「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2024年度東京大学国語第2問(古文)・第3問(漢文) 解答解説

2024年度 東大国語 解答解説  
第二問 古文 「讃岐典侍日記」(文30点 理20点)

★東大の古典で要求されていると考えられる力
①現代語訳の力
 →直訳・逐語訳が基本だが、適宜言葉を補ったり意訳したりして整える必要もあると 

  考えられる(最終的に、内容が読み取れていることが示せなければ評価されな

  い)。現代語訳の問題を含めて全ての設問の根底にこの現代語訳がある。
②基本的な読解力
 →主語判定の技術(敬語や接続助詞に適宜着目する)や和歌の読解の技術などがしば

  しば要求される。
③背景知識(文学史や古典常識)や文章構造(対比・対応など)から細部を推理する力
④設問への対応力
 →設問の要求にきちんと答えて答案を作る力(→対話能力)と、設問のタイプに応じ

  て合理的に解答を導いていく力とに分けられる。
⑤総合的な言語運用能力
 →自分が使う言葉を客観視できるかどうか(きちんと相手に伝わる表現になっている

 かどうか)、「言葉の位相」を的確につ かんだ上で語句の意味、内容を読み取った 

 り、答案をまとめたりできるかどうかなど。

 

【出典】「讃岐典侍日記」
*東大古文の出題は、ほぼ中古、中世の作品(「源氏物語」かその前後、周囲の作品が

 多い)である。
*今回の「讃岐典侍日記」についての文学史的な知識、概要については是非あらかじめ 

 知っておきたい。
*本文は作者が再出仕について思い悩む心内部分が多く、ここの読み取りが困難だった

 と思われる。

(一)現代語訳の問題(10点)
 東大の現代語訳の問題は、基本的に、(一)が指示なしの現代語訳、それ以外は指示付きの現代語訳である。指示なしだからといって、言葉を補う必要がないというわけではない。採点者に内容が読み取れていることを伝えるのが第一義である。なお、今年は指示付きの現代語訳は出題されず、(一)以外はすべて説明問題であった。
            
ア  長年、宮仕えなさるあなたのお心がけのめったにないほどの素晴らしさ。(3点)

 →3点=「年ごろ」の訳・・・1点、「させ・たまふ」の訳・・・1点、「ありがたさ」の

  訳・・・1点(減点法)。
*「あなたの」を解答例にいれたが、大手予備校の解答にはなかった。あった方がいい

 ような気がする。

                          
ウ  鳥羽天皇お目にかかりたい心惹かれて思い申し上げるけれど。 (3点)              →3点=「ゆかし」の解釈(心惹かれる/お目にかかりたい)・・・1点、「まゐら 

  す」(謙譲)の訳・・・1点、「鳥羽天皇に」の補い・・・1点(減点法)
*傍線部直前の「(堀河天皇の)御かたみ」=子である鳥羽天皇、という部分の理解が

 ポイント。

                        
オ このようにして自分の心から弱っていけばよいのだよ 。 (4点)   

   →4点=「かやうにて」の訳・・・1点、「心づから」の訳・・・ 1点、「弱りゆけ」 

  (命令形)の訳・・・1点、「かし」の訳(念押し)・・・1点(減点法)。
*一つ一つの単語の解釈はさほど難しくない。

 

(二)内容説明問題(5点)
*現代語訳
 「早く出仕したいと言いたげな様子で、鳥羽天皇のもとに出仕するようなことは、我 

 ながら情けないことだ。」
  ↓
*説明問題なので、一般化(客観化)して説明する。 
    
解答例 作者が要請を待っていたかのように早速出仕することは、堀河天皇を裏切るよ 

    うで情けないということ。
  →5点=「いつしか」の解釈ができていること・・・1点、「いひ顔」の説明・・・2点、 

 「あさまし」の訳と内容・・・2点(減点法)。
*傍線部の直前の部分から勘案して、「堀川天皇に対して申し訳ない」という内容を入

 れたい。
*「いつしか」「いひ顔」「あさまし」等の、基本的な単語の理解が重要である。
*「ん(む)」の解釈は、婉曲、仮定どちらで訳しても可。

 

(三)内容説明問題(文科のみ 5点)
*現代語訳 「私はどのような出家の機会を手に入れようか」
*「ついで」=機会、順序。
*「出家の機会」については、傍線部の少し前「世を思ひ捨つ」と傍線部直後の「削ぎ

 すつ」から、作者が出家の機会をうかがっていたことがわかる。
*説明問題なので、一般化(客観化)して解答する。 
        
解答例 自分が出家するのに適当な機会手に入れられないかということ。                    →5点=「ついで」の解釈・・・1点、「出家する」・・・2点、「いかなる~取り出で

