「天晴」塾~大学受験国語~

難関大学を中心に国語の入試問題を解説します

2024年度東京大学国語 第4問 

2024年度 東京大学 国語第四問(文科専用)20点 解答解説

◆本文展開図(マッピング
第1意味段落(①~②) 
①    大学三年の夏
  日本語を母語としているのに、フランス文学を研究する理由

     ・・・うまく答えられなかった
   ↓
    重要な問い=時間をかけて向き合うべき宿題

② たしかに外国文学を学ぶということは奇妙なこと
   ↓
  遠い国の言葉をわざわざ習得してものを読み、書こうとする
     難解な構文をどう訳すか手を焼く
     辞書を引きながら拙いフランス語で何とか表現しようとして言葉に詰まる
       ↓
     じかに触れたいものにガラス越しにしか接近できないようなもどかしさ
        ↓(少しずつ言葉を覚えるにつれて)
 (ア)ガラスは薄くなっていくが、障壁(A)がなくなる日は決して来ない 

 

第2意味段落(③~⑤) 
 ↓(しかし)
③ ガラスの壁・・・
  障壁(=A)になっているだけでなく、世界を見る新しい方法(=B)を教えてく 

  れる
     外国語を学ぶこと・・・(イ)世界の見方が変容する経験(=B)を伴う
        ↓
  (例)「クリエール」という言葉を知る
 ↓
④ 母語でないテクストを読むときの「遅さ」それ自体・・・
  欠点(A)だけでなく意義(B)もある
       ↓
  ひとつずつ言葉を手繰りながら舐めるように繰り返し読む中でしか現れてこない文

  章の表情
 ↓(ひるがえって)
⑤ 外国語のフィルターを通す・・・母語で書かれた文学作品の輪郭がより鮮明に見えて

  くる(B2)
      ↓
    今まで何度も読んできた短編小説が、不意にひとつのすばらしく精巧な構造として立

 ち上がってきた
 作家が全ての単語を無駄なく有機的に絡み合わせ、クライマックスに向けて文章を盛

 り上げていくその手つき→二つの言語を往還した結果

 

第3意味段落(⑥~⑦)
⑥ 母語でない言語・・・「もうひとりの自分」を発見させてくれる(B3)
     フランス語でひとりごと・・・抱えていたさまざまな悩みごと
   ↓
  原因や解決法をぼんやり思案
   ↓(ふと)  
    (ウ)「本当の答え」が口から飛び出てくる(B3)
      ↓
    愚かさ/欠点/心の柔らかな未熟な部分・・・直視に耐えない自分の瑕疵
   ↓
    外国語という「ガラスの壁」を通すことで検閲と抵抗をくぐり抜けて言葉になる
      ↓
 「借り物」の言葉こそが、心の奥ふかくに秘匿されている自己を無惨なまでにあら

 わにする

⑦ クレリエール・・・「追憶の間隙」
   ↓
  ふと口をついて出た独言が剥き出しにする「もうひとりの自分」(B3)

  =ひとつのクレリエール
       ↓
    意識と無意識の間隙に明滅し、母語という手綱が手放されたときだけ束の間浮かび上

 がる心の「空き地」
   ↓
(エ)そのようなほの暗い場所を自分のうちに見出し、認めるのは、不思議と静かな慰

   めを与えてくれる経験でもある

 

◆設問解説・・・解答例はずべて「この程度書ければ充分」というレベルのものです。
*本文は、外国語を学ぶことで世界や自己の見え方が変わることを述べたエッセイであ

 る。筆者はフランス文学者であり歌人。 

*文学者や芸術家の随筆が使用される傾向は例年どおり。文章は平易だが、問われてい

 ることを的確な言葉で説明するのが難しく、解答に手間取ったものと思われる。

(一)「ガラスは薄くなっていくが、障壁がなくなる日は決して来ない」(傍線部ア)

   とはどういうことか、説明せよ。(5点)
*第1意味段落(1~2段落)における説明問題。
*外国語に関しては、いくら習熟しても母語に対するように接することは可能にならな

 いことを、傍線部の表現に即して説明 する。
*ほぼ第②段落が解答要素だが、傍線部の比喩を一般化して解答する。
◆話題(前提条件)
 外国文学を学ぶということ(1)
 それにともなう外国語の習得(2)
      →じかに触れたいものにガラス越しにしか接近できないようなもどかしさ
        =手を焼く/言葉に詰まる
◆傍線部の理解
 「ガラスは薄くなっていく」
   ・・・外国語に習熟する(2)/外国文学への理解が深まる(1)・・・解答要素(X)
  「障壁がなくなる日は決して来ない」・・・  ④段落
  「言葉の端々に宿る微細な意味の揺らぎやズレを感知する」ことはできない(2)

 「ひとつずつ言葉を手繰りながら舐めるように繰り返し読む中でしか現れてこない文章の表情」を完璧に理解することはできない(1)
       ↓
 言葉の微細な意味を感知したり(1)、文学作品の文章の表情を完璧に理解するまで

  には至らない(2)・・・解答要素(Y)
  ↓
*(X)(Y)をまとめる。(1)(2)の二つの要素が必要。
★外国語に習熟することで文学作品への理解は深まっていくが、言葉の微細な意味を感

 知したり文学作品の文章の表情を完璧に理解するまでには至らないということ。(72

 字)
  ↓
*表現を整え、1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度に圧縮する。この程度の解

 答でよいだろう。

  〈解答例〉
   外国語に習熟することで文学作品への理解は深まるが、言葉の微細な意味を感知したり文章の表現を完璧に理解するまでには至らないということ。(65字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 外国語に習熟することで文学作品の理解は深まるが、言葉が持つ微妙な感触まで理解できているという実感は得られないということ。(59字)
〈K校〉
 外国語で文学作品を読み表現する際に生じる違和感は、外国語に習熟するにつれ縮小するが、母語で書かれた文学に接する時のような自然さには達し得ないということ。(75字)
〈T校〉
 外国語で読み、表現する際の対象を捉え切れていないという感覚は、学習につれて弱まりはするが、母語による齟齬なき対象理解とはいつまでも異なるということ。(77字)


(二)「世界の見方が変容する経験」(傍線部イ)トはどういうことか、本文に即して

   具体的に説明せよ。(5点)
*第2意味段落(3~5段落)における説明問題。
*「本文に即して具体的に」というのは、「世界の見方が変容」するさまを、外国語学

 習に即して解答せよ、ということ。
*第③段落の「クレリエール」の話題をどこまで抽象化して解答に盛り込むかが難し

 い。

③「クレリエールという言葉を知る」
 「ただの「ひらけた土地」でしかなかった場所」
       ↓
 「木々の葉を透かして空き地を照らす陽光のまばゆさと結びつく」
     ↓
★新しい外国語を知ることで、それまで平凡と思っていた場所が魅力ある風景として新

 たに認識される・・・解答要素(X)

