文

 章にも馴れておく必要がある。
*和歌についての修辞、現代語訳、内容説明などの対策は必ずしておきたい。
*今回は漢文、漢詩の問題は出題されなかったが、前年度やそれ以前には出題されてい

 るので、漢文や漢詩を読む練習はしておきたい。
*現代語訳は、人物の補い、指示内容の具体化など解りやすい丁寧な現代語訳が要求さ

 れている。文脈を踏まえた現代語訳の練習が必要である。
*今回の「とはずがたり」についての文学史的な知識、概要については是非あらかじめ

 知っておきたい。
京都大学の文系に対する要求水準は、例年どおり高い。

 

問一 傍線部(1)はどういうことか、説明せよ。(2行 10点)
*「つれなく」(=なんでもない/平気だ/つれない/無情だ)の内容判定が難しい。

 「めぐりあひ」は具体的に誰と巡り会ったのかを明らかにする。本文1行目「形のご

 とく仏事など営みて」から、父の33回忌の法要を行うことが読み取れる。
*説明問題なので、客観的に解答する。
*解答欄は2行なので、1行25文字として、50字前後で解答を作成する。

〈解答例〉(52字)
 作者は父が亡くなった後も、淡々と生きてきたが、いつの間にか、父の三十三回忌を迎える時期になったということ。 。
→10点=主語の提示・・・2点、「つれなく」の訳・・・4点、「めぐりあふ」の訳・・・4

 点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 作者は、父久我雅忠が亡くなって三十三年の年を心ならずも迎えることになってしまったということ。(45字)
〈K予備校〉
 父が亡くなった後も、作者自身は思うにまかせぬ命をながらえてしまって、父の三十三回忌を迎えたということ。(50字)
〈T予備校〉
 何ごとかを成すというわけでもないままむなしく生きながらえて、死別した父の三十三回忌を迎えてしまった、ということ。 (87字)


問二 傍線部(2)を、適宜ことばを補いつつ現代語訳せよ。(3行 10点)
*条件付き現代語訳問題。考慮するポイントは以下の7点。
①「漏れ」の主体の補充 →父の歌が勅撰和歌集に採用されなかったということ。
②「給ひ」の尊敬語の訳出 →「~なさる」
③「世にあら(る)」の具体化 →リード文から作者は既に出家しているので、「俗世

  にいて宮仕えをしている」こと。
④「ましかば~む」の反実仮想の訳出  →「もし~だったら、~だろうに」(「に」は

 入れた方が良い。)
⑤「などか」の反語の訳出  →「どうして~であろうか、いや、~ないだろう」
⑥「申し入れざら」の謙譲語と打消助動詞の訳出  →「申し入れない」
⑦「申し入れ」の内容  →父の歌を勅撰集に入集させてもらうこと。
 ↓
*①~⑦をまとめる。解答欄は3行なので、1行25文字として、75字前後で解答を作成

 する。
〈解答例〉
  今回の勅撰和歌集に父の和歌が採用されなさらなかったことは悲しい。私が俗世で宮仕えをしていたら、どうして入集をお願い申し上げないだろうか、いやお願いしたであろうに。(80字)
→10点=①示・・・1点、②・・・1点、③・・・2点、④・・・2点、⑤・・・1点。⑥・・・1点、

    ⑦・・・2点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 今回の勅撰和歌集に父の和歌が採用されなさらなかったのは残念だ。もし私が、在俗の身ならば、どうして採用をお願いしないだろうか、いや、お願い申し上げるだろうに。(77字)
〈K予備校〉
 今回の勅撰和歌集には父の和歌が撰ばれなさらなかったことが悲しい。私が、まだ宮仕えをしていたなら、どうして入集をお願いしないだろうか、いや、しただろうに。(75字)
〈T予備校〉
 この度の「新後撰和歌集」には、父上の歌が入集なさらなかったことが悲しい。私が、俗世にいて宮仕えを続けていたら、そうして御歌の入集を申し入れないことがあろうか、必ず申し入れたでしょう。(90字)


問三 傍線部(3)を、適宜ことばを補いつつ現代語訳せよ。(2行 10点)
 *和歌の三、四、五句の条件付き現代語訳問題。比喩の部分と表の意味の部分を区別す

 るところがポイント。
①「いたづらに」の訳出 →「むなしく/役に立たないで/無益に」
②「海人」の掛詞の訳出 →「漁師」と「尼」(=作者自身のこと)との掛詞。
③さらに、傍線部(2)から(3)までの記述から、作者は代々勅撰集の作者であった

 家系が途絶えてしまうことを悲しく思っていることも勘案する。
④主語は「私」であること。
 ↓
*①~④をまとめる。解答欄は2行なので、1行25文字として、50字前後で解答を作成

 する。

〈解答例〉(51字)
  和歌の浦にむなしく打ち捨てられた漁師の舟のように、我が身は和歌の世界で無益に見捨てられる尼であることよ。
→10点=主語の提示・・・1点、「いたづらに」の訳・・・3点、「海人」の掛詞の訳出・・・

    4点。自分が和歌の世界で見捨てられるという内容・・・2点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 和歌浦に海人が捨てた舟のように、出家した私は今回の勅撰和歌集の撰進について何もできなかったことだ。(48字)
〈K予備校〉
 和歌浦にむなしく捨てられている漁師の舟のように、私は和歌の世界で無益に見捨てられている尼に過ぎない。(49字)
〈T予備校〉
 和歌浦に乗り捨てられた漁師の舟のように、尼となり俗世を離れた私は、和歌の世界では役にも立たないうち捨てられた身の上ですよ。 (60字)


問四 傍線部(4)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*説明問題。傍線部は作者の夢の中での父の言葉である。
*傍線部の直訳は「どちらにつけても、無視されてよい身(見捨てられるはずの身)で

 はない」となる。ここから、次の点を具体化する。
①「いづ方」→父、父方の祖父、母方の祖父、どちらにつけても代々の勅撰集の作者で

 あったということ。
②「捨てらるべき身」→和歌の世界で無視されてよいはずの身、ということ。
 ↓
*現代語訳をベースに、①②をまとめる。説明問題なので、客観的に解答する。
*解答欄は3行なので、1行25文字として、75字前後で解答を作成する。