  ん」・・・1点(減点法)。 その他の不備は適宜1〜2点減点。
*「出家の機会」ということが理解できたかがポイント。ここかわからないと苦しい。

 

(四)理由説明問題(文科のみ 5点)

*傍線部の現代語訳
  「私をちょっと見かけるような人は、(私の状態を)良いとは思うだろうか、いや、

 思わないだろう」
    ↓
*傍線部の直前の部分が根拠となる。
「君はいはけなくおはします。さてならひにしものぞとおぼしめすこともあらじ」
   (=鳥羽天皇は幼くいらっしゃる。『そういう状態で(=堀川天皇と特に親しい状態

  で)馴れてしまっていた者だ』とお思いになることもあるまい。)
「さらんままには、昔のみ恋しくて」
 (=そのように月日を過ごすにつれて、亡き堀川天皇との昔のことだけが恋しくて)
  ↓
*つまり、「再出仕して鳥羽天皇にお仕えしても、亡くなった堀河天皇とのことばかり

 が恋しく思い出されるであろう自分の 不遜な態度が予想され、鳥羽天皇はまだ幼い 

 ので悟られないだろうが、他の人たちは好ましく思わないだろう」ということ。これ

 を簡潔に解答する。
*説明問題なので、一般化(客観化)して解答する。
         
解答例 鳥羽天皇にお仕えしていながら亡くなった堀河天皇のことばかり恋しく思い出

    すのは不遜な態度だから。 │           
  →5点=「鳥羽天皇にお仕えしていながら」・・・1点、「亡くなった堀河天皇のことば

  かり恋しく思い出す」・・・2点、「不遜な態度である」・・・1点(減点法)。その他の

  不備は適宜1〜2点減点。
*設問文で傍線部の意味はつかめるが、傍線部の前にも根拠がはっきり書かれてはいな

 いので、解答するのが難しい。今回の問題ではこれが一番難問。

 

(五)和歌の大意を説明する問題(5点)
*和歌の解釈(さほど難しくない)
 「堀川天皇を偲んで涙で乾く間も無い、喪服の袂だなあ。しみじみと昔の亡き堀川天

 皇の形見となる喪服だと思うと」
  ↓
*大意ということは、一般化して結論的に説明せよ、ということ。倒置表現、比喩表現

 を一般化し、さらにこれまでの作者の 再出仕に思い悩む心情も踏まえて説明する。
   
解答例 再出仕を思い悩むにつけ、亡き堀川天皇の形見である喪服を見ると、涙が絶え

    ることはないということ。          
  →5点=「再出仕を思い悩む」の内容・・・2点、「亡き堀川天皇の形見である喪服を見

  る」の内容・・・2点、「涙が絶えない」の内容・・・1点(加点法)。

 

★現代語訳
 このように言う間に、十月になった。(実家の女房が作者に)「(鳥羽天皇の乳母の)弁の三位(=藤原光子)からお手紙(が届きました)」と言うので、受け取って(広げて)見ると、「長年、宮仕えをしなさる(際のあなたの)御心構えの素晴らしさなどを、(鳥羽天皇の祖父である白河上皇が)よく聞いておいていらっしゃったからだろうか、白河上皇から、『鳥羽天皇の御所にそのような人がとても切実に必要だ、すぐに出仕しなさい』ということの、ご命令があるので、そのような心づもりをしなさってください」とある、(それを)見ると、驚き、「見間違いか」と思うほどまで自然と驚き呆れた。(堀川天皇が)ご存命だった頃から、このようなこと(=鳥羽天皇への出仕の要請)は(堀川天皇に)申し上げ(てい)たけれども、「どのようにも(堀川天皇の)お返事が無かったのは、『そうでなくても(良いのでは)』とお思いであったのだろうか、それなのに、「早く(出仕したい)と言いたげな様子で(鳥羽天皇のもとに)出仕するようなことをしたら、(我ながら)呆れることだ。周防の内侍、後冷泉院におくれまゐらせて、後三条院より、七月七日参るべき旨をおっしゃってきたときに、
  天の川(の流れ)のように(後冷泉天皇後三条天皇はご兄弟で)同じ血筋の流れ 