④「母語でないテクストを読むとき・・・欠点だけでなく意義もある」
 「ひとつずつ言葉を手繰りながら舐めるように繰り返し読む中でしか現れてこない文

 章の表情」
⑤「外国語のフィルターを通すことで母語で書かれた文学作品の輪郭がより鮮明に見え

 てくる」
  「今まで何度も読んできた短編小説が、不意にひとつのすばらしく精巧な構造として

 立ち上がってきた」
      ↓
★外国語を学ぶことで、それまで読んできた母語で書かれた文学作品に新たな視点や感

 覚が得られる・・・解答要素(Y )
*(X)(Y)をまとめる。
★新しい外国語を知ることで、平凡だった場所が新鮮な風景として認識されるように、

 外国語の習得によって、母語で書かれた文学作品に新たな視点や感覚が得られるこ

 と。(76字)
  ↓
*表現を整え、1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度に圧縮する。

  〈解答例〉
   外国語を知ることで、平凡な場所を新鮮な風景として再認識するように、外国語の習得で日本の文学作品に新たな視点や感覚が得られること。(63字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 母語と異なる背景や成り立ちを持つ外国語を知り、それを通して事物を認識することで、世界が未知の様相で立ち現れてくること。(58字)
〈K校〉
 クレリエールという語を知ったことで、ただの空き地が木漏れ日のまばゆさと結びついたように、外国語の習得により新たな視点や感覚が得られるということ。(71字)
〈T校〉
 未知の意味を含意する外国語で表現されることを知った、既知の対象の認識が改められるように、外国語を通じて新たな相貌を見せた世界と新たな関係を拓くこと。(73字)


(三)「『本当の答え』が口から飛び出てくる」(傍線部ウ)とはどういうことか、説

   明せよ。(5点)
*第3意味段落(6段落)。傍線部内容説明問題。
*「悩みごと」について「外国語」で考えると、自身の瑕疵などが「検閲と抵抗をくぐ

 り抜けて言葉になる」、という内容を説明する。
*「本当の答え」とは、解決策のことではなく、「心のもっとも奥ふかくに秘匿されて

 いる自己」のことである。
*「口から飛び出てくる」という表現から、「思わず」「図らずも」等の表現で着地す

 る。
⑥「フランス語でひとりごと」・・・  「悩みごと」
 ↓
 「原因や解決法をぼんやり思案」
    ↓(ふと)
 「「本当の答え」が口から飛び出てくる」←(図らずも)
    ↓
 「愚かさ/欠点/心の柔らかな未熟な部分/直視に耐えない自分の瑕疵(=欠点)」
    ↓
  「外国語という「ガラスの壁」を通すことで検閲と抵抗をくぐり抜けて言葉になる」
 「借り物」の言葉こそが、心の奥ふかくに秘匿されている自己を無惨なまでにあらわに

 する
   ↓
 傍線部周辺をまとめると、
★普段は意識下に秘匿されている、自己の悩みや直視できない瑕疵について、外国語を

 用いることで何の抵抗もなく思わず言 葉として出てきてしまうということ。(71

 字)
  ↓
*表現を整え、1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度に圧縮する。この程度の解

 答でよい。

  〈解答例〉
   普段は意識下に秘匿されている、自己の醜悪なものが、外国語を用いることで図らずも何の抵抗もなく言葉として出てきてしまうということ。(63字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 自らと密着した母語のもとでは秘匿し得ていた弱みが、自分と隔たりのある外国語を通すと図らずも言葉になってしまうということ。(59字)
〈K校〉
 よそよそしい外国語を用いるからこそ、自分が抱えていたさまざまな悩みにつながる、意識化に隠されていた醜悪なものが、図らずも言語化されてしまうということ。(74字)
〈T校〉
 厳密な思考を通じて対象の表現を図る(対象を客観化する)外国語を用いるから、心奥に隠された弱き、醜き自己が言語化されて露呈し、苦悩の真の原因や解決法が得られるということ。(73字)


(四)「そのようなほの暗い場所を自分のうちに見出し、認めるのは、不思議と静かな

   慰めを与えてくれる経験でもある」(傍線部エ)とあるが、それはなぜだと考え

   られるか、説明せよ。(5点)
*第4意味段落(10段落)と全体の趣旨を踏まえて、傍線部に至る展開を説明する。
*本来の自己と向き合うことの安らぎを説明する。
*「静かな慰め」につては本文に直接述べられていないので、筆者の言おうとしている

 ことを自分で推測して説明する。
◆「そのようなほの暗い場所」
      ↓
⑦「意識と無意識の間隙に明滅し、母語という手綱が手放されたときだけ束の間浮かび

 上がる心の「空き地」」
    =外国語を通して獲得される、普段は意識下に秘匿されている、自己の未熟さや瑕疵

  と向き合うこと  ・・・解答要素(X)
      (晴れやかではないので、「ほの暗い」と表現している)
◆「静かな慰め」に相当する本文記述・・・(+)の部分
③「ガラスの壁~世界を見る新しい方法(=「もうひとりの自分」)を教えてくれる」
④「母語でないテクストを読むときの「遅さ」~欠点だけでなく意義もある」
⑥「母語でない言語は、「もうひとりの自分」を発見させてくれる」
⑦「「もうひとりの自分」も、おそらくひとつのクレリエール」
 「意識と無意識の間隙に明滅し、母語という手綱が手放されたときだけ束の間浮かび

 上がる心の「空き地」」
   ↓
★外国語を学ぶことによって、「もうひとりの自分」を見出すことができ、それが心の

 安らぎにつながる ・・・解答要素(Y)
   ↓
*(X)(Y)をまとめる。1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度に圧縮する。

 この程度の解答でよいと思われる。

  〈解答例〉
   外国語を通して、普段は心の奥にある醜悪さと向き合うことで自己を認めることが

 でき、晴れやかではないがそれが心の安らぎにつながるから。(64字)

*参考:大手予備校の解答例
〈S校〉
 外国語を介して無意識の世界に抑圧された自己の負の側面を意識することは、自己をありのままに受け入れる安らぎをもたらすから。(59字)
〈K校〉
 外国語を通して、抑圧された自己の欠点や未熟さに向き合うことは、晴れやかな経験ではないが、自分をまるごと受け入れることに通じ心の平安をもたらすから。(72字)
〈T校〉
 母語では明確に意識することができず、外国語を通じて漸く露呈した自分が愚かで醜かろうがやはり自分であり、漸く見失われていた自分を取り戻せたのだから。(72字)

2024年度東京大学国語入試問題第2問(古文)・第3問(漢文) 解答解説

 こんにちは。大学受験塾「天晴」代表のbackbeat-akaです。

 前回に引き続き、2024年度東大の古典の解説を掲載します。

 昨年、東大の古典は易化したのではないか(特に古文)と思いましたが、

今回も古文に関しては同様の感想を持ちました。

 「讃岐典侍日記」というメジャーな題材にはびっくりしました。

 やはり有名古典についての予備知識、リテラシーは必須だということが改めてわかりました。

 東大の問題を解くのに必要な力は、基本的な文法力、語彙力、句法理解力であることはよく言われることなのですが、東大の問題はこれらの知識の組み合わせの出題が圧倒的に多いということです。

 (東大の募集要項に書いてある、「自らの体験に基づいた主体的な国語の運用能力」「各分野の知識を関連づけて理解する能力」のことです。)

 なにはともあれ、お試し下さい。そして東大の問題を解くのに必要な思考のプロセス(H・O先生の言を借りれば「頭の働かせ方」)を会得して下さい。

backbeat.hatenablog.com

2024年度東京大学国語第2問(古文)・第3問(漢文) 解答解説

2024年度 東大国語 解答解説  
第二問 古文 「讃岐典侍日記」(文30点 理20点)

★東大の古典で要求されていると考えられる力
①現代語訳の力
 →直訳・逐語訳が基本だが、適宜言葉を補ったり意訳したりして整える必要もあると 

  考えられる(最終的に、内容が読み取れていることが示せなければ評価されな

  い)。現代語訳の問題を含めて全ての設問の根底にこの現代語訳がある。
②基本的な読解力
 →主語判定の技術(敬語や接続助詞に適宜着目する)や和歌の読解の技術などがしば

