「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2023年度東京大学国語第1問 解答解説

2023年度東大国語第一問(文理共通)40点
◆本文展
第1意味段落(①~②)
①仮面・・・人類文化に普遍的にみられるものではない
 ↓(ただ)
②仮面の文化・・・大きな多様性 ⇔よく似た慣習や信念
                遠く隔たった場所で酷似した現象
      ↓
 地域、民族、時代を超えた普遍的な思考や行動のあり方のあらわれ
 ↑(その意味で)
 傍線部ア「仮面の探求は、人間のなかにある普遍的なもの、根源的なものの探求につ     

     ながるかの旺盛をもっている
第2意味段落(③~⑧)
③仮面に共通した特性
  ・・・「異界」の存在を表現したもの
    時間の変わり目や危機的な状況において、異界との一時的な往来を可視化する       

    ために使用
 異界・・・世界を改変するもの/人々の憧憬/来訪者への期待
  ↓
④人びと・・・仮面のかぶり手を歓待/慰撫/痛めつけ
 仮面・・・異界からの来訪者を可視化するもの(A)
 可視化した対象に人間が積極的にはたらきかけるための装置
  ↓
 異界の力をコントロールしようとして創りだした装置(A)
  ↑
⑤そのようなもう一つの装置・・・「心霊の憑依/憑霊」←これまで仮面は憑依の道具
  ↓
儀礼における仮面と憑依との結びつきは、動かしえない事実
  ↓(しかし、その一方で)(B)

⑦神事を脱し芸能化した仮面や子どもたちが好んでかぶる仮面に、憑依という宗教的な 

 体験を想定することはできない
  ↓
 傍線部イ「仮面は憑依を前提としなくなっても存続しうる」(B)
  ↓
⑧仮面は憑依と重なり合いつつも、異なる固有の場を持つ
               =仮面の固有性・・・私たちの身体との関わり
第3意味段落(⑨~⑭)
⑨仮面は素顔の上につけられる
  ↓
⑩変身にとって、顔を隠すこと、顔を変えることが核心的な意味をもつ
 顔は人格の座を占めている」→他者から認知される
  ↓(しかし)

⑪他者が私を認知する要となる顔を私自身は見ることができない
 その顔は私にとってもっとも不可知な部分
  ↓
⑫顔はもっとも大きな変化を遂げている部分
  ↓
⑬もっとも他者から注目され、もっとも豊かな変化を示すにもかかわらず、けして自分 

 では見ることができない顔
  ↓
 仮面はまさにそのような顔につけられる」
 =傍線部ウ「他者と私とのあいだの新たな境界となる
  ↓
⑭仮面はほぼ定まった形を持つ=固定化
  ↓
 自分と他者との新たな境界(=他者との新たな関係)を自分の目で確かめることがで 

 きる
  ↓
 仮面は、変転きわまりない私の顔に、固定し対象化したかたどりを与える
 常に揺れ動き定まることのなかった自身の可視的なありかたが、はじめて固定された
 仮面によってかぶり手の世界に対する関係がそのかたちに固定されてしまう
(=仮面によって固定化、対象化されることで、他者との関係が新たなものになる)
第4意味段落(⑮)
⑮仮面・・・
 傍線部エ「「異界」と自分自身とを、つかの間にせよ、可視的な形でつかみ取るため 

     の装置
「異界」と自分自身・・・自分の目ではけっしてとらえられない(見ることができない)

 

◆設問解説・・・解答例はずべて「この程度書ければ充分」というレベルのものです。
(一)6点
★第1意味段落(1~2段落)。傍線部内容説明問題。傍線部の「その意味で」に留意 

 し、傍線部前後の議論の進め方と対応させて説明する。ほぼ②段落で決着がつくが、 

 本文全体の前提となることを意識したい。1行30字程度で 書くことを勘案し、60字 

 程度で解答を作成する。
解答例
 多様な仮面の文化に類似する信念や慣習を研究することは、地域や民族、時代を超えた普遍的な人間の思考や行動の本質を解明しうるということ。( 65字) 

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 仮面の文化には地域や民族を超えた共通の慣習や信念が認められ、仮面の研究は人類に普遍的な思考や行動を解明しうるということ。( 60字) 

〈K予備校〉
 多様な仮面の文化に見られる類似した慣習や信念を考察することは、地域や民族、時代の違いを超えた人間の本質を探る手がかりとなりうるということ。( 69字) 

〈Y予備校〉
 仮面は一部の地域に特有のものだが、そこに見られる慣習や信念の類似性を通して人間一般に通じる思考や行動の考察が可能になるということ。( 65字) 