 だと聞いているけれども、(前の主と は異なる後三条天皇のもとに)出仕するよう

 なことは、やはり悲しいこと。
と詠んだ歌こそ、「もっともだ」と思われる。
 「亡き堀河天皇の御形見としては、(子である鳥羽天皇に)心惹かれて思い申し上げるけれども、(出仕するような)差し出がましいようなことは、やはりあってよいこどではない。昔、(堀川天皇のもとに初めて)出仕したときでさえ、(宮仕えの)晴れ晴れしい(ことに)は思い悩んだけれども、『親たちや(姉の)三位殿(=藤原兼子)などでしなさるようなことを(反対するのもどうか)』と思って、(あれこれ反対を)言ってよいことではなかったので、内心だけは、(海人が刈る藻のように)気持ちが乱れた(ことだった)。本当に、今回(=白河上皇からの命令)も、「私の意志の通りにはならない」とも言ってしまうようなことではあるけれども、あるいは、「(私が出家して)世を捨ててしまった」とお聞きになるとしたら、(白河上皇は)それほどまで(私を)切実に必要ともお思いにならないだろう」と(出家するかどうか悩んで)気持ちが乱れて、さらにもう少し、この数ヶ月よりも悩みが増さった気持ちがして、「(私は)どのような(出家の)機会を得ようか。さすがに、自分で剃髪するようなのも、昔の物語にも、そのようにした人のことを、人々も『いやな心(の人)だ』など言うようで、私の気持ちとしても、本当にそのように(=自分で剃髪するのは嫌な心の人だ)思われることなので、さすがに、本格的に決心することもしない。このようにして自分の心によって、さらに気持ちが弱っていけよ。そうすれば、(心身衰弱を)言い訳
にしてでも(出仕を断ることができる)」と思い続けられて、数日が過ぎると、「(鳥羽天皇の御)乳母たちは、(あなたとは違って)まだ(殿上人ではない)六位で、五位にならないかぎりは、天皇の食事の世話が出来ない状態である。この二十三日、六日、八日が(出仕するのに占いで)良い日(です)。早く、早く、(出仕しなさい)」とある手紙を、何度も(持ってこられて)見るけれども、決心しなければならないという気持ちにもならない。
 「過ぎ去った年月でさえ、私の一身上の悩みの後は、人々の間に混じることができる様子でもなく、見苦しくやせ衰えてしまったので、『どうしようかしら』とだけ思い悩んだけれども、(亡き堀川天皇の)御心に惹かれて、(また、同僚の)人々などの御心にも(惹かれて)、(姉の)三位がそのままで(宮仕えを)続けていらっしゃっるので、「その(姉らの)御心に背かないようにしよう」などと思ったのか、ちょっとしたことにつけても、気遣いをしてばかりで(月日が)過ぎたが、今あらためて出仕して、(堀川天皇と)会った世のように過ごすようなことも難しい。鳥羽天皇は幼くいらっしゃる。『そういう状態で(=堀川天皇と特に親しい状態で)馴れてしまっていた者だ』とお思いになることもあるまい。そのように(月日を)過ごすにつれて、(亡き堀川天皇との)昔のことだけが恋しくて、私をちょっと見かけるような人は、(私の状態を)良いとは思うだろうか、いや、思わないだろう」などと思い続けるうちに、袖が(乾く)合間も無く(涙で)濡れたので(詠んだ歌)、
  (堀川天皇を偲んで涙で)乾く合間も無い、喪服の袂だなあ。しみじみと昔の(亡

  き堀川天皇の)思い出(となる喪服)だと思うと

 


第三問(文30点 理二20)・・・書き下し文は省略

【出典】方東樹『書林楊觶』
 筆者は清代の人。朱子学を信奉して当時流行していた考証学を批判した。『書林楊觶』は著書や著述のあり方を論じた書である。
【設問】
 最近出題が多い政治論ではなかったが、やはり論説的な文章である。漢文の論説的な文章の特徴である対比や対句的な表現が随所に見られ、設問もそれを意識して解くことが要求されている。

(一)平易な現代語に直せ。
「取快 一時」。*訓点は省略
                                      
解答例:ほんの一時的な快楽を求めること。 (理・文とも4点)                                   〇設問のポイント(採点の基準)
1直前の「敷衍流宕、放言高論」という対句的表現との関わりで考える。
2「快」=快楽と訳していること。

「丘 山 之 利 」 訓点は省略
                                                   
解答例:多大な(莫大な)利益  (理・文とも4点)                                                   
〇設問のポイント(採点の基準)
1 「丘山」とは、「ものの数の多いこと」。
2 傍線部直後の「毫末之損」との対句表現から「丘山」を〈高く積もった=莫大な〉

  の意で押さえる。
*直後の「毫末之損」との対句表現が見抜けるかがポイント。

「雖 偏」 *訓点は省略。
                                  
解答例:学問に偏りはあるが。 (理・文とも4点)                                 
〇設問のポイント(採点の基準)
1「雖」は読みに引きずられて「たとえ~としても」と訳したくなるが、ここでは逆接