〈解答例〉
  作者の父や父方の祖父、また母方の祖父は代々の勅撰集入集の歌人であったので、父方母方どちらの家系につけても、和歌の世界で無視されてよいはずの身ではないということ。(79字)
→10点=「いづ方」の具体化・・・5点、「捨てらるべき身」の具体化・・・5点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 作者は、父や父方の祖父にも母方の祖父にも優れた歌人を持つのだから、父方母方のどちらの家系から見ても和歌の世界で顧みられないはずの身の上ではないということ。(76字)
〈K予備校〉
 作者は、父も祖父も母方の祖父も、それぞれ勅撰集に入集した歌人であり、双方の家系から言っても和歌の世界で無視されてよい存在ではないということ。(69字)
〈T予備校〉
 祖父も父も外祖父も勅撰和歌集に歌が入集する優れた歌人であったから、父方の血統から見ても母方の血統から見ても、作者は歌人としてうち捨てられてよいはずの身の上ではない、ということ。 (87字)


問五 傍線部(5)のようになったのはなぜか、直前の和歌の内容に基づいて説明せ

   よ。(4行 10点)
*条件付きの理由説明問題。
①「なほもただかきとめてみよ藻塩草人をもわかず情けある世に」の解釈
  ↓
 二句切れ、三区切れの歌。「藻塩草」=和歌。
 現代語訳:あきらめずに引き続き書き留めてみよ。和歌を。人を分け隔てせず、情け

      深いこの世に。
  ↓
 歌意:世の中は、和歌は身分を分け隔てることなく評価されるので、とにかく和歌を

    詠んで書き留め続けることを勧めている ・・・解答要素①
②この和歌が詠まれた状況の説明
    ↓
 父が作者の夢枕に現れて励まされたことで、作者自身も父や祖父の代から続く歌人としての家系を継承する自覚が生まれている ・・・解答要素②
 ↓
*解答要素①②を整理してまとめる。説明問題なので、客観的に解答する。
*解答欄は4行なので、1行25文字として、100字前後で解答を作成する。

〈解答例〉(106字)
  この世で和歌は身分を分け隔てることなく評価されるので、とにかく和歌を詠んで書き留め続けることを夢の中で父から和歌で勧められたことで、父や祖父の代から続く歌人としての家系を絶やさずに継承する自覚が生まれているから。
→10点=解答要素①・・・5点、解答要素②・・・5点。(減点法)

*参考:大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 夢枕に立った作者の父が、優れた歌を詠むと誰彼となく認めてもらえる世の中であるから、このまま続けてとにかく和歌を書き留めてみるようにという内容の歌を残していったから。(81字)
〈K予備校〉
 夢に現れた父に、身分にかかわらず秀歌は評価される世の中だから、和歌の詠作を続け、それを書き留めなさいという主旨の和歌を詠みかけられ、父祖が残した歌人としての名声を継承しなければならないと自覚したから。(99字)
〈T予備校〉
 亡き父が夢に現れて、血統から見て作者が優れた歌人に違いないことを伝え、「さらに和歌を詠んで書き残しておけ。よい歌を詠めば誰彼の区別なく歌人として認められるから」という和歌を詠んで、作者に和歌を詠み続け、和歌の道を継承することを進めたから。 (118字)

 

 

★現代語訳(参考)
 それにつけても、故大納言(作者の亡父、久我雅忠)が亡くなって今年は三十三年になりますので、形にのっとって仏事などを営んで、いつもの聖のところに遣わした諷誦文(故人の供養のため誦経を願う文)に、
  情けないことに(生きながらえて)めぐりあった。父と死に別れてから十年ずつを  

 三回と(繰り返して、)さらに三年に余るまで
 神楽岡という所で、(父が荼毘にふされて)煙となった跡を、尋ねて行ってみましたら、古い苔がじっとりと露を含んで、道を埋めた落葉の下を分けながら歩くと、石の卒塔婆が、形見だよと言いたげに残っているのも、たいそう悲しいのに、
それにしても、(父の歌が)この度の勅撰集(新後撰集)には、お入りにならなかったのが悲しい。私が俗世で宮中にいたのであれば、どうして(父の歌の入集を)お頼み申さないだろうか、いや申し入れただろう。(当家は)続古今集以来、代々の(勅撰集の)作者であった。また、私自身、(当家の)歴史を思うにつけても、竹園(親王家)の八代続いた和歌の家風が、むなしく絶えてしまうのかと、悲しく、(父の)最期、終焉の言葉など、かずかず思い出し続けて、
  古びてしまった(和歌の家としての)名声が残念だ。和歌の浦にむなしく打ち捨て 

 られた漁師の舟(のように、我が身は和歌の世界で無益に見捨てられる尼であること

 よ
 このようにくどくどと申し上げて帰った夜、(父が)生前そのままの姿で(夢にあらわれ)、私も昔そのままの気持ちで、差し向かいで、この悲しみを訴えたところ、(夢の中の父は)「祖父久我の太政大臣(通光)は(新古今集にある)『落葉がうへのつゆの色づく』という歌を詠み、私が、(続後撰集にある)『おのが越路も春のほかかは』と(いう歌を)詠んで以来、(当家は)り代々の(勅撰集の)作者である。外祖父兵部卿隆親(作者の母方の祖父)は、(後嵯峨院が)鷲の尾に臨幸されたときに、(続古今集にある)『けふこそ花の色はそへつれ』とお詠みになった。(父母の家系の)どちらにつけても、無視されてよい身ではない。具平親王以来、当家の歴史は長いが、和歌の浦の波(当家の和歌の伝統)が絶えることはない」などと言って、立ち去りながら、
  (あきらめずに)引き続き書き留めてみよ。和歌の草稿を。人を分け隔てせず、情

 け深いこの世に。
と詠んで、立ち去ったと思うとともに、目が覚めたので、(夢の父の)むなしい面影は、私の袖の涙となって残り、(父の)言葉は、まだ夢の枕にとどまっている。
 この夢以来、格別にこの(和歌の)道をたしなむ心も深くなっていき、この機会に、(和歌の神である)柿本人麻呂の墓に七日参って、七日目という夜、夜通し拝んでおりましたところ、
  前世からの約束で、竹の末葉(親王家の末裔)につらなる(私の歌人としての)名