〈T予備校〉
 遠隔の地で見られる酷似した仮面の現象は人類の普遍的に持つ思考や行動の在り方の具現と考え得る点で、仮面を研究すれば人類の本質を追求し得るということ。(73 字) 

(二)6点
★第2意味段落(3~8段落)。傍線部内容説明問題。仮面の持つ二つの役割について 

 説明する。
 かつての神事における〈仮面による憑依〉という信念が、現代では希薄化していると 

 いう「歴史的変化」を踏まえて考える。
 A=これまで仮面は神や霊など異界の力を可視化し、コントロールする装置である。
   ↓
 B=神事や憑依といった宗教的な信念を脱しても遊戯や芸能などの場面で変身の道具 

   として使われる
 解答は、「仮面はこれまでAとして使用されてきたが、Bとしても使われている」と 

 いう形になる。60字程度になるように圧縮する。

解答例
 仮面は異界の力を可視化し、制御する憑依の装置として使用されてきたが、宗教的な信念を脱した今日でも変身の道具として使われていること。( 64字) 

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 仮面は、異界の力を可視化し制御する憑依の道具とされてきたが、宗教性を脱しても変身の手段として用いられ続けるということ。(59 字) 

〈K予備校〉
 仮面をかぶった者に神霊が依り憑くことで、その力を活かせるという宗教的信念を脱した今日でも、仮面は芸能や遊戯などの場面で使われていること。( 68字) 

〈Y予備校〉
 憑依と仮面は深く結びつきながらも、仮面は人間の顔や身体を前提として成立する点で、憑依とは独立して存在することが可能だということ。( 64字) 

〈T予備校〉
 仮面は、異界の力を可視化し、その力を統御する装置で、神霊の憑依の道具でもあるが、神霊の憑依という信念が失われても存立し続けるということ。( 68字)

(三)6点
★第3意味段落(9~段落)。傍線部内容説明問題。個人にとっての「顔」のあり方 

 が、「仮面」をつけることでどのよう14に変化するのかを考える。自他の関わりを作 

 り出す、顔と仮面の関係を説明する。
⑩段落「変身によって顔を隠すこと、顔を換えることが核心的な意味を持つ」
   「顔は」「人格の座を占めている」
    (=人格の座として他者から認知される)
⑪段落「他者が私を認知する要となる顔を私自身は見ることができない」
     ↓
   「その顔は私にとってもっとも不可知な部分」
     ↓
⑫段落「顔はもっとも大きな変化を遂げている部分」
     ↓
⑬段落「もっとも他者から注目され、もっとも豊かな変化を示すにもかかわらず、けし 

   て自分では見ることができない顔」
     ↓
   「仮面はまさにそのような顔につけられる」

 =ウ「他者と私とのあいだの新たな境界となる」

     ↓
⑭段落「仮面はほぼ定まった形を持つ」(=固定化)
     ↓
   「自分と他者との新たな境界(=他者との新たな関係)を自分の目で確かめるこ

   とができる」
  =「仮面は、変転きわまりない私の顔に、固定し対象化したかたどりを与える」
   「常に揺れ動き定まることのなかった自身の可視的なありかたが、はじめて固定

   された」
   「仮面によってかぶり手の世界に対する関係がそのかたちに固定されてしまう」
 (=仮面によって固定化、対象化されることで、他者との関係が新たなものになる)
★これらをまとめると、
 顔は人格の座として他者から認知されるが、自分では確認できず絶えず変化するものであり、仮面によって固定化し、対象化されることで、他者との関係が新たなものになるということ。
 ↓
★要素をすべて盛り込むのは困難だが、60字程度に圧縮する。

解答例
 人格の表れでありながら自らは不可知で常に変化する顔に、仮面をつけて固定し対象化することで可視化され、他者との関係が新たになるということ。(  67字)

*参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 人格の座でありながら私には不可知で変化に富む顔に仮面をつけて固定し対象化することで、他者との関係が新たになるということ。(  60字)

〈K予備校〉

 人格の表れとして他者に認知されるが、自ら確認できないまま常に変化する顔が、仮面によって自分にも見える固定した像として他者に示されること。(  68字)

〈Y予備校〉

 人格の核心であり、たえず変動しつつ自分には見えない顔に仮面をつけることで、他者との間に可視的で固定的な別の形が作られるということ。( 65字) 

〈T予備校〉 ( 74字)