  しば要求される。
③背景知識(文学史や古典常識)や文章構造(対比・対応など)から細部を推理する力
④設問への対応力
 →設問の要求にきちんと答えて答案を作る力(→対話能力)と、設問のタイプに応じ

  て合理的に解答を導いていく力とに分けられる。
⑤総合的な言語運用能力
 →自分が使う言葉を客観視できるかどうか(きちんと相手に伝わる表現になっている

 かどうか)、「言葉の位相」を的確につ かんだ上で語句の意味、内容を読み取った 

 り、答案をまとめたりできるかどうかなど。

 

【出典】「讃岐典侍日記」
*東大古文の出題は、ほぼ中古、中世の作品(「源氏物語」かその前後、周囲の作品が

 多い)である。
*今回の「讃岐典侍日記」についての文学史的な知識、概要については是非あらかじめ 

 知っておきたい。
*本文は作者が再出仕について思い悩む心内部分が多く、ここの読み取りが困難だった

 と思われる。

(一)現代語訳の問題(10点)
 東大の現代語訳の問題は、基本的に、(一)が指示なしの現代語訳、それ以外は指示付きの現代語訳である。指示なしだからといって、言葉を補う必要がないというわけではない。採点者に内容が読み取れていることを伝えるのが第一義である。なお、今年は指示付きの現代語訳は出題されず、(一)以外はすべて説明問題であった。
            
ア  長年、宮仕えなさるあなたのお心がけのめったにないほどの素晴らしさ。(3点)

 →3点=「年ごろ」の訳・・・1点、「させ・たまふ」の訳・・・1点、「ありがたさ」の

  訳・・・1点(減点法)。
*「あなたの」を解答例にいれたが、大手予備校の解答にはなかった。あった方がいい

 ような気がする。

                          
ウ  鳥羽天皇お目にかかりたい心惹かれて思い申し上げるけれど。 (3点)              →3点=「ゆかし」の解釈(心惹かれる/お目にかかりたい)・・・1点、「まゐら 

  す」(謙譲)の訳・・・1点、「鳥羽天皇に」の補い・・・1点(減点法)
*傍線部直前の「(堀河天皇の)御かたみ」=子である鳥羽天皇、という部分の理解が

 ポイント。

                        
オ このようにして自分の心から弱っていけばよいのだよ 。 (4点)   

   →4点=「かやうにて」の訳・・・1点、「心づから」の訳・・・ 1点、「弱りゆけ」 

  (命令形)の訳・・・1点、「かし」の訳(念押し)・・・1点(減点法)。
*一つ一つの単語の解釈はさほど難しくない。

 

(二)内容説明問題(5点)
*現代語訳
 「早く出仕したいと言いたげな様子で、鳥羽天皇のもとに出仕するようなことは、我 

 ながら情けないことだ。」
  ↓
*説明問題なので、一般化(客観化)して説明する。 
    
解答例 作者が要請を待っていたかのように早速出仕することは、堀河天皇を裏切るよ 

    うで情けないということ。
  →5点=「いつしか」の解釈ができていること・・・1点、「いひ顔」の説明・・・2点、 

 「あさまし」の訳と内容・・・2点(減点法)。
*傍線部の直前の部分から勘案して、「堀川天皇に対して申し訳ない」という内容を入

 れたい。
*「いつしか」「いひ顔」「あさまし」等の、基本的な単語の理解が重要である。
*「ん(む)」の解釈は、婉曲、仮定どちらで訳しても可。

 

(三)内容説明問題(文科のみ 5点)
*現代語訳 「私はどのような出家の機会を手に入れようか」
*「ついで」=機会、順序。
*「出家の機会」については、傍線部の少し前「世を思ひ捨つ」と傍線部直後の「削ぎ

 すつ」から、作者が出家の機会をうかがっていたことがわかる。
*説明問題なので、一般化(客観化)して解答する。 
        
解答例 自分が出家するのに適当な機会手に入れられないかということ。                    →5点=「ついで」の解釈・・・1点、「出家する」・・・2点、「いかなる~取り出で

  ん」・・・1点(減点法)。 その他の不備は適宜1〜2点減点。
*「出家の機会」ということが理解できたかがポイント。ここかわからないと苦しい。

 

(四)理由説明問題(文科のみ 5点)

*傍線部の現代語訳
  「私をちょっと見かけるような人は、(私の状態を)良いとは思うだろうか、いや、

 思わないだろう」
    ↓
*傍線部の直前の部分が根拠となる。
「君はいはけなくおはします。さてならひにしものぞとおぼしめすこともあらじ」
   (=鳥羽天皇は幼くいらっしゃる。『そういう状態で(=堀川天皇と特に親しい状態

  で)馴れてしまっていた者だ』とお思いになることもあるまい。)
「さらんままには、昔のみ恋しくて」
 (=そのように月日を過ごすにつれて、亡き堀川天皇との昔のことだけが恋しくて)
  ↓
*つまり、「再出仕して鳥羽天皇にお仕えしても、亡くなった堀河天皇とのことばかり

 が恋しく思い出されるであろう自分の 不遜な態度が予想され、鳥羽天皇はまだ幼い 

 ので悟られないだろうが、他の人たちは好ましく思わないだろう」ということ。これ

 を簡潔に解答する。
*説明問題なので、一般化(客観化)して解答する。
         
解答例 鳥羽天皇にお仕えしていながら亡くなった堀河天皇のことばかり恋しく思い出

    すのは不遜な態度だから。 │           
  →5点=「鳥羽天皇にお仕えしていながら」・・・1点、「亡くなった堀河天皇のことば

  かり恋しく思い出す」・・・2点、「不遜な態度である」・・・1点(減点法)。その他の

  不備は適宜1〜2点減点。
*設問文で傍線部の意味はつかめるが、傍線部の前にも根拠がはっきり書かれてはいな

 いので、解答するのが難しい。今回の問題ではこれが一番難問。

 

(五)和歌の大意を説明する問題(5点)
*和歌の解釈(さほど難しくない)
 「堀川天皇を偲んで涙で乾く間も無い、喪服の袂だなあ。しみじみと昔の亡き堀川天

 皇の形見となる喪服だと思うと」
  ↓
*大意ということは、一般化して結論的に説明せよ、ということ。倒置表現、比喩表現

 を一般化し、さらにこれまでの作者の 再出仕に思い悩む心情も踏まえて説明する。
   
解答例 再出仕を思い悩むにつけ、亡き堀川天皇の形見である喪服を見ると、涙が絶え

    ることはないということ。          
  →5点=「再出仕を思い悩む」の内容・・・2点、「亡き堀川天皇の形見である喪服を見

  る」の内容・・・2点、「涙が絶えない」の内容・・・1点(加点法)。

 

★現代語訳
 このように言う間に、十月になった。(実家の女房が作者に)「(鳥羽天皇の乳母の)弁の三位(=藤原光子)からお手紙(が届きました)」と言うので、受け取って(広げて)見ると、「長年、宮仕えをしなさる(際のあなたの)御心構えの素晴らしさなどを、(鳥羽天皇の祖父である白河上皇が)よく聞いておいていらっしゃったからだろうか、白河上皇から、『鳥羽天皇の御所にそのような人がとても切実に必要だ、すぐに出仕しなさい』ということの、ご命令があるので、そのような心づもりをしなさってください」とある、(それを)見ると、驚き、「見間違いか」と思うほどまで自然と驚き呆れた。(堀川天皇が)ご存命だった頃から、このようなこと(=鳥羽天皇への出仕の要請)は(堀川天皇に)申し上げ(てい)たけれども、「どのようにも(堀川天皇の)お返事が無かったのは、『そうでなくても(良いのでは)』とお思いであったのだろうか、それなのに、「早く(出仕したい)と言いたげな様子で(鳥羽天皇のもとに)出仕するようなことをしたら、(我ながら)呆れることだ。周防の内侍、後冷泉院におくれまゐらせて、後三条院より、七月七日参るべき旨をおっしゃってきたときに、
  天の川(の流れ)のように(後冷泉天皇後三条天皇はご兄弟で)同じ血筋の流れ 