 がむなしいものになってしまったとしても、やはり(歌の道に)踏みとどまれとおっ

 しゃるのですか。

2024年度 京都大学国語 文系第2問 高村光太郎「永遠の感覚」解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」代表のbackbeat-akaです。

 2024年度京大文系第2問の解答解説をお届けします。

 難易度は例年並みだと思いますが、第1問と同様、これを40分程度で解答するには、かなりトレーニングを積む必要があります。

 共通テスト終了後に慌てて取り組むのではなく、7,8月から少しづつ、過去問題で練習していくことをおすすめします。

 文章を「読む」ことと「書く」ことの間には、大きな溝があります。読めなければ書けませんが、読めたからといって直ちに書けるものではないのです。

 どちらにも、読むための作法、書くための作法があります。こうした「思考のプロセス」を身につけて下さい。

 なお、今回取り上げる2024年度文系第2問は、非常に良くできた問題でした。素材文を探してきた京都大学の先生方に敬意を表します。

 

 

本文マーキング①

本文マーキング②

 

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2024年度京都大学語 文系第2問 

2024年 京都大学 第二問(文系)(文50点)
                             

第一意味段落(①~③)
②永遠という観念・・・其の根本の観念として時間性を持たぬものはない

③永遠・・・絶対に属する性質/無始無終/無限の時間的表現
   ↓
 本来神とか物質自体とかいう観念以外には用いられない言葉
  
 人間の創作に成る芸術圏内に使うのは言葉の転用 
     ↓
    芸術作品が永遠性を持つ・・・個人的観念を離れ、無始の太元から存在し、今後無限に存在する特質を持つ →芸術の究極の境は此処に存在
    ↓(此の永遠性)
    日月のように尊敬/今日あって明日は無いような芸術的生命から脱却したいと思う
     ・・・(1)至極当然なこと

第二意味段落(④~⑤)
④(2)其処へニヒルが顔を出す
      ↓
    永遠などという事があてになるだろうか
     ↓
  不朽、不滅などというのはあわれな形容詞に過ぎない
    法隆寺金堂の壁画/エジプトの古彫刻

   ・・・永遠と称するのは大いに甘い気休め   ⇔    天地の悠久
    自己が死んで此世に消滅した後の作品の不朽と否とを心に懸ける・・・卑しい考え
     ↓
 そういう関心事一切が一種の虚栄/空の空成るものを欲する弱さ
    芸術に関して永遠性というようなことを口にする・・・迂愚/荒唐の言を弄する
    芸術は制作時に於ける作者内面の要求を措いて他に考える余地を持たない
  ↓
⑤ 芸術の求める永遠性が単に時間の問題(=B)にとどまる
  時間を凌ごうという欲望に駆られることが芸術家の関心事  =卑俗の心
  永遠性とは時間の問題(B)ではない

第三意味段落(⑥~⑦)                  
⑥ (3)芸術に於ける永遠性とは感覚(A)であって、時間(B)ではない

  ↓
⑦ 一つの芸術作品の持つ永遠性
   ・・・その作品の力が内具する永遠的なるものの即刻即時に於ける被感受性(A)        永遠時への予約や予期(B)
         不滅を感じさせる力(A)⇔   不滅という事実の予定認識(B)
   無の時間に於ける無限持続の感覚(A) 
    ↓(それ故)
  芸術が永遠を欲する・・・性格を欲する(A)⇔   長命を欲する                    

    芸術は美を求めて進むもの

 その美の奥にはおのづから永遠を思わせるものが存在する
   ↑
 美は常に或る原型へと人を人を誘導する性質を持っている                             

第四意味段落(⑧~⑨)
⑧ 永遠の時間性・・・空間性に変貌して高度な普遍性につながる
     ↓(此の普遍性)⇔   通俗性

    人間精神の地下水的意味に於ける遍漫疏通の強力な照応・・・芸術の人類性/芸術の大きさ
     ↓
    (4)真に独自の大きさを持つ芸術作品は直ちに人に受け入れられない

     ←執拗な抵抗
     ↓
     不可解のため/解り過ぎるため・・・いつの間にか人心の内部にしみ渡る
   ↓
  真に大なるもの(A)は一個人的の領域から脱出して殆ど無所属的公共物となる

  万人のものとなる
     ↓
  芸術上の大を持たない作品=特殊の美(B2)・・・悠久にして普遍の感を持たない       
  偏倚の美乃至パテチツクの美(B2)・・・形而上的の永遠の感を持たない
       ↑
    世界に真砂の如く、恒河沙数の如くきらめく
       ↓         

 (5)さういふ明滅の美(B2)こそ真に大なるもの(A)を生ましめる豊饒の場と 

    なる

   ↓
⑨ 芸術上のこの永遠・・・人間精神と技術芸能との超人的な境に於ける結合から来る


◎設問解説
*芸術における「永遠」について述べた随想。やや古めの文章を出題する京大の傾向を

 踏襲している。
*設問は、何を書いたらいいかと途方に暮れる難問はないが、第一問と同様、解答範囲

 が狭く、解答欄を満たすのに苦労する。特に問四、問五は難しい。

 

問一 傍線部(1)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。傍線部の主語を確認した後に、傍線部を言い換える。
〈思考のプロセス〉
◆傍線部の主語
③「われわれ芸術にたづさはるものが此の永遠性を日月のように尊敬し、今日あつて明

  日は無いやうな芸術的生命から脱却したいと思ふのは・・・解答要素(X)                   (=刹那的な・その場限りの・一時的な
◆「此の永遠性」について、文脈を確認する
②「時間性を持たぬものはない」
③「永遠・・・絶対に属する性質/無始無終/無限の時間的表現」
   ↓
 「芸術作品が永遠性を持つ
   ・・・「個人的観念を離れ」
     「無始の太元から存在し」(=時間)
     「今後無限に存在する特質を持つ」(=時間)
         ↑                                        
    「芸術の究極の境はここに存する」
     ↓                                                 
   「此の永遠性」     (B)
 =「無限の時間的表現」(←この部分での解釈)=「芸術の究極の境」(=目的)

