「天晴」塾~大学受験国語~

主に国立難関大学の国語の入試問題を解説します

2023年度東大国語第2問(古文)・第3問(漢文) 解答解説

2023年度東大国語 第2問(古文)・第3問(漢文)解答解説

第2問古文(文科30点・理科20点)・・・解釈例は省略
★東大の古典で要求されていると考えられる力
①現代語訳の力
 →直訳・逐語訳が基本だが、適宜言葉を補ったり意訳したりして整える必要もあると 

  考えられる。最終的に、内容が読み取れていることが示せなければ評価されない。 

  現代語訳の問題を含めて全ての設問の根底にこの現代語訳がある。
②基本的な読解力
 →主語判定の技術(敬語や接続助詞に適宜着目する)や和歌の読解の技術などがしば  

  しば要求される。
③背景知識(文学史や古典常識)や文章構造(対比・対応など)から細部を推理する力
④設問への対応力
→設問の要求にきちんと答えて答案を作る力(→対話能力)と、設問のタイプに応じて 

 合理的に解答を導いていく力とに分けられる。
⑤総合的な言語運用能力
→自分が使う言葉を客観視できるかどうか(きちんと相手に伝わる表現になっているか

 どうか)、「言葉の位相」を的確につかんだ上で語句の意味、内容を読み取ったり、

 答案をまとめたりできるかどうか。

(一)現代語訳の問題
 東大の現代語訳の問題は、基本的に、(一)が指示なしの現代語訳、それ以外は指示付きの現代語訳である。指示なしだからといって、ことばを補ったりする必要がないというわけではない。採点者に内容が読み取れていることを伝えるのが第一義である。なお、2023年度は指示付きの現代語訳は出題されなかった。
解答

ア・・・お与え下さい。貴僧の耳を買おう。(3点)
 →3点=「たべ」(「たぶ」=「たまふ」)の訳・・・2点、「御坊」の訳(「あなた」

  でも可)・・・1点、「買はん」の訳・・・1点(減点法)。
 ※尊敬動詞「たぶ」(たまふ→たうぶ→たんぶ→たぶ)の意味を知らない東大受験生 

  はいないと思われる。尊敬語が命令形の場合は依頼文で訳す。
イ・・・耳だけは福相がおありになるけれど、そのほかは福相が見えない。(4点)
 →4点=「ばかり」の訳(限定「だけ」)の訳・・・1点、係助詞「こそ~已然形、」(逆

  接)の訳・・・2点、「おはす」(尊敬)の訳・・・1点(減点法)
 ※これも平易な問題なので、落としたくない。
ウ・・・私に代わって出向いて下さいよ。(3点)
 →3点=「予」の訳(「私」)・・・1点、「給へ」の訳(補助動詞だがアの「たべ」と同

  様に尊敬語の命令形)・・・ 1点、「かし」の訳(念押し)・・・1点(減点法)。
 ※これも平易な問題なので、落としたくない。

(二)条件付き現代語訳問題(文科のみ)
 ★「得」の意味と「何れ」の内容の補いに注意する。(注)からの情報も利用する。
解答(5点)

 大般若経の読誦による祈祷も逆修も、どちらも私が得意としているところである。      

 →5点=「何れ」の中身・・・採点の前提(「大般若経の読誦による祈祷」「逆修」の両

  方が書けていること)、「得」の訳・・・1点、「なり」の訳・・・1点(減点法)。

(三)理由説明問題(理科(二))
 ★状況に注意して直前の二つの引用文の内容を中心にまとめる。
 解答(5点)

 酒好きの信仰心の薄い僧と思われて、布施を減らされたくなかったから
 →5点=「酒好き」「信仰心が薄い」・・・2点、「布施を減らされたくなかった」・・・

  3点(減点法)。その他の不備は適宜1〜2点減点。
 ※傍線部の直前「大方はよき上戸にてはあれども」「酒を愛すと云ふは、信仰薄から

  んと思ひて」の解釈と、「いかにも貴げなる僧ならん」と思った理由についての理

  解が求められている。後者は、「遠路を凌ぎて、十五貫文など取り候はんより、

  一日路行きて七十貫こそ取り候はめ」が根拠となる。布施を減らされるのを恐れた

  と考えるのが妥当であろう。

(四)条件付き現代語訳問題(文科のみ)
 解答(5点)

  神主の妻子は、神主を死なせた僧にかえってあれこれ申し上げるようなことがなく

  

 →5点=「中々」(かえって)の訳・・・1点、「中々」の状況の説明・・・2点、「申す 

  ばかりなくして」の動作主体・・・1点、訳・・・1点(減点法)。その他の不備は適宜

  1〜2点減点。
 ※どういう状況を「中々」と言っているのかつかむのが難しかった。「中々」の解釈

  自体もできなかった受験生が多いと思われる。「申す」の主体は、直前に「女房、

  子供」とあるので、「妻子」「家族」とする。

(五)内容説明問題(理科(三))
 解答(5点)