 だと聞いているけれども、(前の主と は異なる後三条天皇のもとに)出仕するよう

 なことは、やはり悲しいこと。
と詠んだ歌こそ、「もっともだ」と思われる。
 「亡き堀河天皇の御形見としては、(子である鳥羽天皇に)心惹かれて思い申し上げるけれども、(出仕するような)差し出がましいようなことは、やはりあってよいこどではない。昔、(堀川天皇のもとに初めて)出仕したときでさえ、(宮仕えの)晴れ晴れしい(ことに)は思い悩んだけれども、『親たちや(姉の)三位殿(=藤原兼子)などでしなさるようなことを(反対するのもどうか)』と思って、(あれこれ反対を)言ってよいことではなかったので、内心だけは、(海人が刈る藻のように)気持ちが乱れた(ことだった)。本当に、今回(=白河上皇からの命令)も、「私の意志の通りにはならない」とも言ってしまうようなことではあるけれども、あるいは、「(私が出家して)世を捨ててしまった」とお聞きになるとしたら、(白河上皇は)それほどまで(私を)切実に必要ともお思いにならないだろう」と(出家するかどうか悩んで)気持ちが乱れて、さらにもう少し、この数ヶ月よりも悩みが増さった気持ちがして、「(私は)どのような(出家の)機会を得ようか。さすがに、自分で剃髪するようなのも、昔の物語にも、そのようにした人のことを、人々も『いやな心(の人)だ』など言うようで、私の気持ちとしても、本当にそのように(=自分で剃髪するのは嫌な心の人だ)思われることなので、さすがに、本格的に決心することもしない。このようにして自分の心によって、さらに気持ちが弱っていけよ。そうすれば、(心身衰弱を)言い訳
にしてでも(出仕を断ることができる)」と思い続けられて、数日が過ぎると、「(鳥羽天皇の御)乳母たちは、(あなたとは違って)まだ(殿上人ではない)六位で、五位にならないかぎりは、天皇の食事の世話が出来ない状態である。この二十三日、六日、八日が(出仕するのに占いで)良い日(です)。早く、早く、(出仕しなさい)」とある手紙を、何度も(持ってこられて)見るけれども、決心しなければならないという気持ちにもならない。
 「過ぎ去った年月でさえ、私の一身上の悩みの後は、人々の間に混じることができる様子でもなく、見苦しくやせ衰えてしまったので、『どうしようかしら』とだけ思い悩んだけれども、(亡き堀川天皇の)御心に惹かれて、(また、同僚の)人々などの御心にも(惹かれて)、(姉の)三位がそのままで(宮仕えを)続けていらっしゃっるので、「その(姉らの)御心に背かないようにしよう」などと思ったのか、ちょっとしたことにつけても、気遣いをしてばかりで(月日が)過ぎたが、今あらためて出仕して、(堀川天皇と)会った世のように過ごすようなことも難しい。鳥羽天皇は幼くいらっしゃる。『そういう状態で(=堀川天皇と特に親しい状態で)馴れてしまっていた者だ』とお思いになることもあるまい。そのように(月日を)過ごすにつれて、(亡き堀川天皇との)昔のことだけが恋しくて、私をちょっと見かけるような人は、(私の状態を)良いとは思うだろうか、いや、思わないだろう」などと思い続けるうちに、袖が(乾く)合間も無く(涙で)濡れたので(詠んだ歌)、
  (堀川天皇を偲んで涙で)乾く合間も無い、喪服の袂だなあ。しみじみと昔の(亡

  き堀川天皇の)思い出(となる喪服)だと思うと

 


第三問(文30点 理二20)・・・書き下し文は省略

【出典】方東樹『書林楊觶』
 筆者は清代の人。朱子学を信奉して当時流行していた考証学を批判した。『書林楊觶』は著書や著述のあり方を論じた書である。
【設問】
 最近出題が多い政治論ではなかったが、やはり論説的な文章である。漢文の論説的な文章の特徴である対比や対句的な表現が随所に見られ、設問もそれを意識して解くことが要求されている。

(一)平易な現代語に直せ。
「取快 一時」。*訓点は省略
                                      
解答例:ほんの一時的な快楽を求めること。 (理・文とも4点)                                   〇設問のポイント(採点の基準)
1直前の「敷衍流宕、放言高論」という対句的表現との関わりで考える。
2「快」=快楽と訳していること。

「丘 山 之 利 」 訓点は省略
                                                   
解答例:多大な(莫大な)利益  (理・文とも4点)                                                   
〇設問のポイント(採点の基準)
1 「丘山」とは、「ものの数の多いこと」。
2 傍線部直後の「毫末之損」との対句表現から「丘山」を〈高く積もった=莫大な〉

  の意で押さえる。
*直後の「毫末之損」との対句表現が見抜けるかがポイント。

「雖 偏」 *訓点は省略。
                                  
解答例:学問に偏りはあるが。 (理・文とも4点)                                 
〇設問のポイント(採点の基準)
1「雖」は読みに引きずられて「たとえ~としても」と訳したくなるが、ここでは逆接

 確定条件「~だが」と訳すのがよい。
2「偏」は「かたよる」という意味でよい。
3「学術」=「学問」まで解答に入れたい。

 

(二)「著 書立論、必本於不得已而有言」とはどういうことか、簡潔に説明せよ。
   
解答例:著書や論説とは、必ず言わざるを得ない自説が根本にあって為されるのだとい

    うこと。 (文6点・理4点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
1 「已むを得ずして言有るに本づく」の解釈
  「本を書き、論を展開するには、必ず言わざるをえない自説が根本にあるべきだ」
2  直後で筆者が批判している〈不要な・不確かなことまで含めて節度なく述べ立てる

 さま〉との対比を踏まえて、「已むを得ずして」語るべき内容とはどういうものかを

 説明する。
3 「不得已」は慣用表現。
*「言」は「自説」「言説」のことだと理解したい。


文(三)「寒暑昼夜後言」は「君子之言」のどのようなありかたをたとえているか、簡

    潔に説明せよ。
  
解答例:季節や時間に関係なく、日常の全ての場面で疑いなく妥当性を持つありかた。      

    (文6点)     │              
〇設問のポイント(採点の基準)
1「寒・暑」「昼・夜」(=寒い日や暑い日、昼や夜が来ること)の並列をとらえ、傍

 線部と対をなす直後の「布帛菽粟」と後に続く「無可疑、無可厭」(=日常のあらゆ

 る場面)で「君子之言」が疑いなく妥当性をもつさまを説明すること。
*この程度の解答でよいのではないか。

 

文(四)・理(三)「有識者恒病書之多也、豈由此也哉」とあるが、「此」は何を指している

      か、わかりやすく説明せよ。
  
解答例:近年の著作者たちは、自説を論じずに、剽窃して価値のない書物を残している

    ということ。 (文6点・理4点)