   ・・・解答要素(Y)
  ↓
*(Y)を前提として(X)を主語とし、傍線部で着地する、という形で解答を作成す

 る。
*ただし筆者は、芸術の永遠性は第④⑤段落で「時間の問題」(B)ではないと述べて

 いるので、ここでの解答は「(Y)であるとすれば」と仮定の形で解答するのが望ま 

 しい。
*傍線部の「当然だ」のぶぶんは敢えて言い換えなかったが、不安なら「理にかなって

 いる」「道理である」等、言い換えても良い。
*解答欄は3行なので、一行25字程度として75字程度で解答を作成する。

〈解答例〉
  芸術の目的が無限の時間的表現としての永遠性であるとすれば、芸術家ががこの永遠性を尊敬し、その場限りの芸術的生命から脱却したいと志向するのは当然だということ。(77字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 芸術の究極的境地が無限の時間的表現としての永遠性である以上、芸術家が、この永遠性を崇拝し、一時的な芸術的生命からの脱却を願うことは極めて理にかなっているということ。(81字)
〈K校〉
 芸術の究極目的が、個人による創作という観念から切り離された永遠に自立する作品の創造である以上、芸術家が作品の有限性を超えようとするのは自明の理だということ。(77字)
〈T校〉
 制作者が意識されることもなく、これまでもこれからもあり続ける天地のような作品が芸術の究極の境地だとすれば、芸術家が有限の時間を超越した永遠的作品を志向するのも当然だということ。(87字)


問二 傍線部(2)について、ここでの「ニヒル」とはどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。第④段落の傍線部の後~第⑤段落までを踏まえて、芸術に永遠性を求める

  ことに対するネガティブな見方を説明する。着地は「ニヒル」の意味=「虚無的」で

 結ぶ。
〈思考のプロセス〉
◆傍線部以降の文脈をたどる
④「永遠などという事があてになるだろうか」
  「不朽、不滅などというのはあわれな形容詞に過ぎない」
 「永遠~甘い気休め」 
  「卑しい考え」
     ↓(さういふ関心事一切が)
 「一種の虚栄」「空の空成るものを欲する弱さ」「迂愚」「荒唐」
  「制作時に於ける作者内面の要求を措いて他に考える余地を持たない」
 ↓
⑤「芸術の求める永遠性が単に時間の問題(=B)にとどまるならば」
  ・・・「卑属の心」
 「永遠性とは時間の問題(B)ではない」
  ↓
★つまり、芸術の求める永遠性を単に時間の問題としてとらえることは「甘い気休め」

 「卑しい考え」「一種の虚栄」「迂愚」「荒唐」「卑俗の心」であると述べてる

  ・・・解答要素(X)
  ↑(その理由)
芸術作品とは、「制作時に於ける作者内面の要求を措いて他に考える余地を持たない

 (=それ以外にはない)」から ・・・解答要素(Y)
 ↓
芸術作品とは(Y)なので、(X)であるという虚無的な見方をすること、という形

 で解答を作成すれば良い。「ニヒル」の意味は「冷めた見方」「批判的な見方」でも

 許容されるだろう。        
*解答欄は3行なので、一行25字程度として75字程度で解答を作成する。
*解答例はまだ練れていない感があるが、受験生にとっては本文の言葉を利用してこの

 程度に書ければ十分であるとして、あえてこれ以上の推敲はしなかった。

〈解答例〉
  芸術とは、制作時の作者の内面の要求意外にはないので、芸術の永遠性を単に時間の問題としてとらえることは虚しく卑しい考えであるという虚無的な見方をすること。(75字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 制作時における作者内面の要求を考えるしかない芸術に、無限の時間的表現としての永遠性を求めることは、空虚なものを欲する芸術家の卑俗さであると冷めた見方をするということ。(82字)
〈K校〉
 自らも含め全てが消滅を運命づけられており、自らの死後にも永遠に存在し続ける作品の創造を目指す芸術家の願望は、根拠のない愚かな虚栄だと批判すること。(72字)
〈T校〉
 万物は流転し、天地でさえ壊滅を免れない以上、有言の生命たる人間の創作する芸術作品に永遠性を望むこと自体が、卑俗な心に発する非現実的な妄言に過ぎないという虚無的な考えのこと。(85字)


問三 傍線部(3)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。傍線部の「感覚」(A)と「時間」(B)について、第⑦段落の要素を拾

 ってまとめる。「永遠性」とは不滅を感じさせる感覚のことであって、実際の時間的

 な不滅のことではないということをわかりやすく説明する。
〈思考のプロセス〉
⑦「芸術作品の持つ永遠性」
◆「感覚」(A)の要素
 「その作品の力が内具する永遠的なるものの即刻即時に於ける被感受性」
  「不滅を感じさせる力」
  「無の時間に於ける無限持続の感覚」
  「その美の奥にはおのづから永遠を思わせるものが存在する」
   ↓
作品が無限の時間感覚や永遠を感じさせる力を持っている ・・・解答要素(X)
◆「時間」(B)の要素  
  「永遠時への予約や予期」
  「不滅という事実の予定認識」
   ↓
作品が時間的に不滅であるという事実を予定している ・・・解答要素(Y)
*解答は、傍線部に書かれた順序に従えば、「芸術作品の永遠性とは(X)であって(Y)ではないということ」となるだろうが、「(Y)ではなく(X)である」と解答しても問題ないと思われる。
*解答欄は3行なので、一行25字程度として75字程度で解答を作成する。

 解答例は(Y)の表現がややこなれていないが、時間に追われる受験生にとってはこ

 の程度が限度だろう。この設問が一番平易に解答できる。

〈解答例〉
  芸術作品の持つ永遠性とは、作品が無限の時間や永遠を感じさせる力を持っていることであり、作品自体が時間的に不滅であるという事実の予定認識ではないということ。(76字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 芸術作品における永遠性とは、作品が人々に無限の時間制を感じさせる性質を持つということであり、作品自体が時間を超えて不滅であるという事実の予定認識ではないということ。(81字)
〈K校〉
 芸術作品の永遠性とは、時間における事実としての不滅を言うのではなく、その作品の内的価値が未来永劫に渡って享受されるだろうという予感を指しているということ。(76字)
〈T校〉
 一つの芸術作品の持つ永遠性とは、ある原型へと人を誘導する性質を持つ美によって享受者に永遠を感じさせる力に他ならず、作品それ自体がいつまでも永遠に存在し続けることではないということ。(89字)