 確定条件「~だが」と訳すのがよい。
2「偏」は「かたよる」という意味でよい。
3「学術」=「学問」まで解答に入れたい。

 

(二)「著 書立論、必本於不得已而有言」とはどういうことか、簡潔に説明せよ。
   
解答例:著書や論説とは、必ず言わざるを得ない自説が根本にあって為されるのだとい

    うこと。 (文6点・理4点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
1 「已むを得ずして言有るに本づく」の解釈
  「本を書き、論を展開するには、必ず言わざるをえない自説が根本にあるべきだ」
2  直後で筆者が批判している〈不要な・不確かなことまで含めて節度なく述べ立てる

 さま〉との対比を踏まえて、「已むを得ずして」語るべき内容とはどういうものかを

 説明する。
3 「不得已」は慣用表現。
*「言」は「自説」「言説」のことだと理解したい。


文(三)「寒暑昼夜後言」は「君子之言」のどのようなありかたをたとえているか、簡

    潔に説明せよ。
  
解答例:季節や時間に関係なく、日常の全ての場面で疑いなく妥当性を持つありかた。      

    (文6点)     │              
〇設問のポイント(採点の基準)
1「寒・暑」「昼・夜」(=寒い日や暑い日、昼や夜が来ること)の並列をとらえ、傍

 線部と対をなす直後の「布帛菽粟」と後に続く「無可疑、無可厭」(=日常のあらゆ

 る場面)で「君子之言」が疑いなく妥当性をもつさまを説明すること。
*この程度の解答でよいのではないか。

 

文(四)・理(三)「有識者恒病書之多也、豈由此也哉」とあるが、「此」は何を指している

      か、わかりやすく説明せよ。
  
解答例:近年の著作者たちは、自説を論じずに、剽窃して価値のない書物を残している

    ということ。 (文6点・理4点)

〇設問のポイント(採点の基準)
1全体要旨に関わる内容説明の問題。「此」の内容が問われているが、直前に「況~」

 という抑揚(強調)表現が用いられているのでここに着目する。つまり、「剽窃に頼

 る昨今の文筆家の弊害」を踏まえてまとめる。
2「豈不由此也哉」は感動(詠嘆)文と解釈する。「なんとこれが理由ではないか」。
3 傍線部の解釈は、「見識がある者は常に、本が多いことを気に病んでいる。なんとこ

 れが理由ではないか」
  ↓
4 つまり、近年の著作者たちは、自説を論じることなく、剽窃して後世に伝える価値の

 ない文章や書物を書いており、有識者はそうした事態を嘆いているのである。これを

 解答する。
*「自説を論じずに」と「後世に伝える価値のない」の両方を盛り込むと字数が多くな

 る。どちらも入れたいが、解答例では 折衷案とした。意見の分かれるところかもし

 れない。

*基礎的な句形のゆるぎない理解と、語彙力以上に文中の語意を正しく把握する力を駆

 使し、文章全体の中での傍線部として矛盾のない解釈と説明を求めている。

 

★解釈例
 一般的に、本を書き、論を展開するには、必ず言わざるをえない(自説)が根本にあるべきだ。そうしてはじめて、その言葉は妥当であり、その言葉は誠実であり、その言葉は用いる価値がある。だから、君子の言葉は物事の真理にまで到達してやめ、節度なく述べ立てたり、節度なく述べ立てたり、好き放題に議論をしたりして、一時的に快楽を得ることなどしない。思うに、重要でなければ嫌うべきで、根拠が不確かであれば疑うべきだ。既に嫌ってかつ疑っていれば、その本は貴び信じることはできない。君子の言葉は、寒い日や暑い日、昼や夜(が来ることや)、日常の衣服や食物のように、ごく当たり前に受け入れられ、誰も疑うはずはなく、嫌うはずもない。天下の万民は信じてこれ(=君子の言葉)を利用し、丘や山のように大きな利益が得られ、ほんのわずかも損害は被らない。この点で昔や今の文筆家について考えると、差は明らかで、白黒のようにはっきりと異なる。本を書くのにあたって様々な理論を自分の考えに基づかなければ、その著者は単に他人の言葉を勝手に借用して売る者にすぎない。道家や法家の学徒は、学問は偏重しているとはいえ、結局はそれぞれ、自分で世の中の後世にも文章を残し存在している。この意味で、昔の文筆家はやはりこれ(=現在の学問)に自分の文章を残すことができている。時代が下って現在、それができなくて、なんと他人の文章を盗用する者がいる。そもそも、盗用して文章を作ったのでさえ、後世に伝えるには価値が足りない。まして盗用した著作ならなおさらだ。そうして、見識がある者は常に、本が多いことを気に病んでいる。なんとこれが理由ではないか。