〇設問のポイント(採点の基準)
1全体要旨に関わる内容説明の問題。「此」の内容が問われているが、直前に「況~」

 という抑揚(強調)表現が用いられているのでここに着目する。つまり、「剽窃に頼

 る昨今の文筆家の弊害」を踏まえてまとめる。
2「豈不由此也哉」は感動(詠嘆)文と解釈する。「なんとこれが理由ではないか」。
3 傍線部の解釈は、「見識がある者は常に、本が多いことを気に病んでいる。なんとこ

 れが理由ではないか」
  ↓
4 つまり、近年の著作者たちは、自説を論じることなく、剽窃して後世に伝える価値の

 ない文章や書物を書いており、有識者はそうした事態を嘆いているのである。これを

 解答する。
*「自説を論じずに」と「後世に伝える価値のない」の両方を盛り込むと字数が多くな

 る。どちらも入れたいが、解答例では 折衷案とした。意見の分かれるところかもし

 れない。

*基礎的な句形のゆるぎない理解と、語彙力以上に文中の語意を正しく把握する力を駆

 使し、文章全体の中での傍線部として矛盾のない解釈と説明を求めている。

 

★解釈例
 一般的に、本を書き、論を展開するには、必ず言わざるをえない(自説)が根本にあるべきだ。そうしてはじめて、その言葉は妥当であり、その言葉は誠実であり、その言葉は用いる価値がある。だから、君子の言葉は物事の真理にまで到達してやめ、節度なく述べ立てたり、節度なく述べ立てたり、好き放題に議論をしたりして、一時的に快楽を得ることなどしない。思うに、重要でなければ嫌うべきで、根拠が不確かであれば疑うべきだ。既に嫌ってかつ疑っていれば、その本は貴び信じることはできない。君子の言葉は、寒い日や暑い日、昼や夜(が来ることや)、日常の衣服や食物のように、ごく当たり前に受け入れられ、誰も疑うはずはなく、嫌うはずもない。天下の万民は信じてこれ(=君子の言葉)を利用し、丘や山のように大きな利益が得られ、ほんのわずかも損害は被らない。この点で昔や今の文筆家について考えると、差は明らかで、白黒のようにはっきりと異なる。本を書くのにあたって様々な理論を自分の考えに基づかなければ、その著者は単に他人の言葉を勝手に借用して売る者にすぎない。道家や法家の学徒は、学問は偏重しているとはいえ、結局はそれぞれ、自分で世の中の後世にも文章を残し存在している。この意味で、昔の文筆家はやはりこれ(=現在の学問)に自分の文章を残すことができている。時代が下って現在、それができなくて、なんと他人の文章を盗用する者がいる。そもそも、盗用して文章を作ったのでさえ、後世に伝えるには価値が足りない。まして盗用した著作ならなおさらだ。そうして、見識がある者は常に、本が多いことを気に病んでいる。なんとこれが理由ではないか。

 

2024年度東京大学国語第1問 解答解説

backbeat.hatenablog.com

 こんにちは。「天晴」塾代表のbackbeat-akaです。

 国公立大学の二次試験に臨まれたみなさん、お疲れ様でした。

 今回は先日実施された東京大学二次試験の国語第1問(評論)の解説を掲載します。

 毎年、東大の第1問(評論・配点40点ー推測・解答時間の目安:60分)は、その時の時代状況、世相を反映した、実にタイムリーな文章を出題します。

 2020年度の第1問では、自由意志という名の下に社会的な格差を自己責任として階層構造が固定化される、という内容の文章が出題されました。当時は非正規雇用に象徴される「格差社会」が社会問題となっていました。

 2021年度第1問は、近代国家による保障や個人責任による医療の選択を超えて、感染や精神障害に苦しむ人々に寄り添い、働きかけるべきだ、という内容の文章でした。コロナが蔓延して世界中が混乱する中で、感染者に対する誹謗中傷や「マスク警察」が問題となった時期で、実にタイムリーな文章でした。

 2022年度の第1問では、日本においてナショナリズムによる階級の分断が進んでいると指摘し、生まれの同一性は制度上の仮構にすぎず、日本人の排他性が逆に自分に対しても向けられる可能性がある、という内容の文章でした。コロナ禍によってそれまでのグローバリゼーションの広がりは一気に閉じ、国ごと、地域ごとに閉塞的な状況(海外渡航や県外への移動制限とか)が起きていた時期の世相を反映した文章でした。

 2023年度の第1問は「仮面」がテーマでした。人は仮面によって自分では不可知な顔を固定し対象化し、他者との関係を作るという、人間自身の普遍的な根源的なものへの探求の象徴である、という内容の文章でした。言うまでもなく「仮面」=マスクのことであり、人がマスクによって自身の新たな顔を固定化し、新たな他者との関係(コロナ禍が収まってもマスクを外せない、等)を構築しつつある世相を反映した文章でした。

 

 さて、今年度(2024年度)の問題は、商取引における掛け売り(ツケ)がテーマでした。ツケ払いというと、今時の受験生には馴染みのない言葉ですが、要するに後払い、クレジット払いのことです。掛け売りは市場交換とともに「贈与交換」の要素を含み、そこには困窮する相手の事情を勘案する相互扶助の精神が含まれているのだ、という内容の文章です。

 ウクライナガザ地区で起きている紛争から避難したた難民の人たち、折しも能登半島沖地震で被災した人たちとの共同コミュニティ形成を示唆する文章でした。

 今年度も非常に示唆に富む問題でした。もっとも、解いている受験生にとってはそんなこと考える余裕もないでしょうが。

 

本文マーキング①

本文マーキング②

 

 

2024年度 東京大学国語第1問 解説

第一問(文理共通)40点 解答時間の目安:60分
◆本文展開図(マッピング
第1意味段落(①~③) 
①    タンザニアの行商人・・・2000年代末までは客との対面で値段交渉
②    行商人たちの悩み・・・貧しい得意客から頻繁に掛け売りを求められる
      ↓
  ツケの取り立てに苦労していた
  ↓
③ 行商人たちにとって掛け売りを認めることは、商売戦略上の合理性とも合致してい      

  (ア)
      ↓
  貧しい消費者・・・ツケを認めてくれる行商人を贔屓にする
  行商人・・・得意客の確保や維持につながる
  消費者・・・ツケの支払いのついでに新たな商品を購入してくれる可能性
       行商人・・・販売枚数を稼げば、仕入れ先の仲卸商人から仕入れの順番や価格交渉に  

       おいて優遇される
                ツケを緊急時に使用する「預金」/商売が不調の時に回収
 ↓(ただ)
第2意味段落(④~⑦)  
④ それはツケが返済されてこその戦略
    相手に支払う気ないとわかると、しばらく放置し、機会があったときに訪ねていく/ついには訪問をやめてしまう
  ↓(こうした事態が生じる原因)
⑤ 行商人が帳簿をつけない
  ↑(筆者)
    ツケを何ヶ月も放置する者に怒りもせず、不満も言わず、ただ許している態度が不思 議
 ↓(ただし)
⑥ 行商人・・・「ツケは返してもらう」/「今はその時ではない」/「相手の時間的な

       余地を奪うのは難しい」
  数年が経って信用の不履行が生じた負債
   ↑   
  行商人「まだ返してもらっていないだけだ」(イ)と言い張る

 ↓(これらの商人や客の言葉や態度から)
⑦ 行商人・・・商品やサービスの支払いを先延ばしにする取引契約である掛け売り
   =「市場交換」(A)と「贈与交換」(B)のセットで捉えている
      ↓(つまり)
  ツケ・・・商品やサービスの対価/支払うべき金銭的「負債」・・・返してもらう必要  