問四 傍線部(4)はどういうことか、説明せよ。(4行 10点)
*内容説明。芸術の持つ普遍性について説明する問題。
*傍線部の「真に独自の大きさを持つ芸術作品」について、第⑧段落前半の文脈を丁寧

  にたどり、本文の順番を入れ替えて解答するという思考のプロセスが問われ、難問だ

 が受験生の腕の見せ所である。
〈思考のプロセス〉
◆第⑦段落前半の展開を整理する
⑧「永遠の時間性は~高度な普遍性につながる」

  ←ここが解答の着地点であることをおさえる。

 「真に独自の大きさを持つ芸術作品」・・・主語
     ↓
  「直ちに人に受け入れられない」
   ↓(その理由)
  「不可解のため」「解り過ぎるため」→「執拗な抵抗」を受ける  ・・・解答要素(1)
     ↓(しかも)=だが
  「いつの間にか人心の内部にしみ渡る」 ・・・解答要素(2)
     ↓
  「人間精神の地下水的意味に於ける遍漫疏通の強力な照応」
    =人間の精神と内的に照応する  ・・・解答要素(3)
     ↓
 「高度な普遍性につながる」「万人のものとなる」・・・解答要素(4)=着地点
  ↓
*(1)~(4)をまとめる。解答欄は4行なので、一行25字程度として表現を整えて

  100字程度で解答を作成する。

〈解答例〉
  真に独自の大きさを持つ芸術作品は、不可解でありまた解り過ぎるために執拗な抵抗を受けるが、いつの間にか人の心にしみ渡り、人間の精神と内的に照応することで高度な普遍性につながり、万人のものとなるということ。(100字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 真に固有の偉大さを持つ芸術作品は、不可解さや解りすぎるために必ず執拗な抵抗を受けるが、いつの間にか、人の心の内部に浸透し、やがて、人間精神に通底する照応により時空を超えて普遍の感を持つ作品として万人に享受されるということ。(110字)
〈K校〉
 その固有の価値が永遠に享受されるという予感を抱かせる芸術作品は、人類全体に感動を与える可能性を潜在させているが、多様な享受の仕方に基づく執拗な抵抗を経た後に、ようやく万人に受け入れられるようになるということ。(103字)
〈T校〉
 人間精神の普遍性と響き合って、いつの時代でもあらゆる人に不滅の価値を感じさせるような真に普遍的な芸術作品は、その不可解さのために、あるいはあまりに自明なものであるために、はじめは人に受け入れられないということ。(104字)


問五 傍線部(5)はどういうことか、説明せよ。(4行 10点)
*内容説明。「明滅の美」(=B2)が「真に大なるもの」(=A)を生ましめる「豊

 饒の場」なのだ、ということを説明する。「明滅の美」の意味を理解するのが難し

 い。
*第⑧段落と第⑨段落を中心に要素を拾いながら本文全体も踏まえて説明する。

 「明滅の美」=(B2)であると理解できたかどうか。
〈思考のプロセス〉
◆「さういふ明滅の美」(=B2)の説明
  ↑
⑧「特殊の美」・・・悠久にして普遍の感を持たない
 「偏倚の美乃至パテチツクの美」・・・形而上的の永遠の感を持たない
    ↓
悠久で普遍性を持たない特殊な美

 永遠性を持たない偏った感傷的な美(=B2)  ・・・解答要素(1)
    ↑
「世界に真砂の如く、恒河沙数の如くきらめく」=世界に無数に存在する  

  ・・・解答要素(2)
    ↓
「明滅の美」=現れては消えていく美 ・・・解答要素(3)

◆「真に大なるもの(=A)を生ましめる豊饒の場」の説明
 ↓
*これまでの展開と問三、問四から、「真に」「大なる」「芸術作品」とは、永遠性と

 普遍性を兼ね備えた万人のものとなる ものであることがわかる。したがって、
永遠性と普遍性を兼ね備えた万人の心に浸透する、偉大な芸術作品を生む豊かな土壌

 となる  ・・・解答要素(4)
  ↓
*ここまでを整理すると
(1)悠久で普遍性を持たない特殊な美や永遠性を持たない偏った感傷的な美は
(2)世界に無数に存在するが、
(3)そのような現れては消えていく美こそが 
(4)永遠性と普遍性を兼ね備えた万人の心に浸透する、偉大な芸術作品を生む豊かな

   土壌となる 
  ↓
*あとは、第⑨段落をどのように反映させるか。解答に必要ないのならこの段落は本文

 からカットすれば良かったわけで、掲載されているからには何らかの形で答案に反映 

 させる必要があると考えた方が良い。ただし、試験会場で時間に追われている受験生

 にそこまで要求するのは酷であるが。
   ↓
⑨「芸術上のこの永遠性が何処から来るか」
  ↓
 「結局人間精神と技術芸能との超人的な境に於ける結合から来るのであらう」
    ↓
「人間の精神と技術との結合が芸術の永遠性を生み出す」

  ・・・解答要素(5)←これを入れる
  ↓
(1)~(5)をまとめる。
 悠久で普遍性を持たない特殊な美や永遠性を持たない偏った感傷的な美は世界に無数に存在するが、そのような現れては消えていく美こそが、人間の精神と技術との結合による永遠性と普遍性を兼ね備えた万人の心に浸透する、偉大な芸術作品を生む豊かな土壌となるということ。(125字)
 ↓
*解答欄は4行なので、一行25字程度として表現を整えて100字程度で解答を作成す

  る。

〈解答例〉
  悠久や普遍性のない特殊な美や、永遠性のない偏った感傷的な美は世界に無数に存在するが、そうした現れては消えていく美こそが、精神と技術が結合した、万人の心に浸透する永遠で普遍的な芸術作品を生む豊かな土壌となるということ。(107字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S校〉
 悠久で普遍の感を持たない特殊な美や、永遠性を持たない偏った美や感傷的な美は、芸術上の偉大さをもたないが、世界に数多く存在し、そうしたつかのま現れては消えていく芸術の美が、真に偉大な芸術作品を生み出す豊かな環境となるということ。(112字)
〈K校〉
 この世に存在する無数の芸術作品のほとんどは、一時で消え去る特殊な価値しか持っていないが、現実の作品の儚い美の数々こそが、永遠性と普遍性をかねそなえた万人の心を動かす芸術を産出する肥沃な基礎となるということ。(102字)
〈T校〉
 この世界では、特殊な価値しか持たない芸術作品が数知れず生み出されては消えていくが、そのような創作の営みこそが、人に不滅の価値を感じさせる真に普遍的な芸術作品を生み出させる豊かな土壌となるということ。。(104字)

