「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度東京大学国語第1問 解答解説

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 こんにちは。「天晴」塾代表のbackbeat-akaです。

 国公立大学の二次試験に臨まれたみなさん、お疲れ様でした。

 今回は先日実施された東京大学二次試験の国語第1問(評論)の解説を掲載します。

 毎年、東大の第1問(評論・配点40点ー推測・解答時間の目安:60分)は、その時の時代状況、世相を反映した、実にタイムリーな文章を出題します。

 2020年度の第1問では、自由意志という名の下に社会的な格差を自己責任として階層構造が固定化される、という内容の文章が出題されました。当時は非正規雇用に象徴される「格差社会」が社会問題となっていました。

 2021年度第1問は、近代国家による保障や個人責任による医療の選択を超えて、感染や精神障害に苦しむ人々に寄り添い、働きかけるべきだ、という内容の文章でした。コロナが蔓延して世界中が混乱する中で、感染者に対する誹謗中傷や「マスク警察」が問題となった時期で、実にタイムリーな文章でした。

 2022年度の第1問では、日本においてナショナリズムによる階級の分断が進んでいると指摘し、生まれの同一性は制度上の仮構にすぎず、日本人の排他性が逆に自分に対しても向けられる可能性がある、という内容の文章でした。コロナ禍によってそれまでのグローバリゼーションの広がりは一気に閉じ、国ごと、地域ごとに閉塞的な状況(海外渡航や県外への移動制限とか)が起きていた時期の世相を反映した文章でした。

 2023年度の第1問は「仮面」がテーマでした。人は仮面によって自分では不可知な顔を固定し対象化し、他者との関係を作るという、人間自身の普遍的な根源的なものへの探求の象徴である、という内容の文章でした。言うまでもなく「仮面」=マスクのことであり、人がマスクによって自身の新たな顔を固定化し、新たな他者との関係(コロナ禍が収まってもマスクを外せない、等)を構築しつつある世相を反映した文章でした。

 

 さて、今年度(2024年度)の問題は、商取引における掛け売り(ツケ)がテーマでした。ツケ払いというと、今時の受験生には馴染みのない言葉ですが、要するに後払い、クレジット払いのことです。掛け売りは市場交換とともに「贈与交換」の要素を含み、そこには困窮する相手の事情を勘案する相互扶助の精神が含まれているのだ、という内容の文章です。

 ウクライナガザ地区で起きている紛争から避難したた難民の人たち、折しも能登半島沖地震で被災した人たちとの共同コミュニティ形成を示唆する文章でした。

 今年度も非常に示唆に富む問題でした。もっとも、解いている受験生にとってはそんなこと考える余裕もないでしょうが。

 

本文マーキング①

本文マーキング②