     =「市場交換」(A)

    客がツケを支払うまでの時間的猶予や機会・・・

  「贈与」したもの/取り上げるには特別な理由がいる 

  その機会をいつ返すかは与えられた側が決める  =「贈与交換」(B)

第3意味段落(⑧~⑨)
⑧ 支払期間を決めるのは借り手/借り手の主観に左右される期限

   ・・・貸し手に不利な契約
   ↓
    「支払い猶予を与える契約」
      =「代金支払いの契約」=「市場交換」(A)
        (分割して考える)
      「時間・機会の贈与交換」=「贈与交換」(B)
    ↓
    彼らの言動はつじつまが合う/商売の次元とは異なる次元で帳尻があっている
 ↓(実際には)
⑨ 客・・・ツケを払っても、行商人に「借り」をもつかのように語ったりふるまったり

     する
           ツケのお礼に自身の商売で行商人に掛け売りしてくれる
  行商人・・・自身の商売でツケが未払いな客に対し、儲かった日に掛け売りの代金を

       払う
     ↓(こうした事態)
  一つひとつの掛け売りの中に商品支払いと別に贈与交換(B)が含まれている
      ↓(そして)
    「商品代金の支払い」(A)は遂行されなくても「時間や機会の贈与」(B)に何らかの返礼が遂行される
      ↓                   
  商売の帳尻が合わなくても、生活全般の上では帳尻があっている(ウ)

第4意味段落(⑩)
⑩ 掛け売り・・・代金支払いの契約(A)と同時に「贈与交換」(B)を含むという了

              解
         ↓
  彼ら自身が交渉の過程において共同で生み出している
      ↓
    行商人・・・交渉において客の表情や言葉尻から相手の状況を察知/価格を上げ下げ
      ↓(このとき)
    行商人・・・「私は騙された(駆け引きに負けた)かもしれないが、それは相手を助け      

       たのかもしれない」
                 商売上では判断を誤った/事情を汲んでできる限りのことをした
 客・・・「私は騙した(駆け引きに勝った)かもしれないが、それは相手に助けてもら

       ったのかもしれない」
           うまくやったかもしれないが、事情を汲んでくれた
      = 余韻が残る
 ↓
  この余韻が商交渉の帳尻をあわせる失敗を時間や機会の贈与交換に回収させるステ

  ップになる(エ)
       ↓
  この交渉で実践されていること・・・市場取引の体裁(A)を維持しながら二者間の  

                   基盤的コミュニズム(B)を胚胎させること

 

 

◆設問解説・・・解答例はずべて「この程度書ければ充分」というレベルのものです。

(一)「行商人たちにとって掛け売りを認めることは、商売戦略上の合理性とも合致し

   ていた」(傍線部ア)とあるが、それはなぜか、説明せよ。(6点)
*第1意味段落(1~3段落)における理由説明問題。解答要素は第③段落の内容。こ

 こをまとめれば決着がつくので、受験 生は逆に平易すぎて戸惑ったかもしれない。

 ただ、60字程度に一般化して言い換え、まとめるのには多少時間がかかる。
*客の立場からではなく、行商人の立場から解答するのがポイント。

③ 行商人・・・得意客の確保や維持につながる
          販売枚数を稼げば、仕入れ先の仲卸商人から仕入れの順番や価格交渉にお 

       いて優遇される
                       ツケを緊急時に使用する「預金」/商売が不調の時に回収
        ↑
★この部分を一般化する。1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度で解答を作成す

 る。
〈解答例〉
 掛け売りの容認は得意客の確保や維持につながり、販売数を稼いで仕入れ先から優遇され、ツケを緊急時の預金としてみなすこともできたから。(64字)

*参考  大手予備校の解答例
〈S校〉
 掛け売りは得意客の確保や維持につながり、売り上げを増大させて自身の信用を高め、ツケが緊急時に貯蓄のように機能するから。(58字)
〈K校〉
 後払いの容認が、余剰の現金を欠く者を得意客として確保し、販売数を稼ぐことで仕入れ字の優遇を図り、緊急時の備えになると行った利得を生むから。(68字)
〈T校〉
 得意客の確保や維持、支払時の商品購入の可能性、販売数増加に伴う仕入れ先からの優遇、商売不調時に回収する債権としての活用といった経済的利益があるから。(73字)


(二)「まだ返してもらっていないだけだ」(傍線部イ)とあるが、なぜそう主張でき

   るのか、説明せよ。(6点)
*第2意味段落(4~7段落)における理由説明問題。「彼ら」とは行商人のこと。
◆行商人の主張について述べている箇所を拾っていく。
④「相手に支払う気ないとわかると、しばらく放置し、機会があったときに訪ねてい

 く」
 ↓(原因)
⑤「行商人が帳簿をつけない」・・・解答要素(X)
   ↓
 「ツケを何ヶ月も放置する者に怒りもせず、不満も言わず、ただ許している」
 ↓
⑥「ツケは返してもらう」
 「今はその時ではない」
 「相手の時間的な余地を奪うのは難しい」」
 ↓
 「まだ返してもらっていないだけだ」
  ↓
⑦「掛け売り」=「市場交換」(A)と「贈与交換」(B)のセットで捉えている」
  ↓
  ツケ・・・商品やサービスの対価/支払うべき金銭的「負債」←返してもらう必要(A)    ツケを支払うまでの時間的猶予や機会・・・「贈与」したものなので、取り上げるには特

                    別な理由がいる
          →その機会をいつ返すかは与えられた側が決める  (B) 

                             ・・・解答要素(Y)
  ↓
*つまり、掛け売りとは「市場交換」(A)であると同時に、「贈与交換」(B)であ

 ると考えていることがわかる。
 行商人は(X)という事情で、(Y)と判断し、傍線部(イ)のように主張する、と考えられる。
 ↓
 行商人は商品やサービスの対価として支払ってもらう必要があると考える一方、彼らは帳簿を付けないので、支払うまでの機会は客に贈与したものであり、その機会をいつ返すかは客の側が決めると考えているから。(96字)
 ↓
*1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度で解答を作成する。「贈与」という言葉

 は入れた方がよい。
〈解答例〉
 商品の対価を支払う必要が客にあると考える一方、帳簿もないので支払うまでの時間を客に贈与し、返済時期は客が決めるものと考えるから。(63字)

*参考  大手予備校の解答例
〈S校〉
 帳簿もなく支払う余裕ができるまで待つとする以上、長期の未返済を新葉の不履行ではなく返済できる状態にはないだけだと考えるから。(61字)
〈K校〉
 商品の対価を支払う責任が客にあるのはもちろんだが、いつ支払うのかの判断は客に任されているという了解が、売り手と買い手との間で共有されているから。(71字)
〈T校〉
 掛け売りでは、支払いの余裕が生じるまでの時間や機会は贈与されたもので容易に奪えず、支払期限は客が主観に基づき決定されるが、負債自体は存続するから。(72字)


(三)「生活全般の上では帳尻があっている」(傍線部ウ)とはどういうことか、説明

   せよ。(6点)
*第3意味段落(8~9段落)。傍線部内容説明問題。
*傍線部直前の前提条件
 「「商品代金の支払い」(A)は遂行されなくても、「時間や機会の贈与」(B)に