2024年度 京都大学国語第1問 解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」代表のbackbeat-akaです。

 2024年度京大第1問の解答解説をお届けします。

 京都大学の現代文は、毎回、解答要素となる本文の範囲が狭いのに、解答の記述量がべらぼうに多い、というのが特徴です。

 解答欄は3行(1行25字くらい)~5行ですから、75字~125字くらいの解答を作成しなくてはなりません。

 第1問でいえば、解答時間を40分と設定した場合、問1~問5までを、概ね6分~7分で解答しなくてはならず、共通テスト並みの(それ以上かも)スピードが要求されます。

 従って、早い段階からの入念なトレーニングが必要です。過去問題対策は必須です。

 

 さて、2024年度の第1問は、全般的には2023年度の第1問(演劇の話)より難化したと思います。(大手予備校は例年並みとの評価でした。)

 例年以上に本文の解答の根拠となす部分が狭く、受験生は何を書いていいのか戸惑ったと思います。

 この記事が参考になれば幸いです。

 

本文マーキング①

本文マーキング②

backbeat.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

2024年度 京都大学国語第1問 名倉有里「夕暮れに夜明けの歌をー文学を探しにロシアに行く」

2024年 京都大学 第一問 

名倉有里「由切れに夜明けの歌をー文学を探しにロシアに行く」(文50点・理40点)
                             
◎本文展開(マッピング
第一意味段落(①~⑤) 
①    ラジオのロシア語講座・・・ブラート・オクジャワの歌「祈り」
  ↓
② 一風変わった詩に惹かれた/いつまでも聴いていたくなるような魅力

③ ロシア語講座のCDで聴いたロシア民謡・・・哀愁ある歌詞が心に残った
 ↓(ロシア語に取り組んで数年がたった頃)
④ 突然思いもよらない恍惚とした感覚に襲われてぼうっとなる
      ↓
  「私」という感覚が薄れ、自分自身という殻から解放されて楽になる
   ↓
    その不可思議な多幸感に身を委ねる/ますます真っ白になっていく
   ↓
 その空白にはやく新しい言葉を流し入れたくて心がおどる
   ↓
 「私」という存在がもう一度生まれていく
  ↓(いま思えば)
⑤ 語学学習のある段階に訪れる脳の変化かもしれない
  (1)言語というものが思考の根本にあるからこそ得られる、言語学習の特殊な幸

     福状態

第二意味段落(⑥~⑩)
⑥ 思春期の気負い・・・「ロシア語しかない」
  選んだ道で本気を出せるか否かというのが一番大事な基準だった
  (2)加えていうなら、逃げ場がないような崖っぷち、という場所を探してもいた
        ↓
  いいじゃないか、本気でやれるなら。
  世間一般で普通とみなされている道を外れようとも、ものすごく変わった人だと思

  われようとも

⑦ ロシア語やロシア文学の本を片っ端から手に取る
  ↓
⑧  ペテルブルク行きを決める
  ↓(当時の私)
⑨ ロシア語・・・会話に関してはてんでだめ
     社交的ではなく、世間話がものすごく苦手/人の話に耳を傾けるのは好き
   ↓
     ロシア語も好きな所から好き勝手に学んだ

⑩ ある時期から会話もできるようになったが、今でも聞くのが一番好き

第三意味段落(⑪)
⑪ 新しい言語を学ぶ・・・魅惑の行為
      ↓
  (3)人は新たに歩き始める
      ↓
     母語ではとうにありふれたものになっていたものごと(B)
   ↓
  もうひとつの言語の世界でひとつひとつ覚えるたびに、見知った世界に新しい名前

  がついていく(A)
   ↓
  オクジャワの「祈り」のよう
   ↓
  (4)この歌の解釈は多様 →(例) 
   ↓(けれども)
     それらの解釈とはまた別の層にある要素・・・言語への希求のようなものがある
      ↓(この詩)
     ひとつひとつの単語の辞書的な意味を疑わざるをえなくなる
     賢さや幸せという、普段は自明のものと認識している言葉の意味を考え直すことに

  なる
      ↓(そうして)
  緩やかにつながる言葉同士の関連性に目を凝らし、意味の核心に迫ろうとする
   ↓(が)
  (5)核心は近づいたかと思えばまた遠ざかる
      ↓
  「言葉」と「意味」はひとつにはならない・・・だからこそ面白い


◎設問解説
*前年度の評論とは異なり、随想からの出題で、ロシア文学研究者がロシア語の学習歴

 について述べた文章。
*新しい言語(=A)を学ぶことは、母語(=B)ではありふれたものになっていたも 

 のごとを、もうひとつの言語(A)で見知った世界に新しい名前を付けていくことだ

 と述べ、また、「祈り」の歌を通して、「言葉」と「意味」が一つにはならないこと

 の面白さに言及している。

 

問一 傍線部(1)はどのような状態を指すのか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。傍線部はロシア語=外国語の学習を通じて作者が感じた状態である。

 第④段落の比喩表現を一般化する。
〈思考のプロセス〉
④「突然思いも寄らない狡猾とした感覚」
 「「私」(=自己)という感覚が薄れ、自分自身という殻から解放されて楽にな

 る」・・・解答要素(W)

 「その不可思議な多幸感に身を委ねる」・・・解答要素(X)

 「その空白にはやく新しい言葉を流し入れたくて心がおどる」・・・解答要素(Y)

 「「私」という存在がもう一度生まれていく」

  →自己が更新される ・・・解答要素(Z)
  ↓
(W)外国語学習の過程で自己の感覚が希薄化(=新しい感覚)
       自分から解放されて楽になる
  ↓
(X)不思議な多幸感に包まれる
  ↓
(Y)自己の感覚に新しい言葉を取り入れたくて心が躍る
  ↓
(Z)自己が更新される感覚になる
 ↓
*これらをまとめる。解答欄は3行なので、一行25字程度として75字前後で解答を作成