 耳を売った僧がより多くの布施を求める欲深い心を持つようになったということ
 →5点=「心」の内容(「多くの利益、布施を求める」「欲深い、心の穢れた」)・・・

  3点、動作主体・・・2点(単に「僧」のみの解答は1点(加点法)。
 ※仏教説話であることに注意して、耳たぶを売った僧侶の「心が卑し(い)」とはど         

  のようなことを意味するのかを考え、前の部分から要点を抽出してまとめる。

第3問 漢文(文30点理20点)・・・書き下し文・解釈例は省略
【出典】『貞観政要
 唐の太宗が政治論を語る文章。政治論に関わる文章は一昨年から3年連続である。古来、先見の明があると称えられる、何曽が国家の乱れを予見したという逸話に対して、太宗が、皇帝の過ちに気づいたならば諫めて正すべきだと批判していることを読み取る。
【設問】
 基本的句形、重要語の知識を身につけるのは当然だが、漢字や熟語の広い知識を意識して養っていくことが必要である。問題文としては逸話的な文章と論説的な文章の双方が出題されるが、最近は論説的文章の出題が多い。また、数年おきに漢詩が出題される。
(一)平易な現代語に直せ。
 b 「前史美之。」*訓点は省略
 解答 前代(過去)の歴史書は何曽を賛美(称賛)し、(理・文とも4点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
 1「美」(動詞)を、「賛美」「称賛」と正しく訳していること。
 2「之」を「何曽」と正しく指摘していること。
 *「前史之を美とし、」と読む。
 *直下の「(何曽のことを)先見の明があったと見なした」から推測する。
 c「直辞。」*訓点は省略
 解答 言葉を包み隠さず正直に。(理・文とも4点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
 1「直」は、ここでは形容詞なので「なおし」と読み、「正直」「素直」の意。(動 

  詞ではない。)
 2「辞」は名詞なので、「言葉」「文章」の意味。
 *「辞に直く」と読む。
 *前後の文脈から、臣下は皇帝の過ちを正しく諫めるべきだ、という主張が読み取れ 

  る。
 *「直」「辞」は品詞が分かれば、どちらも基本的な語彙力で解答できる。
d「佐時。」*訓点は省略。
 解答 その時代の政治(治世)を補佐する(支える)。(理・文とも4点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
 1「佐」は動詞なので「たすく」と読み、「補佐する」の意味。これは基本的。
 2「時」は名詞。「時代」では不十分。本文は政治論なので、「治世」「政治」の語

  がほしい。
 *「時を佐く」と読む。
 *「時」の解釈は難しかったかもしれない。

(二)「爾身猶可以免」を、「爾」の指す対象を明らかにして、平易な現代語に訳せ。
 解答 息子の劭よ、おまえ自身はまだ災難を免れる(避ける・逃れる)ことができる

    だろう。(6点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
 1「爾」(二人称)を「劭」と訳せていなければ0点。「息子の」はなくても許容。
 2「猶」は返り点がないので再読文字ではなく副詞。「やはり・その上」という意味

  だが、直後の文(孫たちは戦乱に巻き込まれて死ぬだろう)との対比で考えると、 

  「まだ」と訳したい。
 3「可以」は可能の表現。「~すべきだ」ではない。
 *「爾の身は猶ほ以て免るべし」と読む。
 *「爾」は「劭」のことだと見つけるのは簡単。「猶」を「まだ」と訳すのは難しか

  ったかもしれない。

文(三)「後言」とあるが、これは誰のどのような発言を指すか、完結に説明せよ。
 解答 何曽の、武帝が政治の話をまともにしようとしないので、国は将来混乱するだ

    ろうという陰口。(文6点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
 1「誰の」=「何曽」が不正解の場合は0点。
 2「武帝が国政を顧みない」「晋の治世は長く続かないだろう」でも可。
 3「後」=「陰口」が書けていないと3点。
 *内容説明問題。傍線部を含む文が、「退~」「進~」という対比となっているの

  で、「後」が「その後」ではなく「背後」の意味であることを読み取る。「陰口」

  は解答しづらいと思われる。

文(四)・理(三)「顚而夏不扶、安用彼相」とあるが、何を言おうとしているのか、本文の

      趣旨を踏まえてわかりやすく説明せよ。
 解答 皇帝が政治上の過ちを犯したとき、それを諫めようとしない何曽のような補佐

    役は不要だということ。(文6点・理4点)
 〇設問のポイント(採点の基準)
 1全体要旨に関わる内容説明の問題。太宗が、何曽の言動に対して、皇帝の過失がわ

  かっているならそれを諫めて正すべきだと批判していることを読み取る。
 2傍線部自体の内容を正しく理解した上で、太宗の発言を説明していること。
 3「顛」(たおれる)=皇帝(君主)の過ち。「安」は反語なので、「安用」=「不

  用」(=不要)ということになる。説明問題なので、反語をひっくり返した解答を

  しないといけない。
 

*基礎的な句形のゆるぎない理解と、語彙力以上に文中の語意を正しく把握する力を駆 

 使し、文章全体の中での傍線部として矛盾のない解釈と説明を求めている。