 何らかの返礼が遂行されるのだとしたら」
 ↑
*ここが解答の核になる。この部分を説明する。

*傍線部は第⑧段落で述べたことの繰り返しである。                                                 
 「「支払い猶予を与える契約」を「代金支払いの契約」と「時間・機会の贈与交換」 

 に分割して考えると」
  ↓
 「彼らの言動はつじつまがあい」「商売の次元とは異なる次元で帳尻があっている」
                                              =「生活全般の上
                                 

◆「商品代金の支払い」(=A)が遂行されないことの説明
⑧「支払期間を決めるのは借り手」/「借り手の主観に左右される期限」
     ↓
★つまり、貸し手にとって不利な取引上の不均衡、ということ ・・・解答要素(X)

◆「時間や機会の贈与」(=B)に何らかの返礼が遂行されることの説明
⑨「ツケを払っても客は、行商人に「借り」をもつかのように語ったりふるまったりす

  る」
  「ツケのお礼に自身の商売で行商人に掛け売りしてくれる」
     ↓
★つまり、借り手は貸し手に配慮し、貸し手が困窮した際には助けるという、贈与に対

 する返礼がある、ということ ・・・解答要素(Y)

◆「帳尻があう」・・・生活上はお互いに不利益を感じていない(←「生じない」ではな

 い)、ということ ・・・解答要素(Z)
  ↓
*(X)(Y)(Z)をまとめる。
  たとえ貸し手にとって不利な取引上の不均衡が生じたとしても、借り手は貸し手に配慮し、貸し手が困窮した際には助けるという、贈与に対する返礼があり、生活上はお互いに不利益を感じていないということ。(94字)
  ↓
*表現を整え、さらに一般化し、1行30字程度で書くことを勘案し、60字程度で解答を

 作成する。
 「(A)は生じても、(B)によって不均衡は感じない」という着地にするとよい。
〈解答例〉
 商取引上の不均衡が生じても、相手に配慮し、困窮したら相手を助けるという贈与に対する返礼がなされ、生活上は両者が不利益を感じないこと。(65字)

*参考  大手予備校の解答例
〈S校〉
 掛け売りは、相手に支払うまでの時間的猶予を贈与したという意味を持ち、支払い以外で贈与に対する支払いがなされるということ。(59字)
〈K校〉
 支払いによる商取引上の不均衡があっても、相手に配慮を示されたら返礼し、困窮しているときには助け合うことで人々の生は営まれているということ。(68字)
〈T校〉
 掛け売りは代金支払い契約と猶予される時間や機会の贈与に区分され、後者への返礼がなされて贈与交換が成立すると、互いが不利益を感じない状況が現出するということ。(77字)


(四)「この余韻が商交渉の帳尻をあわせる失敗を時間や機会の贈与交換に回収させる 

   ステップになる」(傍線部エ)とあるが、筆者はどのようなことを言っているの

    か、本文全体の趣旨を踏まえて、100字以上120字以内で説明せよ。(16点)
*第4意味段落(10段落)と全体の趣旨を踏まえて、傍線部に至る展開を説明する。
*時間がない((四)の解答時間は20分程度が目安)中で、これまでの設問の解答を利

 用するとよい。
*解答の方向は、傍線部までに述べられている「掛け売り」に関する「贈与交換」の内

 容にふれ、最後に傍線部の説明で着地 する。さらに、線部の次の行の「二者間の基

 盤的コミュニズムを胚胎させる」も反映させる。

(1)「掛け売り」・・・代金の支払いを猶予する商取引の一種で、困窮した客が返済時

           期を決めるという不均衡が生じることがある
(2)「贈与交換」・・・支払うまでの時間を客に贈与し、返済時期は客が決めるものと

           考えること。
                                相手に配慮し、困窮したら相手を助けるという贈与に対する返礼

                                      がなされる。
(3)「この余韻」の説明・・・
     掛け売りが代金支払いの契約と同時に「贈与交換」を含むという了解は、彼ら自身が交渉の過程において共同で生み出している
     行商人・・・「私は駆け引きに負けたかもしれないが、それは相手を助けたのかもしれ

                      ない」
                     「商売上では判断を誤ったが、事情を汲んでできる限りのことをした」
     客・・・「私は駆け引きに勝ったかもしれないが、それは相手に助けてもらったのかも

              しれない」
              「うまくやったかもしれないが、事情を汲んでくれた」
      ↓
    売り手と買い手がお互いの事情を勘案して、騙したり騙されたりした振りをして相互扶助を行っている、ということ。
(4)「商交渉の帳尻をあわせる失敗」・・・市場交換における不均衡のこと
(5)「時間や機会の贈与交換に回収させる」・・・支払いの猶予を与えた贈与への返礼

                       がなされること。
(6)「この余韻がステップになる」・・・

   商取引における相互扶助の精神が市場交換の不均衡を解消し、共に支え合う共同 

   体を成立させる手段となる。
           ↑
    ※ここが着地点。
   ↓
*(1)~(6)をまとめる。
 掛け売りは売り手が代金の支払いを猶予する商取引の一種で、客が返済時期を決める不均衡が生じるが、相手に配慮し、時には助けるという贈与に対する返礼がなされるように、双方がお互いの事情を勘案して商取引を行う相互扶助の精神が、市場交換の不均衡を解消し、共に支え合う共同体を成立させる手段となるということ。(147字)
 ↓
*表現を整え、120字に圧縮する。この程度でよいのではないか。
〈解答例〉
 掛け売りは売り手が支払いを猶予し、客が返済時期を決める不均衡が生じるが、相手に配慮し、時には助けるという贈与と返礼の交歓がなされ、相手の事情を勘案する相互扶助の精神が、市場交換の不均衡を解消し、お互いに支え合う共同体を成立させるということ。

*参考  大手予備校の解答例
〈S校〉
 掛け売りの交渉において、騙し騙されながらも互いに助け合っているという感触を持つことが、市場交換としては非合理な不均衡を互いに生活を立て直す時間を与え合うことへと変換し、困難を抱える人間が共に支え合って生きることを可能にしているということ。
〈K校〉
 掛け売りは商取引の一種だが、相手の訴える困窮に応じてツケを設定する際に助けた・助けられたという感覚を抱くことで、代金が回収できなくても、支払いの猶予を相手に与えたことへの返礼が得られればよいと納得でき、そこに相互扶助の気風が醸成されること。
〈T校〉
 客と行商人が相互に自身の困難を訴え合う掛け売りの交渉において、勝者には相手に助けられた、敗者には相手を助けたという思いが残ることで、ツケの取り立ての不能は、支払い猶予とそれに対して返礼を行う贈与交換の関係の成立へと昇華されていくということ。
 
(五)6点
 a 曖昧  b 憤  c   拘泥
  ↑
*2024年度の漢字の問題は難しかった。

2022年度 東京大学国語第1問 鵜飼哲「ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」

こんにちは。「天晴」塾代表のBackbeat-akaです。

 長らく更新が滞っていました。

 国立大学二次試験の指導に忙殺されていました。

 2月の上旬に、東大、京都大、お茶の水女子大などの過去問題の解答解説を五月雨式に掲載する予定でしたが、ご要望にかないませんでした。すみません。

 遅ればせながら、標記の記事を掲載します。

 本番まであと2日しかないので、どれだけの人が閲覧するかわかりませんが・・・

本文マーキング①

 

本文マーキング②


backbeat.hatenablog.com

 

2022年度 東京大学国語第1問 解答解説

2022年度 東大国語第1問 解答解説

鵜飼哲ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路」(40点)
(一)6点
*第1意味段落(1~4段落)から、筆者の体験を踏まえて「日本人らしさ」の内容を