  する。

 〈解答例〉
  国語学習の過程で自己の感覚が希薄化し、解放感と多幸感に包まれ、自己の感覚に新しい言葉を取り入れたくて心が 躍り、自己が更新される感覚になる今までにない状態。(77字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉

 外国語学習の過程で自己の存在が希薄化し、自分から解放されるという不可思議な多幸感に身を委ね、新しい言葉を希求し、自己が更新されていく、これまでに体験したことのない状態。(83字)
〈K校〉
 外国語を懸命に学ぶうちに、母語によって形成されてきた自分の枠組みから解放さ れ、新たに別のまっさらな自分が生まれ出るような感覚を得て、幸福に浸る状態。

(73字)
〈T校〉
 語学学習がある段階まで進むことで母語に基づく思考の枠組みが希薄化し、自分がリセットされるような感覚の中で、そのまっさらな自分に流し入れる新しい言葉を希求する、多幸感に包まれた状態。(88字)


問二 傍線部(2)から読み取れる筆者の心情を説明せよ。(2行 10点)
*内容説明。傍線部の直前で述べられる「思秋期の気負い」「選んだ道で本気を出せる

 か否か~」という部分を踏まえ、傍線部の「逃げ場がないような崖っぷち」を言い換

 え、心情に変換して説明する。
〈思考のプロセス〉
⑥「ロシア語しかない・・・思春期の気負い」・・・解答要素(W

 「選んだ道で本気を出せるか否かというのが一番大事な基準だった」
     ↓
    選んだ道に本気で取り組みたい・・・解答要素(X)

 「逃げ場がないような崖っぷち~探してもいた」

  →自分を追い込みたい・・・解答要素(Y)

 「いいじゃないか、本気でやれるなら」
 「世間一般で普通~道を外れようとも、~だからなんだっていうんだ」
     ↓
 世間一般の評価は気にしない、自分を鼓舞・・・解答要素(Z) 
 ↓
*(X)(Y)(Z)をまとめる。解答欄は2行なので、一行25字程度として50字程度

  で解答を作成する。

 〈解答例〉
  思春期の気負いから、世間の評価を気にせず、自分を鼓舞して追い込み、選んだ道に本気で取り組みたいという心情。(52字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 思春期の気負いから、世間一般の評価など気にせず、自分を追い込んで選んだ道を本気で努力し、結い窮したいという心情。(55字)
〈K校〉
 人から評価されずとも、自らを賭けて取り組める将来の道へと自らを追い込んで自身を鼓舞しようとする心情。(49字)
〈T校〉
 世間一般の価値基準に背を向け退路を断つことで、自分が本気になることのできる夢に向かって突き進もうとする気負った心情。(57字)


問三 傍線部(3)はどういうことか、説明せよ。(3行 10点)
*内容説明。傍線部を含む一文「その魅惑の行為(=新しい言語を学ぶ)を前に」を踏

 まえ、傍線部の直後「母語ではとうてい~新しい名前がついていく」までを説明す

 る。
*「新たに歩き始める」という表現を慎重に捉え、何がどう更新されるのかを説明す

 る。
〈思考のプロセス〉
⑪「新しい言語を学ぶ」「魅惑の行為」
    ↓
新しい言語を学ぶと言うことは魅惑的な行為である・・・解答要素(X)

⑪「母語ではとうにありふれたものになっていたものごと」
     ↓
  「もうひとつの言語の世界でひとつひとつ覚えるたびに、見知った世界に新しい名前がついていく」
    ↓
母語ではありふれたものと認識していた言葉の一つ一つに、新しい言語による新鮮な

 名前がついていく・・・解答要素(Y)

◆「新たに歩き始める」

  =これまでの既知の世界に新たなものの見方が備わる・・・解答要素(Z)
 ↓
*(Z)を着地点として、(X)(Y)とともにまとめる。

 解答欄は3行なので、一行25字程度として75字前後で解答を作成する。

 〈解答例〉
  新しい言語を学ぶことは、母語ではありふれたものと認識していた言葉に新しい言語による新鮮な名前がつくことで、新たなものの見方が備わる魅惑的な営みだということ。(77字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 新しい言語を学習するという行為を通して、人は母語でありふれたものと認識している言葉の一つ一つに、新しい言語による新鮮な名前を付けていくということ。(71字)
〈K校〉
 母語とは異なる言語を習得する過程は、母語においてはすでに陳腐化していた言葉の一つ一つに、全く異なる名を与えていくという新鮮で魅惑的な営みだということ。

(74字)
〈T校〉
 母語とは異なる新しい言語を学ぶことで、人は、母語を通して捉えていた旧知の世界を、新しい言語に基づく新鮮な眼差しで捉え直すことができるようになるということ。(76字)


問四 傍線部(4)について、筆者はこの歌をどのように考えているのか、本文全体を踏まえて説明せよ。(4行 10点)
*内容説明。歌に関する筆者の解釈は、主に第⑪段落で述べられているが、第②段落

 (=「本文全体を踏まえて」)の要素も取り入れる。問五との書き分けが難しい。
〈思考のプロセス〉
②「一風変わった詩に~惹かれた」「いつまでも聴いていたくなるような魅力」

  ・・・解答要素(1)

⑪「それ(=新しい言語を学ぶこと)はオクジャワの『祈り』のよう」
  →『祈り』の歌は外国語学習に通じるものがある ・・・解答要素(2)

  「言語への希求のようなものがある」・・・解答要素(3)

 「ひとつひとつの単語の辞書的な意味を疑わざるをえなくなる」
  「賢さや幸せという、普段は自明のものと認識している言葉の意味を考え直すことになる」
     ↓
 普段は自明のものと認識している母語の意味を考え直す ・・・解答要素(4)