 仮面は、他者が「私」の人格を見出していた顔を覆い、そこで表出された人格が「私」であるという認識のもとに、他者との新たな関係が拓かれていくということ。

(四)16点

★第4意味段落(⑮段落)と全体の趣旨を踏まえて、本文末尾に至る展開を説明する。

⑮段落「自分の目ではけっしてとらえられない二つの存在」=「異界」と「自分自身」
★仮面と「異界」との関係については、(二)で触れたように、③~⑤段落で説明され 

 ていた。
 ③段落「世界を改変するものとしての異界の力」
 ④段落「仮面は異界からの来訪者を可視化するもの」+「可視化した対象に人間が積

  極的に働きかけるための装置」
 ⑤段落「仮面が・・・異界の力を可視化し、コントロールする装置」
解答要素1・・・仮面は、世界を改変する力を持つ異界を可視化し、人間が積極的に働き

       かけ制御するための装置
★仮面と「自分自身」との関係については、(三)で触れたように、⑩~⑭段落で説明 

 されていた。
 ⑩段落「顔は・・・人格の座を占めている」
 ⑪段落「顔を、私自身は見ることができない」「顔は・・・最も不可知な部分」
 ⑭段落「仮面は、変転きわまりない私の顔に、固定し対象化したかたどりを与える」
    「常に揺れ動き定まることのなかった自身の可視的なありかたが、はじめて固 

    定された」
解答要素2・・・仮面は、人格の表れでありながら自らは不可知で変化に富む顔を可視

       化、固定し、対象化するための装置
  ↓
★解答要素1、2から、仮面と「異界」「自分自身」二者に共通する関係は、
「自分の目では捉えられない不可知のものを仮面によって可視化し、制御するための装置」
とまとめることができる。
★そして、このような役割を持つ仮面は、冒頭の②段落で、
「人類に普遍的な思考や行動のありかたのあらわれだ」
「人間のなかにある普遍的なもの、根源的なものの探求につながる」(傍線部ア)
と述べている。・・・解答要素3
★「つかの間にせよ」の説明は、冒頭①段落で、
「仮面はどこにでもあるというわけではない」
「日本の祭りに常に仮面が登場するわけではない」
「仮面は、人類文化に普遍的にみられるものではけっしてない」
と述べているので、「一時的なもの」「限定的なもの」と説明することができる・・・解答要素4
 ↓
これらをまとめると、
 世界を改変する力を持つ異界や、自分には見えないが変化に富み人格を表す顔のように、人間の目では捉えられない不可知のものを限定的にせよ仮面によって可視化して固定し、対象化して制御することによって、人間は自己のなかにある普遍的なもの、根源的なものへの探求をするのだということ。
 仮面は世界を改変する力を持つ異界の存在を可視化し、人間が積極的に働きかけ制御するための装置であるとともに、人格の表れでありながら自らは不可知で変化に富む顔を可視化、固定化するための装置であり、限定的にせよ自分の目では捉えられないものを対象化しようとする人間の普遍的な、根源的なものへの探求に関わるものだということ。
 ↓
120字に圧縮する
解答例①
 世界を改変する力を持つ異界や、自分には見えないが変化に富み人格を表す顔のように、人間の目では捉えられない不可知のものを限定的にせよ仮面によって可視化し、対象化しようとする点に、人間自身の普遍的な、根源的なものへの探求がうかがえるということ。(120 字)
解答例②
 仮面は世界を改変する力を持つ異界の存在を可視化し、人間が制御するための装置であるとともに、自分では不可知な顔を固定し対象化するための装置であり、限定的にせよ自身の目に見えないものを制御しようとする人間の根源的な欲求に関わるものだということ。(120 字)
 *参考 大手予備校の解答例
〈S予備校〉
 仮面は、異界の存在を可視化し人間が積極的に働きかけるための装置であるとともに、自身の顔という不可知で変化に富むものを固定し対象化する装置であり、自分の眼では捉えられないものを何とか制御しようとする人間の根源的な欲求に関わるものだということ。
〈K予備校〉
 世界を改変する力を持つ異界や、自分には見えぬまま人格を表す顔のように、人間の存在を左右しながら人間には不可知なものを、一時的にせよ、仮面によって可視化し制御することで世界や自己を変えようとする点に、人間の根源的な思考や行動がうかがえること。
〈Y予備校〉
 仮面は異界の存在を可視化し、世界を変えうるものとしてそれらに積極的に働きかけ、コントロールすることを可能にする装置であり、同時に自らの人格の中核であり、常に変動しつつ自分では見ることのできない顔を可視化し、固定化する装置でもあるということ。
〈T予備校〉
 人知の及ばぬ世界の力を可視化してその統御を目指す、また人の人格が表れるのに当人には不可視で絶えず変化する顔を覆って固定化する仮面は、人間には不可視のものに一過的にでも定まった形を与えて可視化して、世界との新たな関係をもたらしうるということ。
(五)6点
a狩猟 b遂 c衝撃