 説明する。
*「日本人としての仲間意識があった」が解答の中心になる。

★必須要素(2~4点)

◆「国外(外国・海外)では、同じ日本人・日本人同士に壁はない」と「期待した(考え

 た・思った・認識した・判断した・油 断した)」ことに適切に触れていること。

○加点要素(4~6点)
1 傍線部の前の行の
  「日本のなかでは日本人同士種々の集団に分かれてたがいに壁を築く」
  「しかし、ひとたび国外に出れば・・・」 
   ↑
  この部分を解答に反映させる。
  「国内では集団ごとに排他的でも」「国内では分断があっても」・・・(1点)    

2 さらに、「その「甘さ」において」(=限定的)を反映させ、以下の要素を追加でき

 るとさらに加点できる。
  「仲間(身内)意識があるとする日本人的な心性が自分にあった」
  「日本語を通した身内(仲間)意識に依存していた」              ・・・ (1点)
  「許されるだろうという筆者の甘い想定があった」                                                          

  〈解答例〉
   国内では集団ごとに排他的でも、国外では同じ日本人という仲間意識を無意識に期 

 待する、日本人的な心性が筆者にあったということ。(60字)

※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉(73字)

 自身の排除を招いた、国外ならばじ日本人として許されるだろうと思い込んだ心性 に、自身がそうした心的特徴を持つ日本人であることを再認識したということ。

〈K校〉(64字)

 国内では緊張関係にあっても、国外では日本人同士なら許容されると思った点に、日本語を通じた身内意識に依存する感覚が働いていたこと。

〈Y校〉(64字)

 国内では小集団に分断されていても、国外ではその分断は解消されるだろうという認識の甘さがまさに日本人の特質を表していたということ。


(二)6点
*第2意味段落(5段落)から、「日本のナショナリズム」(←これが主語)の内容を

 説明する。
*「〈外〉とは外国、〈内〉とは日本国内のことであるかあら、

 「外国人を排斥し非国民を摘出する」というのが解答の中心になる。

★必須要素(2~4点)                            「その残忍な顔」=ナショナリズムによる排斥が、「外国人」と「日本人の一部」の両方に及んでいることに適切にふれていること。

○加点要素(4~6点)
1 「日本では階級の分断が進んでいる」に適切に触れていること。(1点)
2 「日本人の一部を非国民とする」ことが記述されていること。(1点)

〈解答例〉 
   階級の分断が進む日本のナショナリズムは、外国人の排斥と日本人の一部をも非国  

 民として摘出する動きを強めているということ。(59字)                           

※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉(74字)

 日本社会の急速な階層分断に伴い、外国人を排除し、国内でも異質性を認定された国民の排除が進み、排他的なナショナリズムの本質が露呈しつつあるということ。

〈K校〉(69字)

 日本国籍を持たない者を排除するとともに、国民内部に異質な存在を見出し、容赦なく切り捨てることで、国民の統合を目指す動きが強まっていること。

〈Y校〉(66字)

 異質な人間をめざとく見つけ徹底的に排除しようとするナショナリズムの特質を、国内に向けても国外に向けても露わにしつつあるということ。


(三)6点
*第3意味段落(6~12段落)から、「名という制度」の内容を説明する。

 第⑦段落「生地、血統も~「自然」も、自然にその人を日本人にはしてくれない」
 第⑪段落の「名とは自然的性格のように仮構された制度だ」
    ↓
 という内容が解答の核になる。

*この「強力に自然化された制度」というのが着地点になり、問四とも関係している。
 「自然化された制度」ということは言い換えれば「人為的」ということだ。

★必須要素(2~4点)
 「名や生地、血統」は人為的・人間によるもの、人間が与えるものであることを述べていること。

○加点要素(4~6点)
1 「~ではなく」の要素・・・(1点)
 第⑪段落「名や生地、血統は、世界のありのままの姿の反映ではない」という内容
 第⑦段落「自然には領域や帰属を規定する名はない」
2「自然のもののように見せかける」ことに触れていること・・・(1点)

  〈解答例〉 
   国籍を示す名とは、世界のありのままの姿の反映ではなく、それを人為的に意味づ 

 け制度化し、自然に見せかける制度だということ。(60字)

※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉(74字)

 元来自然は生じてただ存在するだけで一切未分であり、国籍付与の基準の一つである生地を指示する固有な名辞は、人の都合による創作に過ぎないということ。

〈K校〉(64字)

 名は人間が付与するものであって、自然そのものには一定の領域を指し、個人の帰属先を規定する名が備わっているわけではないということ。

〈Y校〉(64字)

 語の本来の意味における「自然」には、人間が確定した国境やその区画内に与えられた国名などの人為的な要素は一切存在しないということ。


(四)16点
*全体の趣旨を踏まえて、本文末尾に至る展開を説明する。

★必須要素(2~4点)
*「生まれの同一性は自然でないものを自然なものとする操作=仮構に過ぎない」
  ↓(したがって) 
 「日本人の排他性が日本人全てに向けられる可能性がある」=「安心はできない」
  というのが解答の核となる。

〇得点の4要素(各要素は4点満点)

A  「ナショナリズムが依拠する生まれ(生地や血統)の同一性」といった内容が書けて 

  いること
※「生まれの同一性」が「生地」か「血統」の一方のみは減点
※「ナショナリズム」を欠くものは減点

B  「自然であるように見せかけた仮構(制度)」
  「制度を自然だと仮構した」
  「人為的に作られた制度(仮構)」
  「自然でないものを自然とする操作」   といった内容

C  「制度・境界は容易に(恣意的に)変更しうる」
  「国民統合のために絶えず非国民を生む」
  「筆者が外国(国外・海外)で日本人から排除されたように」  といった内容

D 「日本人の排他性が日本人とされてきた誰に対しても向けられる可能性がある」
  「日本人の誰もが日本人から排除(排斥)される危険性」
  「いま日本人であっても日本人であることを否定される可能性がある」  

   といった内容

  〈解答例〉 
   ナショナリズムが依拠する生まれの同一性は、制度的な生地や血統を自然であるよ 

 うに見せかけた仮構にすぎず、制度は人為的で簡単に変更可能なため、日本人の排他 

 性が日本人だとされていたはずの誰に対しても突如として向けられる可能性が常にあ

 るということ。(120 字) 

※表現の未熟や誤字に関しては1種類に付きマイナス1点。
※参考:大手予備校の解答例(HPで公表しています)
〈T校〉

 独立した存在たる人が、自然にはなれない日本人になるのはナショナリズムが主張する「生まれ」の「同一性」という仮構された制度を自然なものとするという操作によるもので、その逆の操作が起き得る以上、常に日本人から排除される危うさを秘めるということ。
〈K校〉

 日本人とは、個として誕生する日本人に対し、血統に基づいて同一の国民であると思わせるべく仮構された制度であり、国民統合を維持すべく国内に絶えず非国民として排除する対象を生む制度であるため、日本人であれば誰もが排除される危険を免れ得ないということ。
〈Y校〉

 同質性を核とし異質な者の徹底的な排除によって成り立つナショナリズムは、同じ生まれの者が自然に身につけた当然の価値観を共有していると思わせる制度的な「自然化」によって可能になるため、その自然さが失われる恐れを消し去ることはできないということ。

(五)6点
 a 緩  b 滑稽  c 深長

 

*東大の第1問は60分で解答するのが目安です。

*本文を読む時間が5分、問四に費やす時間が30分として、問一から問三までは、7分~

 8分で解答する目標を立ててください。