 「緩やかにつながる言葉同士の関連性に目を凝らし、意味の核心に迫ろうとする」
  「「言葉」と「意味」はひとつにはならない」「だからこそ面白い」
    ↓
 言葉の意味の核心に迫ろうとするが、「言葉」と「意味」はひとつにはならず、そこに面白さがある・・・解答要素(5)
 ↓
*これらを整理すると
(2)『祈り』の歌は外国語学習に通じるものがあり、
(4)普段は自明のものと認識している母語の意味を考え直し、
(5)言葉の意味の核心に迫ろうとする
(3)言語への希求のようなものがある
(5)が、「言葉」と「意味」はひとつにはならず、そこに面白さと
(1)魅力がある
   ↓
『祈り』の歌は外国語学習に通じるものがあり、普段は自明のものと認識している母 

 語の意味を考え直し、言葉の意味の 核心に迫ろうとする言語への希求のようなもの

 があるが、「言葉」と「意味」はひとつにはならず、そこに面白さと魅力 があると

 考えている。(117字)
 ↓ 
*解答欄は4行なので、一行25字程度として100字前後で解答を作成する。

 この問題が一番難しい。まとめるのに時間がかかるので、この程度の解答が受験生に

 は限界ではないか。

 〈解答例〉(106字)
  『祈り』の歌は外国語学習に通じるものがあり、普段は自明と認識している母語の意味を考え直し、言葉の意味の核心に迫ろうとする言語への希求を感じるが、言葉と意味はひとつにはならず、そこに面白さと魅力があると考えている。


*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 妙に惹かれる「祈り」の詩について、外国語学習に通じるものがある上に、単語の辞書的な意味を疑い、普段は自明視している言葉の意味を再検討し、意味の核心に迫ろうとする言語への希求が感じられるが、言葉と意味が一致しない面白さも伝わってくる。(115字)
〈K校〉
 一風変わった歌であり、逆説的な箴言や一般的な固定観念への皮肉とする説など解釈は様々あるが、自明視されてきた言葉の意味の再考を迫り、言語の新たなありように期待を抱かせる、妙に心惹かれる歌だと考えている。(99字)
〈T校〉
 様々に解釈できる一風変わった詩を持つ歌で、その詩を読む者に、普段は自明のものと認識している言葉の意味を再考することを迫ると同時に、言葉と意味の結びつきは固定的なものでないからこそ面白いという感覚を伝える魅力的な歌だと考えている。

(113字)


問五 傍線部(5)のように筆者が言うのはなぜか、『祈り』の歌の歌詞に触れつつ説

   明せよ。(5行 10点)
*理由説明。第⑪段落『祈り』の歌の「賢い者には頭」「幸せな者にはお金」の歌詞を

 説明しつつ、筆者の主張を結びつける。

 問四と解答が多少重複するので受験生は戸惑ったかもしれない。歌詞の処理の仕方も

 難しい。
〈思考のプロセス〉
⑪「『祈り』の歌」の不思議な歌詞 ・・・様々な解釈が存在
 「賢い者には頭」「幸せな者にはお金」
    ↑
 普段は自明のものと認識している母語から考えれば、「賢い者」「幸せな者」に「頭」「お金」は必要ない・・・解答要素(W)
    
  国語学習を通じて母語の意味を考え直す/言葉同士の関連性に目を凝らす/言葉の意味の核心に迫ろうとする ・・・解答要素(X)
   ↓
 核心は近づいたかと思えばまた遠ざかる=「言葉」と「意味」はひとつにはならない
    →つまり、意味は絶えず更新されるということ ・・・解答要素(Y)
    ↓
 言葉の意味は日々変化しつつける  ・・・解答要素(Z)=着地点
   ↓
*(X)(Y)(Z)をまとめる。時間がかかりそうだ。
『祈り』の歌の「賢い者には頭」「幸せな者にはお金」という歌詞は、普段は自明の

 ものと認識している母語から考えれば、「賢い者」「幸せな者」に「頭」「お金」は

 必要ないが、この不思議な歌詞を読むと、外国語学習を通じて母語の意味を考え直 

 し、言葉同士の関連性に注目し、意味の核心に迫ろうとするが、言葉と意味は簡単に

 結びつかず、意味は絶えず更新され、日々変化し続けるものであると筆者は考えてい

 るから。(192字)
 ↓ 
*解答欄は5行なので、内容を整理し、設問要求を満たしているか確認し、一行25字程

 度として125字前後で解答を作成する。なるべく時間をかけずにまとめたいが、おそ

 らく受験生は手こずるだろう。

 〈解答例〉
  普段は自明と認識している母語から考えれば、この不思議な歌詞の「賢い者」や「幸せな者」に「頭」や「お金」は必要ないように、外国語学習を通じて母語の意味を考え直し、捉えようとしても、言葉と意味は簡単には結びつかず、意味や関連性は絶えず変化し続けるものであるから。(128字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 「賢い者」や「臆病者」に、必要ではない「頭」や「馬」を与えようとする『祈り』の不思議な歌詞を通じて、普段は母語によって自明視している言葉の意味を見直し、言葉同士の関連性に注目すると、言葉の意味は一つに限定できるものではなく、様々に変化し続けるものだと考えられるから。(132字)
〈K校〉
 既存の言葉の意味を自明視すると、賢さと「頭」、幸せと「お金」を結びつけてしか考えられないが、外国語を学びその自明性を再考して言葉の意味を掴み直した気になっても、言葉の意味や言葉相互の関わりが豊かな可能性に開かれていることを痛感させられることになるから。(125字)
〈T校〉
 「祈り」の歌詞の、たとえば「賢い者には頭を」という場合の賢さとはどのような意味なのかと考えているうちに、そもそも言葉の意味を一意的に確定することなど不可能であり、そのような不確定性にこそ言葉の面白さがあるのではないかという思いにさせられて、一つの「正解」に安住することができなくなっているから。(146字)

 

 

 

 

 

2024年度東京大学国語 第4問 解答解説

 こんにちは。大学受験「天晴」塾 代表のbackbeat-akaです。

 今回は2024年度東大第4問(文系専用)の解説を掲載します。

 今回も文学者(昨年は詩人)のエッセイが題材でした。

 昨年よりは読みやすい文章でしたが、解答の根拠がはっきりしない設問が多く、受験生は何を書いていいのか戸惑ったことと思います。

 マーキング例と、随筆特有の、「筆者の思考の揺らぎ」のループ図を付けておいたので、参考にして下さい。

本文マーキング①

本文マーキング②

backbeat.hatenablog.com